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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第五十五話 昼食

体育祭は日程を半分消化し、意外にも僕達白軍は善戦し、未だビリのままだけど差はあまりつかなかった。


そして、昼休憩となった。


「悠、一緒に食べよ!」


僕が由香が応援していた場所で弁当を受け取ると、由香が自分の弁当を取り出しながら言う。


「別にいいけど‥‥友達と食べればいいんじゃない?」


由香はかなり友達が多いから、わざわざ僕達と食べなくても、一緒にお弁当を食べる人くらいいるはずだ。


「だっていつも友達と食べてるし。今日みたいな特別な日は悠と食べたいの」


そんなこと言ったらいつも夕食は由香が帰って来てから食べるから毎日一緒じゃん、と思う。


「それとも、二宮さんと二人きりがいい?」


由香が悪戯っぽく笑う。


「別に、そういうわけじゃないけど‥‥」


多分、奏や三神さんも一緒に食べることになるから、どうせ二人きりにはなれないと思う。


「そんなんじゃダメだよ? もっと二人きりになってイチャイチャしなきゃ!」


「お前言ってることめちゃくちゃ‥‥」


「あ、そういえば肩の薬ってどんなんだったの?」


「話聞けよ‥‥ってか何で薬のこと知ってるの?」


「京極さんが言ってたの。『競技中に肩痛めるけど、どんな怪我でも絶対に治すから心配するな』って。そうじゃなきゃ‥‥」


由香が俯き、言葉のトーンを下げる。


「私が心配しないわけないじゃん‥‥」


由香の表情を見て胸がズキリとする。


僕は‥‥由香の気持ちを全然考えてなかった。


「‥‥ごめん」


「ううん、謝んなくていいよ。悠のせいじゃないんだから‥‥それよりさ」


「あ、ここにいたのかよ悠!」


由香が何か言いかけた時、後ろから奏に声をかけられた。


奏の後ろには、八雲、真鈴、三神、十文字、そしてなぜか片手にビデオカメラを持った六車さんが立っていた。


「何で六車さんが‥‥?」


「何でって、悠ちゃんと由香ちゃんの勇姿をこのビデオカメラにおさめるからに決まってるでしょ! 結衣ちゃんと月ちゃんが来れないって言ってたから、これに取って二人に見せるの!」


「あ、そうですか‥‥」


結衣も月さんも仕事が忙しいんだろう。


ってか相変わらず二人共休日出勤してるんだ‥‥


「悠、一緒に飯食おうぜ!」


奏が僕と六車さんの間に入って言う。


相変わらずマイペースだな‥‥


「いいけど‥‥由香も一緒にいい?」


「別に悪い理由がないだろ」


八雲が答える。


奏の後ろに立っていた真鈴が不満げな表情になる。


「真鈴、どうかしたの?」


「別に‥‥私より先に由香さんに声をかけるのか‥‥と思っただけだ」


あ、やばい拗ねてる‥‥


「いや、由香に弁当貰ってなかったから来ただけで、別に真鈴より先に声かけたとか、そういうことじゃなくて‥‥」


「行く前に私に声をかけてくれても良かったんじゃないか?」


「うん‥‥ごめん」


「い、いや、分かればいいんだ」


僕が謝ると真鈴は何故か慌てる。


「出た、悠の必殺、困った顔」


「『こうかはばつぐんだ!』ってか」


八雲と奏がニヤつきながら言う。


「どういうこと?」


「悠の小動物的オーラで謝られることで相手に罪悪感を感じさせるのだ」


何の説明‥‥?


