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僕の恋人  作者: 織田一菜
31/99

第二十九話 到着

悠の喋り方が安定しない‥‥

こんな喋り方だっけ?

沙羅さんの車は中が凄く広く、座席もふかふかで非常に坐り心地が良かった。


3列シートの一番後ろに十文字と三神さん、真ん中に僕と真鈴、一番前に奏と沙羅さんが座った。


奏はさっそく沙羅さんと打ち解け、楽しそうに話している。


僕達の後ろでは十文字と三神さんが無言で座っている。


(‥‥何で十文字なんだ?)


真鈴が二人に聞こえないような小さな声で僕に聞く。


(どういう意味?)


(いや、十文字はナイトメアの総長なんだから、忙しいんじゃないのか?)


(総長って言っても、非常事態が起こらない限り他の人とあまり変わらないから‥‥それほど忙しいってわけじゃないよ。それに十文字がこっちに来てる間は京極君が代わりにやってくれるって言ってたし‥‥十文字、いつも『ナイトメア』のメンバーのことばかり考えて、自分のことは二の次にするから‥‥今回はリフレッシュさせようかと思って連れて来た)


まぁ、他の皆も他に用事があったからって理由もあるけど(由香と砂川先輩は部活、モモさんと千夏さんは『ナイトメア』のメンバーの世話、京極君は砂川先輩に「行っちゃダメ」と言われたらしい)。


「何二人でひそひそ話してるの?」


後ろから三神さんが顔を出し訊く。


「別になんでもないぞ」


真鈴が答える。


「みんなでの旅行なんだから二人でいちゃいちゃするなら夜にしろよ?」


前から奏がこっちを振り向いて言う。


「い、いちゃいちゃなんて‥‥」


真鈴はそう言って顔を赤くして俯く。


「別に恥ずかしいことじゃないだろ?」


「そんな考え方するのは奏くらいだよ」


「そうか?」


奏は笑顔で言う。


「そうだよ‥‥」


「みなさん、そろそろ着きますよ‥‥後ろの二人、喧嘩止めて下さい」


僕と真鈴が後ろを振り向くと、いつの間にか三神さんと十文字が喧嘩していた。


十文字はいつもの様子だけど、なぜか三神さんが真っ赤になっていた。


「なんで喧嘩してるんですか?」


「なんでいちゃいちゃしてるんだ?」


僕と奏が同時に聞く。


「い、いちゃいちゃなわけないでしょーが!!」


三神さんが大声で叫ぶ。


「そんな必死に否定しなくても‥‥」


真鈴がぼそっと呟いた。




「着いたーっ!」


奏が車から降りて叫ぶ。


着いた旅館は三階建てで古すぎもせず、新し過ぎもしない、ランク付けするなら中の上といった感じの建物だった。


「ほら、みんな行くぞ!」


奏はそう言って走って行く。


「ちょ、自分の荷物持って行け! ってか走るな!」


僕がそう言って奏を追いかける。


奏に追い付いたのは二階にある大部屋の前だった。


「ここに泊まるの?」


「いや、ここは飯食うとこだ‥‥一応貸し切りだけとな」


そう言って奏が扉を開ける。


「うお、絶景!」


大部屋から外の大自然が一望できるようという配慮からか窓が異常に大きかった。


「確かに凄い‥‥」


僕はそう言って窓に近づいて外を見た。


何気なく、とくに意味なんかなく、下にある庭を見た。


そこには、ここにいるはずのない人がいた。


「嘘‥‥っ!」


僕は走り出す。


その人に会うために。


他人であって欲しかった。


たまたま似てる人であって欲しかった。


もし『あの人』なら、こんなところにはいないはずだ――


そう思いたかった。


靴も履かずに外に飛び出し、庭に向かって走った。




庭に着いてすぐ、『その人』はこちらを向いた。


「あら‥‥もしかして、悠?」


『その人』は長い茶髪をかきあげた。


他人の空似じゃなかった。


張本人だった。


「なんで‥‥なんであんたがここにいるんだよ、結衣‥‥」


「それはこっちの台詞よ‥‥あんたに会うなんて何年ぶりかしら‥‥」


結衣はそう言ってクスリと笑う。


「久しぶりね、悠‥‥あんたみたいな弟、出来ればもう会いたくなかったけど」


そう言った結衣の顔は、ひどく悲しそうに見えた。

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