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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第四十七話 構わない

作者はきっと馬鹿なんだと思うよ。

体育祭本番が近付くにつれ、徐々に学校全体が慌ただしくなって来た。


僕自身も、リレーの練習でかなり忙しくなってた。


「大変そうだな、悠‥‥なんか疲れてねぇか?」


机に突っ伏してると、奏が僕の席の隣に座って心配そうに訊いてきた。


「ちょっとだけ‥‥こんなに沢山走るの久しぶりだし。奏こそ、体育祭実行委員大変なんじゃないの?」


奏は九十九先生から頼まれ、体育祭実行委員になっていた。


「別に、そうでもねぇよ。中心は生徒会と2、3年の実行委員だからな。俺達は補助みてぇなもんだ」


奏はそう言って笑う。


「でも、あんまり無茶しちゃダメだからね? 奏はいつも頑張り過ぎちゃうから」


「その言葉そっくりそのままお返しする‥‥大変だったら休めよ? 休むのも体調管理には必要なことだからな」


奏はそう言うと僕の髪をくしゃっと撫でる。


「相変わらず触り心地いいな、悠の髪」


そう言いながら奏は僕の方に身を寄せて僕の髪をすく。


「‥‥ずいぶんと楽しそうに何をしてるんだ?」


気がつくと用事でどこかに行っていた真鈴が、不満そうな顔で僕達を見ていた。


「あはは、ニーノ‥‥目が恐ぇん」


「何をしてたんだ?」


奏が全部言い終える前に真鈴が奏を睨んだままもう一度ゆっくりと訊く。


「いや、別に変なことしてた訳じゃないぜ? ただの世間話を‥‥」


「そんなにぴったりくっついてか?」


真鈴が冷たく言い放つと、奏が慌てて僕から離れる。


こんなこと言ったら真鈴に悪いと思うけど、やっぱり武士みたいだ、って思った。


凛々しくて、カッコイイ。


「いや、こ、これはだな!」


声が裏返っている。


真鈴が一歩近付く。


本当は止めなきゃいけないんだろうけど、カッコイイ真鈴をもっと見ていたかった。


「ちょ、待てってニーノ! ここ教室!」


奏が一歩下がる。


「分かってる」


真鈴がまた一歩近付く。


周りがざわついている。


「ここでそういうのは‥‥ほら、イメージ、とかさ」


奏はまた一歩下がる。


机の角にぶつかる。


周りの人達も危険を感じたのか避難を始める。


「構わない」


真鈴はまた一歩近付く。


そして、顔を少して言った。


「悠が私だけを見ててくれれば‥‥他人がどんなふうに見てようが、構わない」


真鈴はそう言って奏に飛び掛かろうとして――


「そのくらいにしておいてくれ」


僕が止めるより早く、いつのまにか来ていた八雲に止められた。


「‥‥このくらいじゃ私の気が収まらない」


「奏、もう逃げたけど」


奏は八雲が止めた一瞬のスキをついて奏は教室の外に逃げ出した。


「‥‥追い掛ける」


「いや、もういいでしょ」


これ以上やると本当に真鈴のイメージ壊れちゃうし。


「‥‥嫌だ」


真鈴はそう言って教室の扉に向かって一歩進む。


「ダメだって!」


僕は立ち上がった真鈴の手を掴む。


真鈴はすぐにこちらを振り向く。


「これ以上はダメだよ!」


「悠‥‥」


真鈴は呟くようにそう言うと、僕にぐっと顔を近づける。


吐息が直接かかるくらい、真鈴の顔が近くにある。


「何の話をしてたんだ?」


その声は、不安と非難の気持ちが入り混じたような声だった。


「体育祭の話だよ。疲れてないかって訊かれただけ」


「あんなにぴったりくっついてか?」


真鈴が言うほど近付いていなかったと思うけど‥‥


「奏が勝手に近付いて来たんだよ。髪の触り心地が良いとか言って‥‥」


僕がそう言うと、真鈴は少し驚いたような顔をする。


「触り心地‥‥?」


「うん、そう言ってたけど‥‥」


僕がそう答えた瞬間、真鈴が僕の髪に触る。


「確かに‥‥良いな‥‥」


そう言いながら、真鈴は僕の髪をくしゃくしゃ撫でる。


「今まで何度も触ってたでしょ?」


