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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第五十六話 打ち上げ

「それじゃあ、白軍の優勝を記念して‥‥かんぱーい!」


千夏さんがコップを上げ、皆もそれに合わせ一緒に上げる。


僕達白軍は午後の競技で巻き返し、最後は大逆転で優勝した。


その後奏が、八雲を応援しにきていた八雲の母親、早苗さなえさんが経営するお店で打ち上げをしようと言い出し、早苗さんは二つ返事で了承してくれた。


「急にお願いして、すいません」


「いいのよ、どうせ休みだったんだから」


僕が謝ると早苗さんが笑顔で答えてくれる。


「八雲さんのお母さん‥‥お若いんですね」


三神さんが早苗さんを見て言う。


実際何歳かは分からないけど、何も言わなかったら八雲の姉と言っても通用するくらい見た目は若い。


「ふふ、ありがと。でも、あなたのお母さんも見た目よりかなり若いと思うわよ?」


早苗さんが悪戯っぽく笑う。


「知り合いなんですか?」


「昔ちょっとねー。詳しくは本人に訊いて」


僕が訊くと早苗さんの笑みが苦笑いに変わる。


何があったんだろう‥‥?


「それにしても‥‥兄妹仲が良いわね、相変わらず。彼女嫉妬しちゃうんじゃない?」


「嫉妬はしない」


早苗さんに訊かれ、真鈴はぶすっとしたまま答える。


この店に入ってから、由香がずっと僕の隣に座っている。


もちろん、逆側には真鈴が座っている。


「そのわりには、殺気じみた物を感じるんだけど?」


「‥‥気のせいだ」


絶対気のせいじゃない。


「ふーん‥‥まぁ、それならいいんだけどね。女の嫉妬ってなんもいいことないわよ? ただ男にうざかられて嫌われるだけ」


「嫌ったりなんてしませんよ」


僕がそのくらいで真鈴を嫌いになるわけがない。


そういう部分も引っくるめて僕を真鈴を好きになったんだから。


「あら‥‥悠くん、彼女にぞっこんなのね。まぁ、これだけ綺麗な人なら分からなくもないけど」


「早苗さん、真鈴のこと知ってるんですか?」


「奏ちゃんに訊いたのよ。会ったのは今日が始めてだけど。今でも、悠くんのこと楽しそうに話してるわよ」


早苗さんが複雑な表情で、多分何の気無しに言った一言にドキッとする。


真鈴をちらっと見ると、先程までと変わらない。


とりあえずホッとする。


ちょうどその時、店のドアが開いた。


「あ、すいません、今日貸し切りで――」


早苗さんがそこまで言って止まる。


店の中に入って来た男の人は城羽学園の制服を着ていた。


「いえ、申し訳ありませんが客ではないんですよ‥‥」


男の人がにこやかに笑う。


「会長が何で‥‥」


僕達から少し離れた所に座っていたモモさんが驚いている。


「打ち上げで飲酒等の犯罪行為がないか見回りに来ただけです‥‥あ、心配しなくても、僕が勝手にやってるだけですから、生徒会の仕事ではありませんよ」


生徒会長――溝口孝太(みぞぐちこうた)さんは爽やかな笑顔を浮かべたまま言った。


「まぁ、ここは大丈夫そうですね。保護者の方もいらっしゃいますし」


溝口さんはそう言って振り向きかけ、何かを思い出したような顔でまたこちらを向いた。


「一之瀬君、ちょっといいかい?」


溝口さんはそう言って周りを見た後、「」で話がしたいんだけど」と付け加えた。


「別に構いませんけど‥‥」


「じゃあ、ちょっと借りるね」


溝口さんが真鈴と由香に言い、外に出ていく。


僕も後を追って外に出た。




外では、溝口さんが真剣な表情をしていた。


「僕がどうか‥‥したんですか?」


「二宮君の事件を隠蔽しようと指示したのは君かい?」


ドキッとした。


一瞬で体内の熱が全て奪われたように感じた。


この人は‥‥真鈴が誘拐されたことを知ってる。


「何のことですか?」


僕はとぼけた。


自分の感情を隠すのには慣れている。


「白を切っても無駄だよ?」


溝口さんはそう言って笑う。


今までの笑みと違って表情の裏に敵意に似た黒いものが見え隠れする。


ただ笑っているだけのはずなのに、とんでもない威圧感がある。


「‥‥まぁ、そのことはとりあえず置いておいて‥‥君に忠告があるんだ」


「忠告‥‥?」


僕がそう言うと溝口さんは窓から店の中を見る。


「京極と千賀は信用しない方が良い」


溝口さんは当たり前のことを再確認するような口調で言う。


「は‥‥?」


「彼らは最高に利己主義だ‥‥つまり、彼らは自分さえ傷つかなければ、他はどうなろうと構わないと思っている」


「そんなこと」


「少なくとも」


僕が反論しようとすると、溝口さんはその言葉を断ち切って続ける。


「彼らは知っていたよ‥‥」


溝口さんが店内から再び僕に視線を戻した。


「二宮君が誘拐されることをね。だから二宮の誘拐を見ることが出来た。まさか、本当に偶然見たなんて思ってないだろうね」


言葉が出なくなっていた。


そんなことはないと思う自分と、もしかしたら、と思う自分がいる。


「京極は九重君と五泉さんの事件も知っていた‥‥知りながら、彼らにも君らにも直接手だししてない。もしかしたら‥‥彼が首謀者かもしれない」


ごくりと唾を飲み込む。


溝口さんの話に引き込まれていた。


「加茂川商業って知っているだろう? ここら一帯では一番の不良校だ。二宮君の事件も九重君と五泉君の事件もここの生徒が関わっていた」


九重君の事件は知らないけど、真鈴を誘拐した連中の中に加茂川商業の制服を着た人も確かにいた。


「京極は加茂川商業の人間とはかなり仲が良い‥‥彼らから、二宮の誘拐を手伝うという話は聞いているはずだ」


そこまで言うと溝口さんは肩をすくめた。


「まぁ、信じるも信じないも君次第だけどね」


溝口さんはそう言って帰ろうとする。


「待ってください!」


僕が呼び止めると、僕の方を振り向かないで足を止める。


「何で‥‥そんなに知ってるんですか?」


僕が訊くと、溝口さんが振り向く。


生徒会長こういうことをやってるとね‥‥色々と話が入って来るんだよ」


そう言って溝口さんは笑う。


何か黒いものを秘めた、威圧感たっぷりの笑みで。


「九重と五泉の事件」は「キス魔な彼女と草食系僕」に書かれています

http://ncode.syosetu.com/n0238n/

特に見なくても支障はないです。


溝口孝太(みぞぐちこうた)

身長/体重→180センチ/78キロ。

生徒会長で情報通。

勉強、運動ともに出来る。

人望も厚く、ほぼ全員一致で生徒会長になった。

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