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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第六十三話 逃げ出して

ふと我に帰った時、私は自分がどこにいるのか分からなくなっていた。


土地勘がほとんどない場所で何も考えずに走り回ればこうなるのは当然だった。


いつの間にか日もだいぶ傾いてきていて、街灯がつき始めていた。


「何をやってるんだ、私は‥‥」


冷静になるにしたがって、だんだんと自己嫌悪の気持ちが強くなっていた。


洋服売り場で楽しそうに笑う悠の姿を見て、私は嫉妬していた。


別に、今までだって葉や奏に笑いかけていたことは何度もあった。


でも、今回は‥‥まるでデートのような雰囲気で、しかも、この前悠にちょっかい出していた女性もいた。


だからつい、あんな風に、苛立って悠に当たってしまった。


自分で嫉妬だと気がついていた。


でも、自分の気持ちを抑えられなかった。


「最悪だな‥‥私‥‥」


悠は私のこういう部分もひっくるめて好きだと言ってくれた。


だけど、このままじゃいつか嫌われてしまうかもしれない。


それだけは‥‥絶対に嫌だった。


でも‥‥悠が、私以外の誰かに、私の知らない誰かに笑いかけるのも嫌だった。


さっきから、ずっとそのことばかりがずっと頭の中でぐるぐる回っていた。


「どうすれば‥‥いいんだ‥‥?」


「何一人でぶつぶつ言ってるんだ?」


私が頭を抱えていると、急に後ろから声を掛けられた。


振り向くと、日曜日にも関わらず制服を着た八雲が立っていた。




私は八雲に案内され、八雲の家に(厳密に言うと、体育祭の打ち上げをした喫茶店に)連れて来てもらった。


私は八雲と共に、かなり盛況な店の四人掛けのテーブル席に座らせてもらった。


私は今までのいきさつを全て八雲に話した。


私が話している間、八雲はずっと黙って何かを考えているようだった。


私が話終わった後、しばらく沈黙が続いた。


先に口を開いたのは八雲だった。


「それで‥‥二宮はどうしたいんだ?」


「それが分からないから――」


苦労してる。


私がそう言う前に、八雲はふぅ、と溜め息をついた。


「俺には二宮が何で迷ってるのか理解出来ないけどな」


「じゃあ八雲なら‥‥どうするんだ?」


私が訊くと、八雲はコップに入った水を少し飲んでから私の顔を見ながら答えた。


「二宮が思ってること、全部悠に言う」


「そんなこと‥‥っ!」


「出来るわけない? 何でだ?」


「それは‥‥」


「もしかして‥‥嫌われたくないとか思ってるのか?」


八雲が私の心の中を読み取ったかのようなことを言う。


私が黙っていると、八雲はまた溜め息をついた。


「悠なら、そんなことくらいで二宮のこと嫌いになったりしねぇって」


そんなことは‥‥とっくに分かってる。


だが、それでも‥‥


「私は‥‥嫉妬は、憎悪に次ぐ、人間に忌むべき感情だと‥‥そう教わってきた。嫉妬で‥‥壊れていく関係をいくつも見てきた‥‥」


八雲は黙って私の話を聞いていた。


「‥‥怖いんだ。私も‥‥そうなるんじゃないかって‥‥」


私の声は、震えていた。


「その話、悠には‥‥」


私は首を横に振る。


「言ってない‥‥」


「そうか‥‥なら、さ‥‥悠を信じて、全部言ってみろよ。そんな怖がってばっかじゃ何も変わらねぇ。そんな上辺の付き合いなんて、嫌だろ?」


「それは‥‥でも、これは‥‥私の、我が儘だから‥‥」


「我が儘言っちまえばいいじゃねぇか」


八雲は事も無げに言ってのける。


「そ、そんなこと‥‥」


「言うだけならタダだろ? 二宮の要望を飲むか飲まないかは悠次第だし」


「それは‥‥」


そうかもしれないが‥‥


「ってか、付き合ってたら多かれ少なかれ我が儘言うもんじゃねぇの? 二人の考えが違ったら、どっちか必ず折れるだろ? 人と付き合ってくなら、多少の我が儘はしょうがないだろ‥‥それとも何か、悠はそんなことくらいでお前を嫌いになるみみっちい男だとでも思ってんのか?」


「それは……」


「っと、噂をすれば影、だな」


私が言いかけると八雲はそう言って笑った。


その直後、店の扉が勢いよく開き、息を切らした悠が店に飛び込んで来た。


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