「まぁ、実際真鈴が拗ねてるだけで一之瀬君は悪くないですし」


「別に‥‥拗ねて‥‥なんて‥‥」


だんだん真鈴の声が小さくなっていき、最後にモゴモゴと何か付け足したけど、僕には聞こえなかった。


「なんか‥‥初々しいね、悠ちゃんも真鈴ちゃんも!」


六車さんは何が面白いのかいつも以上にニコニコしている。


「ほら、さっさと行こうぜ! 時間無くなっちまう!」


奏はそう言うと一人で走って行く。


本当マイペース‥‥




僕達は体育館のギャラリーで昼食を食べることにした(奏が勝手に決めた)。


「はい、あーん」


「由香‥‥恥ずかしいんだけど‥‥」


僕の右隣から由香がぴったりくっついて僕に食べさせようとする。


左腕から真鈴の鬼のような殺気がひしひしと伝わって来る。


「遠慮しなくてもいいって!」


「遠慮じゃなくてさ‥‥」


隣が‥‥


「ずいぶんと楽しそうだな、悠」


真鈴が冷たい目で僕を見る。


「楽しくなんて‥‥」


「羨ましいんならニーノもやればいいんじゃね?」


僕の向かいに座る奏がニヤつきながら言う。


さっきから奏はニヤつきっぱなしだ。


「べ、別に羨ましくなんて‥‥」


「でも悠といちゃいちゃしたいんだろ?」


「それは‥‥」


真鈴は黙って俯く。


顔がだんだん赤くなってく。


「一之瀬君のことだとわかりやすいですね」


三神さんが呆れているのか喜んでいるのか面白がっているのかよく分からない表情になる。


「別に、無理してやろうとしなくていいからね?」


「分かってないね、悠ちゃんは。真鈴ちゃんは本当はやりたいんだけど、周りの視線が気になってるんだよ」


おそらく実際にやったら冷やかしそうな筆頭の六車さんが言う。


「そう‥‥なの?」


僕が真鈴に訊くと、真鈴は顔を赤くしたまま頷いた。


「悠は、人からそういうのされるの嫌いなのか?」


奏の隣に座る八雲が僕に訊く。


奏からずっと"あーん"されているせいでなかなか弁当の中身が減っていない。


「やって欲しい‥‥かも」


照れ臭いから少し迷ったけど、真鈴を見て正直に答える。


真鈴の顔がさらに赤くなる。


「よし、じゃあみんな後ろを向いて見ないようにしよう。それならちゃんと"あーん"出来るだろ?」


奏がそう言って後ろを向く。


すると、みんな真鈴を見ないように後ろを向きだし、由香も僕にくっついたまま、僕達を見ないように座り直す。


初め真鈴は困惑していたけど、自分の弁当から唐揚げを箸で掴む。


「あ、あーん‥‥」


顔を真っ赤にしたまま、凄く小さい声で掴んだ唐揚げを僕の目の前に持って来る。


恥ずかしさからか手が震えている。


僕も恥ずかしい。


さりげなく六車さんが横目で見ているし。


でも、真鈴が恥ずかしいのを僕のために我慢してくれていることが嬉しかった。


僕は真鈴の作った唐揚げを食べる。


いつも通り美味しい。


「その‥‥美味しいか?」


「うん、いつも通り美味しいよ」


「そうか‥‥良かった」


真鈴はそう言うと自分で弁当を食べだす。


「なんだ、一回で終わりかよ」


正面に向き直した奏が不満げな表情になる。


「お前はしすぎだ。全然食えない」


八雲は呆れ気味に言う。


後ろを向いていた間に、かなりの量を食べていた。


「いいじゃねぇか、どれだけ好きかってことを言葉だけじゃなくて行動で示してるんだから‥‥あ、間接キス」


奏がそう言って真鈴を見る。


真鈴を見ると、ちょうど自分の箸を口に入れた所だった。


真鈴は固まって耳の先まで真っ赤になる。


「別に、普通にキスしてるんだから、今更意識しなくても‥‥」


「まぁ、それもそうなんだけどな」


三神さんの言葉に、指摘した本人である奏が同意する。


「‥‥分かってても、恥ずかしいんだ‥‥」


真鈴が小さい声で言う。


「今度は三神さんと十文字さんの番ですね」


僕にくっついたままの由香が悪戯っぽく笑いながら三神さんと、今まで三神さん以外と喋っていない十文字に言うと、三神さんと十文字が同時におもいっきり噴き出す。


「ああもう、汚いなぁ‥‥」


三神さんの隣に座っていた六車さんがすぐに拭く。


「な、なんで私がこんな奴に!」


「だって、付き合ってるんじゃないんですか?」


由香がそう言うと、三神さんと十文字は黙って奏を睨みつける。


「いや、俺は言ってないからな!?」


「あんたの他に誰がそんな嘘つくって言うの!?」


三神さんは興奮し過ぎて口調が元に戻っている。


「あれ、違うんですか?」


「違う!」


「違うわよ!」


二人が同時に言う、


「何だ‥‥てっきり仲が良いみたいだから付き合ってるのかと‥‥」


「仲良くもねぇよ」


「でも十文字さん、さっきから三神さんとしかコミュニケーションとってないし、なんか新婚夫婦みたいな雰囲気でしたし‥‥」


由香にそう言われ三神さんの顔が赤くなる。


「し、新婚って‥‥」


「なんか満更でもなさそうだな‥‥本当に付き合えばいいのに」


八雲が食べながら三神さんを見て呟く。


「だから私はっ!」


三神さんがかなり大きな声を出す。


「あの、ちょっといい?」


僕の後ろから小さな声がした。


振り向くと、吉兆さんが立っていた。


「吉兆さん、どうかしたんですか?」


僕が訊くと、吉兆さんはバツの悪そうな表情になる。


「あなたと真鈴さんに‥‥謝らないといけないと思って」


「‥‥謝る?」


「勝手に変な勝負挑んで‥‥ごめんなさい」


そう言うと吉兆さんは頭を下げる。


「あなたが変えてしまったって‥‥ずっと思ってたの。どんなことがあっても負けなかった真鈴さんを‥‥弱くしてしまったって、ずっとそう思ってた。だけど、気が付いたの。昔の真鈴さんより、今の真鈴さんが‥‥あなたに会ってからの真鈴さんの方が、幸せになってるって‥‥でも、私の憧れの人が変わってしまったって事実は消えなくて‥‥それで、自分の気持ちを整理するために、良く分かんない勝負したの。あなたなら‥‥私を負かしてくれると思ったから」


それで挑発して来たのか‥‥


「だから‥‥悠を巻き込んだのか?」


真鈴が吉兆さんを責めるような声色で言う。


「‥‥ごめんなさい」


「別に、僕は気にしませんから‥‥それで、気持ち整理出来たんですか?」


「はい‥‥おかげさまで。だから‥‥真鈴を幸せにしてね、絶対」


「はい、分かってます」


僕がそう答えると、吉兆さんは満足そうな笑みを浮かべた。


これで体育祭は終わりです。


余計な部分はカットしていかないと、話数が大変なことになるので‥‥


次回は打ち上げです。

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