抱きしめた時は、いつも髪も触っていた。


「今までそんなふうに考えながら触らなかったから気がつかなかったんだ‥‥」


真鈴はそう言うと奏と同じように僕の髪をすいた。


「綺麗な髪だとは、思っていたが」


真鈴が僕の髪から手を離して、僕の目を見た。


真鈴の綺麗な目に、僕が写っている。


「まだまだ私の知らないことが沢山あるな」


真鈴は囁くと、僕に向けて微笑んだ。


本当に、綺麗な微笑みだ。


これが、僕だけのものだと思うと、少しだけ誇らしい。


「‥‥もう、あんなに近付いて触らせたらダメだからな。悠は‥‥私の、『特別』だから‥‥」


真鈴は少し顔を赤らめながら照れ臭そうに言う。


ちょっと、悪戯心がくすぐられる表情だ。


「真鈴‥‥また顔が赤くなってる」


「し、しょうがないだろう‥‥恥ずかしいんだ」


「僕が『特別な人』だと‥‥恥ずかしいの‥‥?」


僕は重いっきりがっかりした顔を作ってから落ち込んだような声色で言うと、真鈴は慌てる。


「い、いや、そんなことはない! ない、けど‥‥その、これはそういうことではなくて、えっと‥‥」


真鈴の声が大きくなる。


その慌てた様子が、凄く新鮮で、ちょっと楽しい。


これも僕だけの特権だ。


でも、あんまりいじめるのは可哀相だ。


「はは、冗談だよ。ちゃんと分かってるから」


僕がそう言うと真鈴はむすっとした顔をする。


「悠は‥‥いじわるだ」


「ごめんね、つい、悪戯心が‥‥」


「許さない」


真鈴はむすっとした表情のまま僕を睨む。


「え?」


「もう許さない」


真鈴はそう言うとそっぽを向いて自分の席に座った。


「ちょ、真鈴?」


僕が声をかけても真鈴は返事をしてくれない。


「真鈴?」


やっぱり返事はない。


「あ、あのさ、真鈴、その、ごめん、だからさ」


僕がなんとか真鈴の機嫌を直そうと必死に言葉を考えていると、真鈴がクスクス笑ってこっちを向いた。


「冗談‥‥だ」


真鈴はそう言ってニッと笑って、僕の額を人差し指で軽く押す。


「仕返しだ‥‥びっくりしたか?」


「焦ったよ‥‥真鈴だって意地悪じゃん」


思わず脱力した。


「悠が先に意地悪したんだからな。悠が優しくしてくれれば私だって優しくするぞ」


真鈴はそう言うと微笑んだまま楽しそうに僕の髪を撫でた。


「あの、いちゃついてるところ申し訳ないんだけど‥‥教室から逃亡した奴らどうするんだ?」


八雲が遠慮がちに僕達に言う。


辺りを見ると、とばっちりを避けるためにほとんどの人が教室から逃げ出していた。


「い、いちゃついてなんて‥‥」


「いや、いちゃついてるだろ。なんかピンク色な雰囲気だったし‥‥で、どうすんの?」


八雲が呆れ気味に言う。


「‥‥探して来る」


真鈴が立ち上がる。


「ほら、お前も行って来い」


八雲が僕の手を引っ張る。


「え、僕?」


「そりゃあ元々お前らのせいだし。いいだろ、二人で行ってまたいちゃついて来いよ」


八雲がニヤッと笑いながら言う。


「い、いちゃつくって‥‥」


「ほら、さっさと行って来い」


八雲は僕を追い出すように廊下に押し出した。


最近こんなのばっかりだな‥‥




教室を出て行った人はたいてい他の教室に非難していた。


「これで全員か‥‥?」


「まぁ、二年や三年の教室には行ってないだろうからね‥‥戻ろうか」


僕がそう言うと真鈴は頷くと顔を赤くして控えめに手を差し出してくる。


僕はその手を取って指を絡める。


「じゃ、行こうか」


僕がそう行って教室に戻ろうとすると、一人の女子生徒が立っていた。


どうやら1年生のようだけど、見覚えがない。


「一之瀬‥‥悠ね」


「そう‥‥ですけど‥‥何か用ですか?」


彼女の質問にそう答えると、彼女は真剣な表情で言った。


「私が‥‥体育祭であなたに勝ったら‥‥二宮さんと別れなさい!」



また新キャラでちゃいました。


キャラ出すぎですね。はい、自覚してます。

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