第三話 お家へGO!
フミと一緒に玄関に行くと、二宮さんがいた。
「どうしたんですか二宮さん?」
「君を‥‥待ってたんだ」
僕が尋ねると二宮さんは視線を僕から反らして小さい声で言った。
「僕を?」
「い、一緒に‥‥帰らないか?」
声を上擦らせ、顔を赤くしながら二宮さんが僕に言う。
「いいですよ」
「本当か!?」
二宮さんの顔がバッと明るくなる。
「はい。良く分かんないですけど、恋人同士なら帰りは出来るだけ一緒に帰るもんだって、いつだったか八雲が言ってましたし‥‥」
「そ、そうか‥‥」
二宮さんが煙が出そうなくらい真っ赤な顔になる。
それを見てると、なんだかこっちも恥ずかしくなって来る。
「二人して顔赤くしてないで、早く行こうよ」
フミに急かされてようやく僕は下駄箱から靴を取り出そうとして――
「‥‥靴がない」
厳密に言うと内履きが入ってた。
「今履いてるじゃないか」
足元を見ると僕が今朝履いて来た靴を履いていた。
「脱がせる暇なかったんだよ。二宮さんが外から君を抱えて走って来て、僕達に保健室の場所聞いたらまた走ってったから‥‥まるで突風みたいだったよ」
フミが僕の心の中に浮かんだ疑問に答える。
「僕、そんな危険な状況だったの?」
「ちょっと本気にやばかったよ。まぁ葵さんがいたから大丈夫だとは思ってたけど」
「そっか‥‥ありがと」
「お礼なら二宮さんに言いなよ」
フミがニコッと笑いながら言う。
「二宮さん、ありがとうございました」
僕がそう言って笑いかける。
「いや、元々私のせいだからな‥‥こちらこそすまない」
二宮さんが頭を下げる。
「そんな‥‥大丈夫ですから、そんなにかしこまらないで下さい」
「分かった」
僕が慌てて二宮さんに言うと素直に頭を上げてくれた。
「じゃ、帰りましょうか」
帰り道が逆のフミとは校門で別れ、あっという間に二人きりになった。
二人きりになってからは沈黙が続いてかなり気まずい。
先に喋りかけて来たのは隣で歩いていた二宮さんだった。
「‥‥いくつか、聞きたいことがあるんだが」
「何ですか?」
「まず‥葉と、何話してたんだ?」
三神さんと話したことは言っちゃダメとは言われていない。
でも本人に直接言うのはなんとなく躊躇う。
「二宮さんのことを、大事にしてくれって、言われました」
まぁ、三神さんの言い方はこうとも取れる言い方だったし、嘘をついてるわけではない。
「まぁ、言われるまでもないことですけど‥‥二宮さんは僕の大事な人ですし、大切な人ですから」
僕は二宮さんの方を向いて微笑む。
二ノ宮さんの顔がトマトみたいに赤くなる。
「二宮さん、顔真っ赤ですよ」
「‥言うな、恥ずかしいから」
二宮さんは両手を頬に当てて冷やそうとしている。
「次の質問はなんですか? まだあるんですよね、質問」
「ん、ああ。じゃあ‥‥私のこと、どう思ってる?」
二宮さんはこっちを振り向いて、僕の顔を見つめる。
「どうって‥‥大事で、大切な人ですよ」
「そうじゃなく‥‥私のこと、その‥好き、か? まだ、私は君の気持ちを聞いてないんだ」
二宮さんは消え入るような声で僕に聞く。
「僕は今まで誰かと付き合ったりしたことないから‥‥友達としてじゃなくて、異性として好きっていうのがどんな気持ちなのか‥‥僕には分かりません。けど、僕は、二宮さんのことをもっと知りたいって、二宮さんの色んな顔を見てみたいって思ったんです。これは多分‥‥二宮さんが異性として意識してるからだからだと思います。だから‥‥好きです、二宮さんのこと」
二宮さんに微笑みかけると、顔がさらに赤くなる。
ちょっと面白いかも‥‥と悪戯心がくすぐられる。
「二宮さんは、どうなんですか?」
「え?」
「二宮さんは、僕のこと好きですか?」
「私は‥‥もう気持ちを伝えただろ?」
「付き合ってくれとは言われましたけど‥‥好きかどうかはまだ聞いてませんよ?」
