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僕の恋人  作者: 織田一菜
33/99

第三十一話 温泉にて

まさかの連続投稿です


のんたん=十文字です。


後今回は二宮→一之瀬→二宮と視点が変わっていきます。


カブトさんのアドバイスを生かしシリアス一辺倒にならないように注意しながら書いたら長くなりました‥‥

結衣さんと月さんと別れ、私達は庭から荷物を置いた大部屋に戻って来た。


「あの人が‥‥一之瀬君のお姉さんなの?」


葉が確認するように悠に訊くと、悠は黙って頷く。


「どんな人なの?」


葉が訊くと悠は少し考えた後答える。


「結衣は‥‥僕よりずっと年上でしっかり者で‥‥僕達の親は忙しい人だったから‥‥結衣が親の代わりに僕達の世話をしてくれたんです。とても厳しい人で‥‥何百回と怒られましたけど」


悠はそこまで言うと、昔を思い出したのか苦笑いした。


「恐い人ですけど‥‥決して悪い人じゃないんですよ」


悠はそう言って笑う。


少しの間、部屋の中が沈黙に包まれた。


その沈黙を打ち破ったのは奏だった。


「おい、何で皆して黙りこくっちまうんだよ! ああそうだ、風呂入ろうぜ。ここの温泉、旅館の目玉らしいぜ」


奏はそう言って自分の荷物から入浴するのに必要な道具を取り出す。


「ほら、行こうぜ!」


奏は三神さんの手を引っ張る。


「分かったから! 引っ張らないで!」




◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆



この旅館はいくつか温泉があり、露天風呂もあるらしい。


今、僕達が入っているのはログハウスのような内装の風呂だった。


広い湯舟には僕と十文字しか浸かっていない。


「‥‥大丈夫?」


隣に居た十文字が僕に訊く。


「何が?」


「あの人のこと‥‥」


「十文字が心配するようなことじゃないよ」


僕がそう言うと十文字は首を横に振る。


「心配するさ‥‥あれは俺のせいだ。俺がもっと早く決断してれば‥‥」


「十文字は関係ないよ。あれは僕達からみたら事故みたいなものだから。それに‥‥」


僕がそこまで言うと、隣の女湯から声が聞こえて来た。


「おぉ、スゲー!」


奏だった。


「丸聞こえ‥‥」


「仕切りの上の部分が開いてるから」


そういって十文字は女湯のある方の壁の上側指すと、確かにそこには敷居がなかった。


「ほら、誰もいないからってそんな大声だしたらダメでしょ」


三神さんが奏をたしなめる。


四人共あっという間に体を洗ってお湯に浸かった。


その間、奏はしゃべり続けていた。


「向こうは随分と賑やかだ‥‥」


十文字が呆れたように言う。


「あれは‥‥空元気だよ」


「空元気?」


「うん。結衣に会って‥‥なんとなく皆暗くなっちゃったから‥‥あいつなりの配慮なんだよ、あれは」


向こう側では相変わらずの賑やかさで僕達の会話は伝わらなかったようだ。


「奏は‥‥結衣さんのこと‥‥知ってたのか?」


真鈴がそう聞くと奏は急に静かになった。


「‥‥知ってるよ、小さい頃から‥‥周りに凄く厳しかった」


「奏は‥‥結衣さんが苦手なのか?」


「え!?」


奏は真鈴がなぜ気がついたのか分からないのか、凄く驚いたような声を出した。


「気がついてなかったのね‥‥あなた、凄く嫌そうな顔してたわよ」


三神さんが呆れたような声で言う。


「うわやっべ‥‥」


「どうしてそんなに嫌いなの? 奏にしては珍しいじゃない」


三神さんがそう訊くと奏は少し間をあけて答えた。


「嫌いっていうか‥‥真鈴が言った通り苦手なんだよ、あの人こと。すげぇ完璧主義者で、氷みたいに冷たくて‥‥あの人に比べたら普段の真鈴なんて全然『氷の女王(ブリザード・クイーン)』なんかじゃない」


「だから‥‥私みたいな奴に話し続けてくれたのか?」


「『私みたいな奴に』って‥‥そんな卑屈になんなよ。俺が真鈴に話しかけたのは『綺麗な奴がいるなぁ』って思ったからだよ。結衣さんは全然関係ない」


奏はそう答えるとほんの少し黙ってからまた話し始めた。


「悠は言わなかったけど‥‥結衣さんは悠や由香に対して誰よりも厳しくて冷たかった。いつも見てるこっちが辛いくらい悠達はなじられてて‥‥俺も結構色々言われたけど‥‥悠達に比べたらずっとずっとマシだった。そのくらい悠達には冷たかったんだ」


奏が話し終わると向こう側がシーンと静まった。


(‥‥事実なの、今の話?)


