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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第六十二話 隠し事

悠のバイト先に行った三日後の日曜日、私は奏と共に総合スーパーに買い物に来ていた。


「悠、今日もバイトなのか?」


「バイトじゃないが、今日は無理と言われた。だから奏に付き合っているんだが」


奏に非がないと言うことは分かっていたが、どうしても苛立ちが募り、言葉が刺々しくなる。


奏も分かっているのか、私を咎めるような事は言わなかった。


「で、何を買うんだ?」


「日用品とか化粧品とか‥‥後は服かな。夏物そろそろ買わなきゃだし」


「そろそろって‥‥もう7月だぞ? まだ衣替えしてなかったのか?」


店内は既に夏休みモードに入っている。


「衣替えはしたけど‥‥もう一着外出用のが欲しいんだよ。真鈴と違って頻繁にデート出来るわけじゃねぇいから、数少ない機会には精一杯お洒落したいだろ?」


「‥‥私達だって頻繁にデートなんてしていないが」


頻繁どころか、ゴールデンウイークに一緒に出かけて以来、週末は奏や葉、十文字ら複数人で遊んでいたから二人きりのデートなんて一度もなかった。


「へ、そうなの? せっかく二人共帰宅部なのに勿体ないな」


奏はかなり意外そうな表情をする。


「奏は‥‥八雲とあまり遊べなくて寂しくないのか?」


私が訊くと、奏は珍しく悲しそうな、暗い表情になった。


「寂しくないわけねぇだろ? 俺だって真鈴達みたいにいつでもべたべたしたいって思ってる。だけど、俺の我が儘で八雲はこの学校に来ることになったんだから‥‥」


「‥‥我が儘?」


「ああ、八雲は普通に甲子園に行けるような高校からスカウトされてたんだよ。だけど、俺がこの学校がいいって行ったから、八雲もこっちに来てくれたんだ。あいつの夢から‥‥離れさせちまったし、そのくらい我慢しないとな。まぁ、遠恋って訳じゃねぇし、時間があれば結構一緒にいるけどな」


奏はそう言ってニヤッと笑う。


だが、その笑みにはどこか無理矢理作っている感じがした。


聞かなければよかったと、後悔する。


奏はそんな私に気付いたのか、背中をバシンと強く叩く。


「なーに辛気臭い顔してるんだよ! 別に俺は気にしてないぜ? 真鈴達と遊ぶのも楽しいからな」


「‥‥そうか」


本気でそう思ってくれているなら‥‥私でも、奏の為になれているのなら、嬉しい。


「ありがとう、奏」


私がそう言うと奏は照れたのか、また私の背中を強く叩いた。




一時間ほどで奏が探していた物は殆ど買い終わり、残りは服だけになった。


「服はどこで買うんだ?」


「ああ、一軒お気に入りの店があって‥‥」


奏はそう言って鼻歌まじりでやや早歩きで進む。


よっぽど楽しいのか今にもスキップしそうな勢いだ。


何となく微笑ましい光景に、少し頬が緩むんだ。


そんな時だった。


「ほらっ! 悠にぴったり!」


「なんで僕に合わせるんですか!? 真面目に探して下さいよ!?」


「でも、本当に似合ってますね‥‥」


「流石ショタ執事‥‥」


千賀さん、悠、葉、そして悠のバイト先で悠にキスをした客の順に声が聞こえた。


辺りを見渡すと、女性用の服を専門に売っている店に四人の姿があった。


考えるより先に、体が動いていた。


気がついたら、バツが悪そうな表情をした悠が、目の前に立っていた。


「悠‥‥何でここに?」


「えーっと‥‥その‥‥あの‥‥」


悠の目が泳いでいる。


「あーっと‥‥」


「これは、その‥‥」


葉も千賀さんも目が泳いでいる。


「この子の服を選びに来たのよ」


三人が唸っている中、唯一黙っていた客だった女性が葉の肩をポンと叩きながら言った。


「葉の‥‥?」


「あ、えっと‥‥」


悠があたふたしだす。


「私の誘いを断ってか?」


「いや、別に、そういうわけじゃなくて‥‥三神さんの方に先に誘われてただけで」


何となく面白くない。


だんだん苛立ちが募ってくる。


「だったら、最初からそう言えばいいじゃないか?」


「それは‥‥そうだけど」


悠はどうも歯切れが悪い。


「何か‥‥隠してないか?」


私が訊くと、悠ではなく葉がびくっとした。


「やっぱり‥‥何か隠してるんだな」


「別に隠してなんてないよ。言ったでしょ? 真鈴には嘘つきたくないって」


悠はそう言って微笑む。


「どうかしたのか、真鈴? ってか、何で皆いるんだよ?」


先に行っていた奏がいつのまにか私の後ろに来ていた。


「‥‥いや、なんでもない。行こう」


「へ? でも悠達」


「いいから!」


私は思わず大きな声を出していた。


はっと気がついた時には、千賀さんも奏も葉も、そして悠も驚いたような顔をしていた。


急に羞恥の気持ちが湧いて来た。


気付いた時には、私は店から逃げていた。


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