第三十四話 朝
私が目を覚ますと悠はすでに目を覚ましていた。
「あ、起きた?」
悠はそう言って微笑んでくれる。
「‥‥悠がキスしてくれたら起きる」
私が冗談でそう言うと悠は本当に私の頬にキスをしてくれた。
「ほら、起きて」
悠は恥ずかしそうにはにかみ、私の手を引く。
「あ、ああ‥‥」
私は促されるままに起き上がる。
「今日は‥‥何をするんだ?」
「奏は『自由行動』って言ってたけど‥‥真鈴はどこか行きたい所ある?」
「とりあえず、この村を見て回りたい‥‥来たことがないから」
「じゃ、そうしようか。じゃあ着替えて‥‥」
悠がそう言いかけたとき、悠の腹がくーっと可愛らしい音を立てる。
「‥‥やっぱりまずはご飯食べようか」
悠が顔を少し赤くして言った。
昨日夕食を食べた大部屋に行くと、すでに葉、奏、十文字がいた。
「ニーノ遅い!」
「遅いって‥‥まだ八時にもなってないぞ」
「こういう時は早起きするもんなんだよ!」
奏は相変わらず元気だ。
それに比べると、葉や十文字は全く元気がない。
「寝てないのか?」
私が訊くと葉は頷く。
「嘘つけ、お前は寝ただろ」
十文字が葉を睨みながら言う。
なぜか片側の頬だけ赤い。
「あんなの寝たって言わないわよっ!」
「じゃああれか、お前は寝てもいないのに寝ぼけることが出来るのか」
「う、うるさいわね、揚げ足取るんじゃないわよ!」
「揚げ足じゃねぇよ、文句あるならお前も理不尽にビンタされてみろよ」
「‥‥何があったの?」
悠が若干呆れ気味に訊く。
「いきなり抱き着かれて、起こしたらビンタ」
十文字が答える。
「だから! あれは寝ぼけてたの! 何度も謝ったでしょう!」
「『秘書が勝手にやりました』って発言する政治家の千分の一程度の誠意のこもった謝罪ならな」
「葉‥‥まだ抱き癖直ってないのか?」
私は十文字の言葉でムッとした表情になった葉に訊く。
「抱き癖?」
「ああ、葉は昔から寝る時には何かに抱き着かないと寝れないんだ。だから葉の部屋はぬいぐるみでいっぱいだぞ」
「ちょ、真鈴!」
私が悠に答えると葉が怒気を含んだ声を出す。
「うっわ、子供みてぇ」
会話に参加してなかった奏が呟く。
「う、うっさいわね!」
葉が奏の頭をぽかりと叩く。
「別にいいじゃないか、可愛い癖で」
「まぁ、そういうギャップがあった方がいいんじゃねぇの?」
「女の子っぽくていいじゃないですか」
私がフォローすると十文字と悠も同調する。
「本当? そうなの?」
葉が私達を見ながら訊く。
「みなさん、料理の用意がみたいですよ」
沙羅さんが襖を開けて入って来る。
「沙羅さん、もう起きてたんですね」
「はい、お手伝いさせて戴きました」
悠が訊くと沙羅さんが笑顔で答える。
「手伝いって‥‥俺ら客だよな?」
「働かざる者食うべからず、ですよ」
沙羅さんはまた笑った。