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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第五話 妹と二人

二宮さん由香が仲直りしたすぐ後、二宮さんは帰って行った。


本当は送って行こうと思ったのだけど、二宮さんに「一人で帰れる」等、結構強い口調で言われたので、玄関まで見送るだけにした。


そして今、由香と共に夕食を食べ終わった所だ。


「ごちそうさま」


「美味しかった?」


僕が頷くと、由香は嬉しそうに鼻歌を歌いながら皿を洗い始める。


この家で料理を作るのは由香の役割だ。


二宮さんには勘違いされてたけど、僕と由香はそもそも両親と一緒に暮らしていなくて、二人で両親とは離れた所で暮らしている。


だから、必然的に家事を全て二人でやらなくちゃいけない。


由香は今年中学3年生になり、部活と勉強で忙しいはずなのだけど、いつも自分と僕の料理を三食全て作ってくれる。


「いつも、ありがとね」


「いいって。掃除と洗濯はいつもやってもらってるんだから、本当はこっちの方が感謝しなきゃなくらいだよ」


由香が食器を洗いながら言う。


「じゃ、風呂入って来るね」


僕はそう言って席を立った。




この家は2LDK風呂トイレ付きのマンションだ。


広さもまぁまぁあるのだけど、僕達は訳あってタダで住んでる。


「ふぅ‥‥」


僕は湯舟にゆっくり浸かりながら、今日のことを振り返る。


「色々ありすぎたな‥‥」


時間にすると僅か3時間程度のことなのだが、今までの人生で一番濃い3時間だった。


告白されて、気絶して、押し倒されて、首しめられて、キスして‥‥


「‥‥なんだか先行き不安だな‥‥」


まず一番の問題は、二宮さんの知識不足だった。


勿論僕だって異性と付き合ったことはないから付き合うとか、そういうことはよく分からないけど、二宮さんはそれに輪をかけてひどい。


奏が何を教えたのか分からないけども、また余計なことを山ほど教えられたのだろう。


少なくとも、あんなに力いっぱい抱きしめる人はいない。


おかげで死ぬところだった。


それに、いきなり彼氏の家で彼氏を押し倒すのはどうなんだろうか‥‥


キスだけでなく、危うく――


‥‥思い返すだけで恥ずかしくなって来る。


毎回あんなことをされてると、身体がもたない。


それに二宮さんはおそらく自分では気付いてないだろうけど学園一の人気を誇る生徒だ。


そんな学園のアイドルなんかと付き合ってるとバレたら‥‥下手したら袋だたきかもしれない。


それは大変に面倒くさい。


「どうしようかな‥‥」


「何が?」


「ぬぅおあ!?」


いつの間にか、浴槽の隣に制服を脱いで、Tシャツとパンツだけの姿になった由香が来ていた。


「おまっ、勝手に入って来るなよ!」


「何度呼んでも返事しない悠が悪いんでしょ‥‥で、何考えてたの?」


「由香には関係ないことだから」


言ったら由香怒りそうだし。


「へー、そういうこと言うんだ‥‥」


由香はそう言ってシャツを脱ぎ始めた。


「な、何やってんだの由香!?」


「脱いでるの」


いやそりゃ分かるけど!


「なんで脱いでるんだよ!? 僕まだ入ってるんだけど!」


「だって悠が秘密にしちゃうんだもん。だったら私は体で聞くしかないじゃない?」


こいつ何言ってるの?


