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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第四十四話 変わらない

前回に引き続き千夏、ヒメが出てきます。



放課後、僕達は九十九先生に言われた集会へ行くことになった。


「あ、悠!」


集合場所に行く途中、千夏さんが僕の名前を呼んだ。


僕が振り向くと、千夏さんはおもいっきり抱き着いて来た。


その後ろには砂川さんとおそらく同じクラスの男子2人がいた。


抱き着かれた勢いで押し倒され、千夏さんに乗っかられる。


千夏さんは息がかかるくらいに顔を近づける。


「ちょ、千夏さん!」


「久しぶりだね! 『店』で会って以来でしょ?」


『ナイトメア』のメンバーは『夢魔の巣(サキュバス・ウェブ)』のことを『店』と呼ぶ。


人前で『夢魔の巣(サキュバス・ウェブ)』と呼べないために作られたメンバー専用の隠語だ。


「は、離れて下さい!」


僕がそう言って離れようとすると、千夏さんが不満そうな顔になる。


「いいじゃん、今なら暑苦しくないでしょ?」


「そ、そういうんじゃなくて‥‥」


僕は真鈴をちらりと見る。


やっぱり不満そうな顔をしていた。


「とにかくダメなんです!」


僕がそう言うと千夏さんは一瞬驚いた後すぐに離れてニヤリと笑う。


「そっか、真鈴がいるもんね!」


千夏さんはそう言うと真鈴を見て「ゴメンね」と謝る。


「さっさと悠から離れてくれればそれでいい」


真鈴はぶっきらぼうにそう答える。


「ほら、さっさと行くわよ」


僕が立ち上がると、砂川さんが座ったままの千夏さんの服の襟首を掴んで引きずる。


「ちょ、待ってヒメ気持ち良くない!」


「うるさい!」


砂川さんが千夏さんにチョップをかます。


残った2人の男子生徒が砂川さん達を追いかける。


「砂川さん達もリレーの選手なのかな?」


「まぁ、あの人達ならありえるだろうけど」


五泉さんが訊くと正岡君が答える。


「知り合いなのか?」


真鈴が二人に訊く。


さっきまでの不機嫌な様子はない。


「そりゃあ遥の恋人と友達だからな。最近昼飯の時に教室に来るし‥‥」


正岡君がそう答えるとニヤッと笑う。


「まぁ二宮達はどこかでいちゃいちゃしてるから分かんないだろうけどな」


正岡君がそう言うと、真鈴の顔がじわじわと赤くなっていく。


「い、いちゃいちゃなんてしてない!」


真鈴が叫ぶと正岡君は笑う。


「ハハッ、泪達と違ってからかいがいがあるな、お前ら」


正岡君はそう言うとさっさと行ってしまう。


五泉さんもそれに続く。


僕も二人に着いて行こうとすると、真鈴に肩を捕まれる。


「真鈴‥‥?」


僕が振り向くと真鈴は僕を抱きしめる。


「ちょ、真鈴!?」


別にここはそんなに人が通るわけじゃないから、さっきの砂川さん達みたいなことさえなければ放課後は誰も通らないけど、それでも少し恥ずかしい。


「千賀さんはよくて私はダメなのか?」


真鈴は不満そうな声で僕を咎めるように言う。


「真鈴‥‥もしかして、怒ってる?」


僕が訊くと真鈴は黙ったまま僕を抱きしめる腕に力を込める。


それはどんな言葉よりも真鈴の思いが伝わって来る。


「‥‥ごめん、真鈴」


「‥‥悠が謝ることじゃない、悠が悪いことじゃない‥‥分かってるんだ‥‥」


真鈴はそう言うとさらに力を強める。


骨が折れそうなくらい痛い。


でも、耐えなきゃいけないと思った。


この痛みが真鈴の"心の痛み"だと思ったから。


「‥‥私は、ゴールデンウイークの時から変わってないな‥‥」


真鈴がぽつりと呟く。


その声には、悔しさが滲んでいた。


「‥‥別に、変わらなくていいと思うよ」


「え‥‥?」


僕の言葉に真鈴が少し驚いたような声を出す。


「変わらなくていいんだよ。僕が好きになったのは‥‥今の真鈴だから。真鈴が自分の嫌だって思ってるところも、僕が全部受け止めてあげる」


僕がそう言うと、真鈴は僕を抱きしめていた腕を僕から離す。


「悠‥‥」


「だから‥‥僕の嫌いなところも受け止めてくれる?」


僕が訊くと真鈴は当然だと言わんばかりの顔で頷く。


「じゃ、行こうか。みんな先に行っちゃったし」


僕がそう言うと、真鈴はもう一度頷いて、少し顔を赤らめながら僕に手を差し出す。


僕はその手を取って、指を絡めた。




集会の会場となる教室の扉を開けると、なぜだかどんよりとした空気を感じた。


「‥‥どうかしたんですか?」


僕が近くにいた五泉さんに訊くと、五泉さんは少し困った顔をして一枚の紙を僕に見せる。


それは、リレーの選抜選手の一覧だった。


「これが‥‥?」


「タイム見てみな」


正岡君がそう言って名前の横にあるタイムの覧を指で差す。


「‥‥真鈴がぶっちぎりですね」


「いや、白軍のじゃなくて他のチームの‥‥どれだけ頭の中二宮だらけだよ」


正岡君はニヤッと笑いながらそう言うと、他のチームのタイムの覧を指差す。


僕達のクラスと砂川さん、千夏さん、由香以外の人達は他の軍の人達より1、2秒くらい遅かった。


「‥‥みんな早いな」


僕の隣から覗き込んだ真鈴が呟く。


「ってかうちの軍が遅いんだけどね‥‥ちなみに、このタイム差はまだまともならしいよ。ちなちゃんが言ってた」


五泉さんがそう言うと千夏さんを見る。


「そうなんですか?」


僕も千夏さんの方を向いて訊くと千夏さんは頷く。


「元々うちの学校、悠達のクラスだけ飛び抜けて凄いからあんまり参考にならないけど、うちと由香のクラス以外は一般高校生より下のレベル」


もしかして、このどんよりした空気は――


そんな僕の内心を読んだのか砂川さんが無表情で言った。


「簡単に言えば‥‥うちの軍は勝機がほぼ0ってこと」


僕は京極君の言葉を思い出す。


『そううまくはぁ、行かないと思うけどねぇ』


‥‥そういうことか。


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