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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第五十三話 治療

悠が怪我したのは右肩です。

障害物競争を終えて応援席に帰って来ると、残っていたみんなが僕の体を叩いたり、頭をくしゃくしゃ撫でたりと、手荒い祝福で出迎えてくれた。


「悠、右肩大丈夫か?」


真鈴が心配そうな表情で僕に訊いてきた。


「うーん‥‥分からない」


本当は大丈夫じゃなかった。


一度は引いた痛みが、ゴールしてからまたズキズキ痛み始めていた。


だけど、真鈴に心配をかけたくなかった。


でも、真鈴に嘘もつきたくなかった。


「一応救護係の所に行ってくれば? 大丈夫だと思うけどさ」


千夏さんが言う。


「じゃあ‥‥そうします」


「フミに案内してもらいなよ」


姫乃さんがフミを探してきょろきょろ辺りを見渡す。


「フミはもう救護のテントに行ったよ。俺が案内するから」


八雲はそう言うと僕の左手を掴んで歩き始めた。


「ちょっと、八雲‥‥」


僕が八雲に声をかけても無視して歩みを止めない。


「‥‥馬鹿野郎が」


人が少なくなって来た時、八雲が小さな声で呟いた。


「‥‥痩せ我慢してんじゃねぇよ」


「別に痩せ我慢なんて‥‥」


「右肩、めちゃくちゃ痛いんだろ」


八雲は僕を鋭い目つきで睨むように見た。


その目にはあの京極君のゾクリとさせられる目に似た、でもそれとは少し違った光があるような気がした。


嘘をつくことを許してはくれなさそうだった。


「‥‥ちょっとだけ」


僕がそう答えると八雲が呆れたような表情になる。


「お前な‥‥俺に遠慮してどうするんだよ」


「遠慮なんてしてなっつぅ!」


僕が喋っている途中で八雲が僕の右腕を上げる。


右肩に激痛が走る。


「ちょっとでこんな痛がるかよ」


八雲が手を離す。


「保健室行くぞ」


「そこまでしなくても‥‥このくらい、大丈夫だよ」


僕がそう言うと八雲は立ち止まってもう一度僕を責めるような目で睨みつける。


「‥‥左腕みたいに使い物にならなくなっても知らねぇぞ」


僕はハッとして左肩を触る。


八雲はそれを見るとまた歩き出す。


「‥‥あんなに、重傷じゃないよ」


「万が一ってことがあるだろ」


八雲はそう言いながら校舎の中に入る。


「それに‥‥痛いんだったら手当ては必要だろ」


「それは‥‥そうだけど‥‥」


それでも気が進まない。


「‥‥どうせ大怪我だったら吉兆が気にするとか、そんなくだらないこと考えてんだろ?」


八雲がこっちを見ないまま呆れたような口調で言う。


その通りだった。


僕が黙っていると、八雲がため息をついた。


「‥‥図星か」


そう言うと八雲はもう一度ため息をつく。


「そんなこと考えるくらいなら、他人を救おうなんて思うんじゃねぇよ。体の傷は時間が経ったら治るけど、心の傷は何年経ってもカサブタにはなんねぇんだから」


「分かってるよ、そんなこと」


「だったら‥‥」


「しょうがないじゃん。気付いたらもう体が動いてるんだから‥‥」


僕がそう言うと八雲は三度ため息をつく。


「‥‥どんな反射だよ‥‥」


「八雲‥‥反射って言葉知ってたんだね」


僕がそう言うと八雲は立ち止まって僕の方を向くと、おもいっきりげんこつされた。




保健室では七瀬先生が準備をしながら待っていた。


「お、来たな。話は京極から聞いてる。とりあえず診察するから肩出してそこに座れ」


「京極君が‥‥?」


僕は七瀬先生に言われた通りに長椅子に座りながら訊く。


「何となくこうなることが分かってたんだろうな」


「言ってくれたら‥‥」


怪我しなくて済んだのに‥‥


「言っても同じだろ、反射的にやっちまうんだから」


八雲は相変わらず呆れた表情をしている。


‥‥それもそうか。


「骨や靭帯に異常はないな‥‥おそらく打撲だろう。かなり重度だかな」


七瀬先生はそう言うとゴム手袋をつけて軟膏を取り出す。


「塗りにくいから上全部脱いでくれるか」


七瀬先生に言われた通り服を脱ごうと右腕を動かすと、肩に激痛が走る。


仕方がないから左腕だけで脱ごうとしても、なかなか上手くいかない。


「‥‥俺がやるからじっとしとけ」


僕をずっと見ていた八雲が苛立ったのか僕の服を掴む。


「え、いいよ、一人で出来るから」


「出来てねぇだろ」


「もうちょっとで‥‥」


「じれったいんだよ! ほらじっとしてろ」


「やだこの人超短気痛いって!」


「あ、悪い」


「悪いと思ったら止めろ!」


「‥‥面白いな、お前ら」


七瀬先生が微笑んでいる。


そんなこんなで脱ぎ終わった。


「一之瀬、意外にかなり筋肉あるんだな‥‥本当に体重あれしかないのか?」


七瀬先生が僕をじろじろ見ながら言う。


「‥‥早くしてください」


僕がそう言うと七瀬先生は手につけたままだった軟膏を僕の肩に塗る。


「っっっ!」


とんでもなく染みる。


「あ、ちょっと染みるから」


「早く言って下さい!」


しかもちょっとじゃないし。


「まぁ、二宮を心配させた罰ってことで」


何も言い返せなかった。


もし、真鈴が怪我したら僕はいてもたってもいられなくなると思う。


なのに僕は‥‥


「‥‥あんまり心配させるなよ?」


「‥‥はい」


「ま、あんまり落ち込むなよ。二宮はそういう所もひっくるめて、悠のことが好きなんだろ、多分」


そうだといいけど‥‥


「あ、そうだ。京極が二宮は教室にいるって言ってたぞ。なんか話があるのか?」


七瀬先生が軟膏を塗り終わると僕に教えてくれる、


「あ、はい。ありがとうございます」


「ほら、じゃあ着せるから‥‥」


「だから一人で出来るよ!」


僕が八雲から体操着を引ったくると、八雲はびっくりした表情になる。


「もう痛み引いたのかよ‥‥」


「え、あ‥‥」


そういえば‥‥


「すぐに痛みが引くらしいぞ、この薬。京極が言ってた」


七瀬先生がゴム手袋から軟膏を洗い流しながら顔だけこちらを向いて言う。


「京極君が‥‥?」


「ああ、勝つにはお前が必要なんだとさ‥‥ついでに二宮にカッコイイとこ見せてやるよ」


七瀬先生はそう言うと手を拭いてニヤッと笑った。


なんとか年内に更新できました‥‥


みなさん来年もよろしくお願いします!


あ、次回は真鈴の過去編です。

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