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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第四十六話 彼女の答え

途中から由香視点になります。

「何でここにいるの!?」


玄関から由香の驚く声がする。


僕も家に帰ったらリビングに結衣と酔っ払った六車さんがいた時はかなりびっくりした。


「近くに来たから寄っただけよ」


結衣は玄関にいる由香に向かってそう言う。


でも、それはきっと嘘だ。


結衣の職場はこのマンションから2時間以上かかる。


たまたまここに来る用事も多分ない。


きっと僕達に会いに来てくれてるんだと思う。


「六車さんから二人のこと色々聞いかせてもらったわ‥‥いつまで立ってるの? 早く入りなさい」


結衣はそう言ってまたリビングに戻って来た。


すぐ後に由香も入って来た。


「うわっ、六車さん酔ってるじゃん」


由香が僕の隣で真っ赤な顔でニコニコ笑う六車さんを見てあからさまに嫌そうな顔で言う。


「酔ってて悪いかー! お酒飲んだんだからだから当然だろー!」


悪くはないけど酔うとすぐ絡むからめんどくさい。


口に出すともっとめんどくさいことになるから言わないけど。


「いや、別にいいけどさ」


由香も僕と同じことを思ったのか、苦笑いしてそう言うと六車さんの隣に座る。


「女の子に囲まれて幸せね、悠」


僕の向かいに座る結衣が楽しそうな笑顔を浮かべて僕に言う。


「何で?」


まぁ確かに悪い気はしないけど‥‥そもそも六車さんが『女の子』なのは見た目だけだし、由香は妹だし。


「何でって‥‥三人とも可愛いし美人じゃない。世の男達は泣いて羨むわよ」


そういうもんなんだろうか?


僕の隣に座る真鈴が顔を少し赤らめて「そんなことは‥‥」と小さな声で言う。


「それにしても、結構うまく生活してるみたいね。ほんのちょっとだけ心配してたけど、大丈夫みたいね」


結衣が辺りを見渡して言う。


「結衣さんは‥‥何で二人と住まないんだ?」


真鈴が不思議そうに訊く。


まぁ、確かに普通の家だったら高校生と中学生二人きりで住まわせないだろう。


「職場がここからだとかなり遠いのよ」


「だったら悠達は何で実家から通わないんだ?」


真鈴から至極当然の疑問が飛び出す。


「それは‥‥」


結衣と由香は口ごもる。


「僕が父親と喧嘩して家飛び出したんだよ」


僕が正直に伝えると、由香と結衣は驚いたような顔をする。


「喧嘩‥‥?」


「うん。喧嘩して、家にいたくなくて家から出たんだけど、行くあてがなくて‥‥とりあえず六車さんを頼りにここに来たんだ」


嘘は一つもついてなかった。


「それ、いつの時だ?」


「去年」


「‥‥凄い行動力だな」


僕がそういって呆れたように笑う。


「まだ喧嘩してるのか?」


「うん‥‥」


きっと、あの人が僕を許すことは一生ないだろうと思うけど、それは言わなかった。


「そうか‥‥早く仲直りしないとダメだぞ? 親子の仲が拗れるのは‥‥良くないから」


そう簡単に仲直り出来るものでもないけど‥‥


「なかなか大変なのよ。父親が頑固だから」


僕が答える前に結衣が真鈴に言った。


「そうか‥‥私に何か出来ることがあったら言ってくれ」


「うん、ありがとう、真鈴」


でも、これは‥‥僕の問題だから、僕がなんとかしなきゃいけないんだと思う。




「じゃあ、私はそろそろ‥‥」


しばらく談笑した後、真鈴はそう言って立ち上がる。


「あら、泊まっていかないの?」


結衣が真鈴に言う。


真鈴は真っ赤な顔で首を振る。


「そ、そんなこと!」


「でも悠は泊まったんでしょ?」


「あ、あれは‥‥」


真鈴は照れ臭さを隠すように俯く。


「あなた、悠のことだとすぐ顔が赤くなるのね‥‥面白いわ」


結衣は笑いながら真鈴を見る。


「か、からかってたのか‥‥」


真鈴がうんざりした顔で呟く。


この前も正岡君にからかわれてたし、三神さんや奏には僕と付き合い始めてからずっとからかわれてるし、結構からかわれやすいタイプなんだろうか?