「どう? 言う気になった?」


裸になった由香が聞いて来る。


勿論答えたら怒るだろうから、答えないけど。


「言わない。だからさっさと服着な」


「むぅ~強情だな~じゃあもっと‥‥」


由香はそう言いながらゆっくり湯舟に入って来た。


「お、おい! 入るなら僕が上がるまで待って!」


「嫌。悠と一緒じゃなきゃ意味ないもん。悠は私と一緒じゃ嫌?」


「嫌。狭いし」


さすがに湯舟の中にそれなりの大きさの二人も入ると、かなり狭い。


「じゃあこうすればいいじゃん」


由香はそう言って僕を引き寄せて自分の足の上に乗せ、抱きしめる。


「な‥‥おい、由香!」


「も~、悠ってば必死になって‥‥可愛い!」


由香がさらにきつく抱きしめる。


つまり、その‥‥胸が、首の後ろにちょうど当たるんだよね。


「やめろ、離せ!」


「教えてくれたら離すよ。ほら、離して欲しかったら話なさい」


「しょうもないこと言ってないで離せ!」


「絶対嫌。悠抱き心地最高だし、それに‥‥焦ってる悠可愛いし」


由香は僕の頬をつんつんつつく。


「いい加減にしないと怒るぞ」


「私はもう怒ってるんだけどな~。早く言わないと‥‥襲っちゃうよ?」


「な‥‥何言ってんだ!」


僕が焦ってそう言うと由香はクスクス笑う。


「冗談だよ。あ、それとも本当にやって欲しい?」


「‥‥馬鹿なこと言ってないで早く離してくれ」


いい加減疲れてきた。


「嫌‥‥私のこと忘れないように、骨の髄まで私に染まるまで離さない」


急に由香の口調が真剣な口調になる。


「由香‥‥?」


「‥‥二宮さんのこと考えてたんでしょ?」


もうバレてるし。


僕が正直に頷くと、由香はため息をついた。


「二宮さんのこと‥‥好きなの?」


僕はもう一度、正直に頷いた。


「私より?」


「由香の好きと、二ノ宮さんの好きは、意味が違うから‥‥」


「そう、だよね‥‥妹だもんね‥‥」


由香はそのまま黙り込んだ。


由香がこんなことをしてる理由が分かった気がした。


「‥‥大丈夫だよ。由香も大事にするから」


「え?」


「心配しなくても、僕は由香を忘れたりなんかしないよ。家にいるときはずっと一緒にいる。それはこれまでと変わらない。そりゃ二宮さんよりって訳にはいかないけど、由香も、二宮さんと同じくらいに大事だから。由香の願いはできるだけ叶えたいし、由香のことは守りたい。由香には笑顔でいて欲しいからね」


でも、こんな恰好じゃ説得力ないかな?


「‥‥悠‥‥ありがと」


由香はそう言って僕の頭に顎を乗せた。


「‥‥悠は‥‥優しすぎるよ‥‥二宮さん、きっと嫉妬しちゃうよ」


「え?」


「悠は、みんなに優しいから‥‥家族とか他人とか、男とか女とか、全然関係なく。でも、それってきっと二宮さんからしたら不快だよ。私も悠が他の人の仲良くしてると苛々するもの」


「二宮さんはそんな――」


人かも知れない。


三神さんと話す時、二ノ宮さんは苛々してたから。


「気をつけてね、悠‥‥」


「うん、ありがと」




その後すぐに、由香は僕を解放してしてくれた。


なんだかんだで20分近く入って、僕はのぼせかけてた。


「悠‥‥大丈夫?」


「気持ち悪い‥‥」


僕はソファーで横になり、由香がドライヤーで髪を乾かしてくれている。


「ごめんね‥‥?」


「いいよ、気にしなくて」


僕が由香の方を向いて笑みを見せる。


ちょうど髪を乾かし終わったようで、由香はドライヤーのスイッチを切った。


「‥‥ねぇ、ひざ枕させて。いい?」


「別にいいけど‥‥」


それってこっちが言うことじゃないのか?


そんな僕の疑問を気にすることなく、由香は僕の頭の下に足を入れる。


「悠の髪ストレートで綺麗だよね、うらやましいよ」


「そう? ってか由香だってそうじゃん」


「悠はそれより綺麗なの」


二人して髪を褒め合う兄妹‥‥何をしてるんだろうね?


いや、僕達のことなんだけど。


その後も由香は僕のことを褒めちぎる。


「‥‥ねぇ、悠」


「今度は何?」


「一緒に寝ていい?」


「ダメ」


いきなり何言い出すんだ。


「‥‥さっき願いを叶えてくれるって言ったじゃん」


由香が泣きそうな目で僕を見る。


「出来るだけって言っただろ? 由香は一緒に寝ると襲ってくるからダメ」


未遂だけど、実際にあったんだよね。


「‥‥ひざ枕して、褒めちぎて気分よくしたから良いって言うと思ったんだけど‥‥」


あ、さっきまで(ひざ枕は今もされてるけど)のアレはそう言う意味だったのか‥‥‥


「ねぇ、どうしてもダメ? 絶対襲わないから」


「この前も同じこと言ってたけど‥‥襲ってきたよね」


「う‥‥」


「じゃあ、僕寝るから」


そう言って立ち上がろうとすると、由香にまた抱き着かれる。


「‥‥一緒に寝て良いって言うまで離さない」


その声はもう泣きそうになってた。


「‥‥分かったよ、良いよ、一緒に寝ても」


「本当!? やった!」


由香が手を離す。


「絶対襲ってくるなよ?」


「うん!」


由香が満面の笑みで答える。


まぁ結局のところ、僕は由香の泣く姿を見たくないわけで。


由香の言うことを聞いちゃうんだよね、いつも。




ちなみに、由香は珍しく僕の言うことを聞いて、普通に寝させてくれた。


自分が寝るまで色んな事を話し続けるのは、勘弁して欲しかったけど。

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