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僕の恋人  作者: 織田一菜
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第二十七話 ベッドの中で

初の由香視点です。

時計の針は深夜0時をとっくにまわっていた。


だけど、僕はなかなか寝付けなかった。


それは――


「悠‥‥まだ起きてるのか?」


‥‥同じベッドで隣で真鈴が横になっているせいだった。




それは4時間程前の話だった。


「一之瀬君は、これからどうするの?」


真鈴がリビングに戻って晩御飯を食べた後、三神さんが僕に聞いて来た。


「真鈴も大丈夫っぽいですから‥‥そろそろ帰ろうかと思います」


「あら、お帰りになるんですか? このまま泊まっていかれたらいいのに‥‥」


沙羅さんがそんなとんでもないことを言い出す。


「いや、そんな迷惑でしょうし‥‥」


「全然迷惑ではありませんよ」


沙羅さんが笑顔で言う。


「でも、明日学校ですし‥‥」


明日は土曜日だけど城羽学校では午前中は授業がある。


「大丈夫です。ここから通えますから」


そりゃあそうだろう、真鈴と三神さんはこのマンションから通ってるんだから。


「だけど、鞄とか制服とか‥‥」


「では今から取ってきましょう」


「それにまだ僕風呂に入ってないんですけど」


「うちにもお風呂あるよ」


三神さんが会話に参加してくる。


「それはそうでしょうけど‥‥着替えもないですし‥‥」


「鞄や制服取りに行った時に持ってきますよ」


「でも‥‥由香や六車さんに何も言ってないですし‥‥」


「荷物を取りに行った時に私が責任を持って報告してきます」


「‥‥せめて説明って言って下さい」


「で、どうするの?」


三神さんが笑顔で言う。


「えっと‥‥」


僕は真鈴を見る。


「真鈴が‥‥いいんなら‥‥」


僕がそう言うと真鈴がピクッと反応する。


「わ、私?」


「真鈴はどうなのか聞いてないし‥‥」


それにきっと真鈴なら反対してくれると思った。


だけど――


「‥‥構わないぞ、別に」


真鈴は僕の予想を裏切り肯定してしまった。


断る理由が無くなってしまった。


「いいみたいだけど?」


三神さんはそう言って笑う。


「‥‥分かりました。泊まっていきます‥‥よろしくお願いします」


「はい、どうぞ、ゆっくりしていって下さい」


沙羅さんはそう言って微笑んだ。




それから沙羅さんと僕はすぐに僕の家に行って荷物を取って来た。


六車さんと沙羅さんは知り合いだったらしく、「沙羅さんだったら安全だね!」と言って簡単にOKしてくれた。


由香も意外なほどあっさり納得してくれた。


「呼び方、変えたの?」


荷物を整理している時に由香が僕に聞いた。


「え?」


「二宮さんの呼び方。さっき真鈴って言ってたじゃん」


「え、ああ、うん。真鈴がそうしてくれって言うから‥‥」


まさか押し倒されて脅されたなんて由香には言えない。


「そっか‥‥」


由香は少し暗い顔をした。


「悠が‥‥だんだん遠くなって行く気がするよ‥‥」


由香はそう言って悲しそうに笑う。


「大丈夫だよ」


僕はそう言って由香の手を取った。


「言ったでしょ? 『心配しなくても、僕は由香を忘れたりなんかしないよ』って。真鈴がいるから、もうずっと傍にはいられないけど‥‥それでも僕はずっと由香の近くにいるから、心配しないで」


僕がそう言って微笑みかけると、由香は涙を流した。


「うん‥‥ありがとう‥‥」


そう言って由香は僕を包み込むように抱いた。


まるで自分の涙を隠すかのように。



そして、真鈴の家に戻ると、居間には三神さんしか残っていなかった。


「葉、お嬢様は?」


「お風呂に行ったわよ」


三神さんがテレビを見ながら答える。


「‥‥だ、そうですけど一之瀬さん」


沙羅さんは荷物を部屋の隅っこに置いた僕に向かって言う。


「はい?」


「覗きにいきますか?」


沙羅さんは笑顔でとんでもないことを僕に訊いてきた。


「な、何言ってるんですか?」


「お嬢様の裸見られますよ‥‥お嬢様、かなりスタイルいいですよ」


「それはそうですけど‥‥でもだからって」


「ダメよお母さん、一之瀬君、本気にするから」


テレビを見ていた三神さんがこちらを向いて言う。


「じょ、冗談だったんですか‥‥」


「はい」


沙羅さんが笑顔で答える。


や、やられた‥‥


「ふふ、一之瀬さん、真っ赤になって可愛かったですよ」


沙羅さんはそういって悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「ところで、一之瀬君どこで寝るの?」