「ごめんないね、つい楽しくて‥‥」


結衣は悪びれた様子も見せずにそう言うと今度は僕の方を向く。


「送っていきなさいよ、悠」


僕だって本当はそうしたい。


出来るだけ長く一緒にいたい。


だけど‥‥


「無理だよ、六車さんが引っ付いてるし‥‥」


僕の腰に酔っ払って眠り込んだ六車さんががっしりとしがみついている。


「そもそも送って行くって言ったって、真鈴帰り家まで車だし‥‥いつも真鈴断るし‥‥」


僕がそう言うと結衣が呆れたような表情になる。


「バカじゃないの? 断ったりするのは『送って欲しい』の裏返しじゃない」


そんなことはとっくに分かってた。


僕の言ったことは全部自分でどうにか出来ることだってことも。


真鈴が断ってるのだって、本当はそれでも行きたいと言って欲しいってことも。


でも、そうすれば、由香が一人になる。


由香との約束が‥‥果たせなくなる。


由香が悲しむのは、嫌だった。


「いいじゃん、送っていきなよ」


そう言ったのは、由香だった。


「由香‥‥?」


「別に私は平気だよ、六車さんもいるし、お姉ちゃんもいるし‥‥」


由香はそう言って笑う。


上辺だけじゃない、心からの笑みだった。


「でも‥‥」


「それに、帰ってからずっと悠といられるしね」


由香が悪戯っぽく笑って僕に軽く抱き着く。


「ちょ、由香!!」


僕が少しだけ大声で言っても、由香は甘えるような声で「いいでしょ?」と笑って離れようとしない。


背後からのもの凄い殺気をものともせずに。


「くっつき過ぎだ」


真鈴が冷たい声で言う。


「私、言いましたよね。『油断してると、すぐに私の物にしちゃいますから』って‥‥私だって悠のこと好きなんですから」


「でも悠は私の恋人だ」


「私の兄でもあります」


「普通の兄妹はそんなことはしない」


「私達は特殊な兄妹なんです」


二人共、まるでドラマの台詞みたいにすらすらと言葉が出て来る。


「悠‥‥モテモテね」


結衣がニヤつきながら火に油を注ぐようなことを言う。


「とにかく、そういうことはダメだ!」


真鈴はそう言うと由香とあの騒ぎの中寝ていた六車さんを引っぺがして僕を抱き抱える。


彼女に抱き抱えられる彼氏って‥‥


「悠‥‥」


真鈴が呟くように言う。


「何?」


「家まで‥‥送ってくれ」


真鈴が顔を赤らめながら僕の耳元で言う。


「送ってって‥‥だって車来て」


「いいから! 悠に送って‥‥欲しいんだ」


僕が全部言い終わる前に、真鈴が珍しく声を荒げる。


「ほら、彼女が頼んでんだから、さっさと送ってきなさい」


結衣はそう言って立ち上がると、まるで追い出すように僕と真鈴を家の外に追い出した。



◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆



「私が言うのもアレだけど‥‥良かったの、二人で行かせて?」


お姉ちゃんがリビングの扉を閉めてから私に訊く。


「うん‥‥決めたから。これからどうするのか」


やっぱり私は悠の幸せを奪ってまで幸せになりたいなんて思えない。


でも‥‥私は私の幸せも諦めない。


私は悠と出来るだけ一緒にいる。


真鈴さんも悠と出来るだけ一緒にいる。


私の幸せと、悠の幸せを両立させる。


もしかしたら、それは大変なことかも知れない。


もしかしたら、それは間違いかも知れない。


もしかしたら、それはただの私の我が儘かも知れない。


だけど、これが私の出した答え。


だから、私はそれを突き通す。


「ちょっとだけ、心配だけど」


「大丈夫だよ。由香ちゃんがしっかりと考えたなら」


酔って寝てたと思ってた六車さんが起き上がっていた。


「酔って寝てたんじゃなかったんですか‥‥?」


「寝てたよ。でもあれだけ騒がれちゃったら、起きちゃうよ」


そういえば六車さんは悪酔いするけど醒めるのは早かったんだっけ。


六車さんはそう言うと真面目な表情になる。


「人間のやることだもん。正解はないよ。でもね、きちんと考えて出した答えなら、それは間違いじゃないんだよ。結果がどうであっても」


そして六車さんは私に微笑んでくれる。


「六車さん‥‥」


「それ、遥君に言われたことじゃない」


私の後ろでお姉ちゃんが苦笑いしながら呟く。


「ちょ、なんでばらすかなぁ、もう」


六車さんがお姉ちゃんを非難するような目で見る。


「どういうこと‥‥? ってか六車さん京極さんと知り合いなの?」


「昔‥‥っていうほど前じゃないけど、ちょっと色々あってね。けっこうハル君と仲良くなったの。ちょうどその頃私自身大変な頃で‥‥悩んでた時にハル君がそう言ってくれたの」


六車さんはそう言って苦笑いする。


「昨日ハル君から『由香が悩んでるから、手伝って欲しい』って電話があったから、私が結衣に連絡したの。結衣ちゃん、凄くおろおろして、仕事ほっぽりだして結衣のところ行こうとしてたんだよ」


「ちょ、京華さん!?」


結衣が慌てたような声を出す。


「そうなの、お姉ちゃん?」


私が訊くと、お姉ちゃんは顔を少し赤くして頷く。


ゴールデンウイークの旅行で、悠が私達が隠してたこと全部話したって言ったから、もう私達にあんなに冷たくすることはないだろうな、とは思ってたけど‥‥そんなに思ってただなんて、知らなかった。


「だったらそう言ってくれれば良かったのに‥‥」


「だって‥‥親バカみたいで恥ずかしいじゃない」


お姉ちゃんが俯く。


「まぁ、私達がどうこうする前に由香ちゃんが自分で答え出したみたいだけどね‥‥今度からはちゃんと皆に相談するんだよ? 私だっているし‥‥結衣ちゃんだってこんなに由香ちゃんのこと大切にしてくれてるんだから」


六車さんはそう言って笑う。


私は‥‥何をしていたんだろう。


こんなに、頼りになる仲間がいたのに。


いつまでも一人でいじいじ悩んで‥‥


「ありがとう‥‥っ!」


私はもう悩まない。


こんなに頼もしい仲間がいるんだから。


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