十文字が小声で僕に訊いてきた。


(うーん‥‥まぁ、そうかな)


僕が小声でそう返すと、今までのシリアスモードを全部ぶち壊すように騒がしくなった。


「ちょ、どこ触ってんの!?」


「うわ、ミカのすげぇ柔らか! 形もいいしでかいし‥‥これはEくらいはあるかな?」


奏がまた暗くなった状況をなんとかしようとしているようだ。


「ちょ、何言ってんの!?」


「この前Cとか言ってなかったか? もうそんなに大きくなったのか?」


「ちょっと、本気にしないでよ! 奏も適当なこと言わないでよ!」


「いや、適当じゃねぇって。Eくらい余裕であるって‥‥」


奏はずっと喋り続ける。


(実際どうだったの?)


僕は小声で十文字に聞く。


(な、何が?)


(胸、大きかったの? 『夢魔の巣(サキュバス・ウェブ)』に行った時に触ってたでしょ?)


(あれは事故で! ‥‥それにそんなに長い間触ってたわけじゃないし‥‥)


十文字はそこまで言うと、恥ずかしさをごまかすように口のあたりまで潜った。


「巨乳だし、肌もすべすべだし、顔も可愛いし、背高いし、これだけ高クオリティだったらあいつも一発で落とせるんじゃねぇの?」


「あいつって、誰だ?」


真鈴が訊く。


「決まってるだろ。のんたんだよ、のんたん」


それを聞いて十文字がお湯の中で吹き出す。


(ちょ、汚いなぁ、もう‥‥)


(いや、だって‥‥)


向こうでも三神さんが物凄く抗議している。


「な、何で私があいつにそんなことしてやらなきゃいけないのよ!?」


「だってお似合いじゃん。素のミカ出せる異性なんて悠達抜かしたらのんたんくらいだろ? それに、なんか最近悠とかも含めて一緒に飯食ったりして仲良いだろ?」


「それはあいつが他の奴らが関わらないでいつも一人だから可哀相に思ったから‥‥」


「でもあいつ入学した時からずっと一人だったろ? ミカがのんたんと仲良くなったのってゴールデンウイークの前くらいじゃなかったっけ?」


「それは‥‥」


三神さんが言い淀む。


多分ここまで親しくなったのは真鈴が誘拐された時に一緒に行動したことがきっかけだろうけど、真鈴が誘拐されたことは秘密にしてあるから言い出せないんだろう。


「一之瀬君に話を聞いたり、実際に話してみたりしと、皆が言うより怖くないって分かったからよ」


三神さんがそう言うと、少しの間向こう側は沈黙が続いた。


「‥‥悠、のんたんとのこと話したの?」


「全部話してくれた。悠が『ナイトメア』で総長やってたことも」


「‥‥そうか」


「それがどうかしたの?」


「いや、別に深い意味はないんだけどな‥‥ま、そんなことよりミカとのんたんのことだよ」


「だから! 私はあいつとはそういうのじゃなくて!」


「嫌いなのか?」


三神さんの言葉の途中で奏が訊く。


「嫌いじゃ‥‥ないけど‥‥でも、嫌いじゃないってだけ! 別に好きってわけでもないの!」


「おお、見事なツンデレ‥‥」


「誰がツンデレよ!?」


向こう側ではまだまだ騒ぎは続く。


三神さんはもう最初にした注意を忘れたようだ。



◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「沙羅さん、大丈夫か?」


私は結衣さんに会ってから黙りっぱなしの沙羅さんに尋ねた。


「‥‥え? 何か御用ですか?」


「珍しいな、そんなにぼーっとするなんて‥‥」


「少し考え事を‥‥ご心配おかけしまして申し訳ありません」


「いや、大丈夫ならいいんだ」


「二人だけで何喋ってるんだ!!」


奏が後ろから私に飛びついてくる。


「ちょ、奏!」


「うわ、真鈴って着痩せするんだ‥‥」


「さ、触り方が嫌らしいぞ!!」


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