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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第三十六話 ドキドキデート

私と悠が出発の準備を終えた頃には十文字と葉は既に旅館を出発しており、奏と沙羅さんはもう少し準備をしてから行くらしい。


「それで‥‥どこに案内してくれるんだ?」


「うーん‥‥まずは、商店街に行こうかなって思ってるけど」


「商店街‥‥?」


「うん、ここの商店街、結構有名だからさ」


「そう‥‥なのか?」


私が訊くと悠は頷く。


「でも、ここからだとちょっと歩くことになるけど‥‥」


「別に構わないぞ」


私がそう言うと悠がホッとしたような笑みを浮かべる。


「よかった‥‥じゃ、行こうか」


悠はそう言って私の手を優しく握った。


「あっ‥‥」


私が思わず声を漏らすと、悠が上目づかいで私を見る。


「ごめん‥‥手繋ぐの‥‥嫌だった?」


悠はどんな冷酷な人間でも罪悪感を感じるであろう反則級の顔をする。


「いや、そんなことは‥‥」


私がそう答えると悠は一転して笑顔になる。


胸の鼓動が速まるのを感じる。


「よかった! じゃ、行こ!」


悠はそう言うと歩き始める。


勿論手を繋ぐのはいいのだけど‥‥私だけがドキドキさせられているような気がして、ほんの少しだけ複雑な感情が湧いた。




商店街は歩いて20分程の所にあった。


「本当に‥‥人気なんだな」


商店街は活気に満ち溢れていた。


「テレビドラマのモデルになったりして、結構テレビにも取り上げられたりしてるし‥‥知らない?」


「私、あまりドラマとか見ないから‥‥」


私達がそんなことを話しながら歩いていると、呉服店の前で一人の女性に話し掛けられた。


「あら、随分と仲が良いわねぇ」


女性の言葉で自分の顔が赤面していくのを感じる。


「ありがとうございます」


悠はいつもと変わらない笑顔で礼を言う。


「親子かしら?」


女性は笑顔で私達に訊く。


「違う!」


「違います!」


私と悠が同時に叫ぶ。


何人かの通行人が私達を見る。


「あら、そうなの? じゃあ姉妹?」


そう言われた瞬間に悠の表情が僅かにむっとした表情に変わる。


私は悠の腕と自分の腕に絡め、悠にくっついた。


「――恋人、だ」


私がそう言うと悠はほんの少しだけ顔を赤くした。


「あら、そうなの? ごめんなさいね。ってことは今デート中?」


私が頷くと、女性は少し躊躇うような表情を見た。


「あら、そうなの‥‥」


「何か用があったんですか?」


悠が女性に尋ねると、女性は再び躊躇うような表情になったが、私達に話し始めた。


「今、ウチの店のPRのために、一般の綺麗な女性に着物を着てもらって写真を撮ってるのよ。だから協力してもらおうと思ってたんだけど‥‥」


女性はかなり困ったような顔をする。


「ま、真鈴、あのさ‥‥」


悠は言いづらそうな顔をする。


それだけで悠が私に何をして欲しいか分かった。


というかそもそも、悠が困った人を放っておくはずがないのだ。


「別に写真を撮るくらいなら‥‥」


「え、本当!?」


女性は一瞬笑みを浮かべるが、すぐに迷ったような表情に戻る。


「でも‥‥デートなんでしょう?」


「少しくらい寄り道しても、構わない‥‥悠も、それでいいか?」


私が悠に一応訊くと、やはり悠は頷いた。


「本当にいいの?」


女性の質問に私が頷くと女性は再び笑顔になる。


「ありがとう! じゃあすぐに準備するから。一緒に来て!」


女性はそう言うと店の中に入る。


私もそれに続いた。




女性が着させてくれた着物は、かなり値段が張りそうな代物だった。


「わぁ! やっぱり美人は何着ても似合うわね! まず彼氏に見てもらう?」


「そ、それは‥‥少し恥ずかしい」


「あら、そう? 似合うのに‥‥ま、とりあえず写真とっちゃおうか」


女性はそう言うとさらに店の奥に行く。


「ここが写真室よ。っていっても夫が趣味でやってるだけの部屋なんだけどね」


女性は笑いながらそう言うと扉を開く。


するとそこには、女物の着物を着て軽く化粧をした悠がいた。


‥‥正直、かなり似合ってる。


悠はじーっと私の方を見ている。


「‥‥何やってるんだ?」


「えっと‥‥別な店員さんに頼まれちゃった」


悠は私が訊くとすぐビクっと体を動かし顔を赤らめ、なぜか私から視線をそらして答える。


「まぁ、悠がいいならそれでいいんだけど‥‥似合ってるな、それ」


「う、うん‥‥ありがとう」


悠は今度は下を向く。


動きがどこかぎこちない気がする。


「どうかしたのか?」


「う、うんうん、なんでもないよ」


悠は慌てたように首を横に振る。


「あ、分かったわ」


私の隣で写真を撮る準備をしていた女性がニタニタと笑いながら言う。


「彼女が綺麗過ぎてまともに見られないんでしょ?」


女性がそう言うと、悠の顔は一瞬で真っ赤になる。


「図星ね? うーん、初々しいわぁ」


女性は愉快そうに笑う。


「そう‥‥なのか?」


私が訊くと悠は頷く。


「そうか‥‥」


悠も、同じなんだ。


一緒にいるだけでちゃんとドキドキしてくれてる。


そう思うと胸が暖かくなる。


「悠‥‥」


私は屈んで、悠の顔にくっつくくらい顔を近づける。


悠は相変わらず真っ赤なまま視線を下に向けている。


「な、何?」


「私‥‥似合ってるか?」


「に、似合ってるよ、勿論」


悠は下を向いたまま答える。


「私を‥‥しっかり見て言ってくれ」


「え?」


「ダメか‥‥?」


私が尋ねると悠は首を横に振って顔を上げた。


「き、綺麗だよ、凄く‥‥」


「ありがとう、悠」


私はそっと悠を抱きしめる。


「ま、真鈴‥‥?」


「不安だったんだ‥‥悠は‥‥私といてもドキドキしないんじゃないかって‥‥」


「そんなわけないだろ‥‥僕はずっと――」


「ラブラブなとこ申し訳ないんだけど‥‥そろそろ写真撮らせてもらっていいかしら?」


女性がニヤニヤしながら私達に訊く。


私達は女性がいたのを思い出し、同時に離れた。


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