僕が二宮さんを見つめる。
「君は‥‥ずるいな‥‥そんな顔で言われたら、断れないじゃないか」
二宮さんはぼそっと呟くと、僕に目線を合わせて、顔を今まで以上に赤くして言った。
「私は君のことが‥‥世界で一番好きだ」
やっぱり消え入るような声で、それでも僕の耳にしっかり届いた。
その姿はいじらしくて可愛い、今まで見たことのない二宮さんだった。
「可愛いですよ、今の二宮さん」
「え?」
「いつもの百倍くらい‥‥今の二宮さんは可愛いです」
それは僕の素直な気持ちだった。
「な、何を言うんだいきなり」
ついに二宮さんは顔をそむけてしまった。
やり過ぎちゃったかな‥‥
気まずい空気のまま、僕の家に着いた。
僕の家は普通の2LDKのマンションの一室だ。
「じゃ、僕はこれで‥‥」
と、言った瞬間、二宮さんにかなりの力で肩を掴まれた。
「どうしたんですか二宮さん肩が痛いんですけどっ」
「君の家に連れて行ってくれないか?」
「はい?」
僕がそう聞くと、二宮さんは勝手にずんずん進んで行く。
「ちょっと二宮さん!」
「君が今はいって言っただろ?」
「いや言いましたけど、それは疑問形のはい? であって決して肯定のはいではなくてですね‥‥」
「駄目なのか?」
「いや、だって帰りも結構遅くなってますし、家の人とか心配してるんじゃ‥‥」
「今日は遅くなると言ってある」
「見ても楽しい物なんて何にもないですし」
「君の部屋を見れるだけで満足だ」
「あ、僕宿題しなきゃ」
「私が教えてやろう」
‥‥駄目だ、隙がない。
「‥‥まぁいいですけど。今日はどうせ家族も遅いですし」
「尚更好都合だ」
「はい?」
「いや、何でもない‥‥で、君の部屋はどこだ?」
知らずにどうやって行くつもりだったんだろ?
まぁ知ってる方が問題だけど。
僕の部屋の前についた。
「じゃ、入って下さい」
「では‥お邪魔します」
「僕以外誰もいないんですけどね」
「こういうのは礼儀だろう?」
二宮さんはそう言って立ち止まった。
「‥‥ご両親はしばらく帰ってこられないのか?」
「えぇ、まぁ‥‥」
「そうか‥‥」
「じゃ、行きましょうか」
僕はそう言って二宮さんの方を向くと、いきなり飛び付かれて、押し倒された。
「な、何するんですか!?」
「さっきのお返しだ‥‥あれだけ私に恥ずかしい思いをさせたんだから、今度は君に恥ずかしい思いをしてもらう」
そう言って二宮さんの顔が近付いて来る。
僕も必死に抵抗するけど、二宮さんの顔は近付いて来る。
「ダ、ダメです!」
吐息が直接かかるくらいまでの位置まで来て、僕がそう言うと、二宮さんは止まった。
「君は嫌か?」
「嫌かどうかじゃないですっ!」
「だが恋人が二人きりになったらこうすると聞いたぞ?」
「誰にですか!?」
「奏」
アイツは‥‥本当に余計なことしか言わない。
「それに‥‥ご両親の帰りは遅いなら、困ることはないだろう?」
「親は帰って来ませんけど‥‥って、何やってるんですかっ!」
気付くと二宮さんは僕の制服を脱がそうとボタンを外していた。
「いや、ヤろうかと」
「何上手いこと言ってんですか! やめて下さいっ! ってか女の子がそんなこといっちゃダメです!」
「ではいたそうかと」
「おんなじです!」
そんなことをしながらも、二宮さんは片手で器用に僕の服を脱がす。
抵抗しようにも、二ノ宮さんは空いてる方の腕で僕の体を押さえつけているから、身動きが取れない。
「さっきのことなら謝ります! だからもう――」
「駄目、だ。もう過去は取り戻せないぞ」
二宮さんは悪戯っぽく笑う。
誰でもいいから助けてくれ――
そう願った時だった。
「ただいまー! 部活が早く終わっちゃたから早く帰ってきちゃ――って、な、何やってるの!」
ドアの方から声がした。
首だけ動かして声のした方を見ると、一番見られたくない奴が立っていた。