三神さんが沙羅さんに訊く。


「それは‥‥」


沙羅さんはそう言って三神さんの耳元でごにょごにょと何かを言う。


「‥‥上手くいくの?」


三神さんがそう言うと沙羅さんはまた三神さんの耳元でごにょごにょと何か言う。


何を言っているか分からないけど、沙羅さんの悪戯っ子顔を見ると、ロクなことではなさそうだ。




「悠はどこで寝るんだ?」


真鈴が風呂から上がり、僕もシャワーを浴びて(なんとなく真鈴が入った後に入るのが照れ臭かったから、寒かったけど我慢して浴びた)、しばらくしてから真鈴が訊いてきた。


「どこって‥‥そりゃあ真鈴の部屋でしょ」


三神さんが言った。


「何言ってるですか!?」


「何言ってるんだ!?」


僕と真鈴が同時に言う。


「いいじゃない、恋人なんだから」


三神さんはニヤついた顔で言う。


さっきの内緒話はこれだったようだ。


「わ、私の部屋じゃなくても‥‥この部屋でもいいじゃないか!?」


「お客様をこんなところで寝かせるわけにはいきません」


「だけど‥‥」


「真鈴の部屋が嫌なら私の部屋に来る? 私はいいわよ?」


「あ、私の部屋でもいいですよ?」


三神さんが僕に言うと、続けざまに沙羅さんも言う。


「い、良いわけあるかー!!」


真鈴が真っ赤に叫ぶ。


「だって、真鈴自分の部屋に入れるの嫌なんでしょ? だったら私が――」


「‥‥分かった。私の部屋でいい‥‥悠も、それでいいな?」


真鈴が真っ赤なまま僕の顔を見て言う。


拒否出来る雰囲気ではなかった。


「う、うん‥‥」


三神さんと沙羅さんは二人で作戦成功を喜んでいた。




‥‥‥そして今にいたる。


僕が床で寝ようとしたら、真鈴に止められ、話し合った結果こうなってしまったのだった。


「悠‥‥寝たのか?」


真鈴がもう一度訊く。


「起きてるよ‥‥どうしたの?」


僕が天井から真鈴の方に体の向きを変える。


真鈴の顔はこういうシチュエーション(恋人で二人きりでヘッドの中)だからか、いつもよりも強張っているように見えた。


「ずっと‥‥考えてたことがあるんだ‥‥」


真鈴はそう言うと少し俯いた。


「私を‥‥誘拐した奴らが言ってた‥‥『ここにいる奴らは君によって屈辱を味わった奴ら』だと‥‥私はいつの間にか‥‥他人を不幸にしていたんだろうか‥‥」


真鈴は悲しそうな顔でそう言った。


「『人ってねぇ、何しても嫌われるんだよぉ』」


「え?」


いつもと違う僕の口調に真鈴は驚いたような顔をした。


「って、京極君が貸してくれた漫画に書いてあったんだけどね‥‥これは多分、正しいことだと思う。人間って‥‥自分の気がつかないうちに他人を傷つけたり、迷惑かけたり、怒らせたり、悲しませたりする‥‥きっとそういうものなんだと思う。だから、真鈴がそのことを気にするのは、悪いことじゃないけど‥‥良いことでもないよ」


僕はそう言って真鈴の頭を撫でる。


「僕と真鈴の関係は‥‥そういう人達のおかげで成り立ってるんだと思う。だから、もし真鈴が気にしてるんだったら‥‥僕達が幸せになるしかないんだと思う‥‥」


僕が言うのはなんだかおこがましい気がするけれど。


「そう、だな‥‥」


「僕は今‥‥真鈴と一緒にいられて‥‥好きな人と一緒にいられて‥‥凄く幸せだよ」



「私もだ‥‥悠」


真鈴はそう言って僕にキスをする。


「これからも‥‥ずっと一緒に勉強して、遊んで‥‥どんなことがあっても、ずっと‥‥」



「うん。ずっと一緒にいる。いつまでも、真鈴の傍にいる」


そして、今度は僕の方から、キスをした。

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