第二十一話 アドレス
「キス魔な彼女と草食系僕」連載中です
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「全く、いったいどういうことだ‥‥」
僕の前の席に(フミの席)座った二宮さんが今日何度目かのため息をつく。
二宮さんにため息をつかせたのは、今朝のことだろう。
登校途中、二宮さんは何人もこの学校の男子生徒に勝負を挑まれていた。
もちろん全員あっさり倒していたけど。
それでも二宮さんにとって(誰だってそうだと思うけど)訳もわからずいきなり戦わされるのはあまり気分のいい物じゃなさそうだ。
「いったい何があったんでしょうね‥‥」
僕がそう言うと、二宮さんは当然首を傾げ、隣にいた三神さんも首を横に振った。
すると、八雲と奏がめずらしく僕達より遅く教室に入って来た。
二人は入って来るなり、僕達の席に向かって歩いて来た。
「どういうことだよ、ニーノ!!」
奏がかなりの大声で二宮さんに詰め寄る。
「な、何がだ?」
「何がだ、じゃねぇよ!」
「落ち着け、奏」
八雲が奏に言う。
「これが落ち着いてられるかっつうの!! 意味わかんないこと言うなよニーノ!」
「こっちの方が意味わかんないわよ」
三神さんが僕や二宮さんにしか聞こえないくらいの小さな声でツッコミを入れる。
「何があったの?」
僕は落ち着いている八雲に聞く。
「二宮に勝負したら付き合ってもらえるって学校中の噂になってるんだ」
「は!?」
思わず大声になる。
「どういうことだよニーノ!!」
「どういうことって言われても‥‥身に覚えがない」
「じゃあなんであんな噂が流れてるんだよ!!」
「私に聞かれても‥‥」
二宮さんも困惑しているようだ。
すると、三神さんが何か思い出したような仕種をする。
「‥‥もしかして、昨日のアレじゃないですか?」
「アレ?」
「ほら、昨日の不意打ち‥‥『勝ったら付き合ってもらえますか』って言ってたじゃないですか。それが間違って広まったんじゃ‥‥」
僕と二宮さんは思わず顔を見合わせた。
三神さんの読みは当たっていた。
放課後、勝負をしかけてきた生徒に聞くと、『二宮さんを倒せば付き合ってもらえる』という噂が学園の中で広まっているらしい。
喧嘩に厳しい校則のおかげか、さすがに学校の中で勝負を挑まれることはなかったけど、学校の外に出ると次々と勝負を挑む人が現れた。
もちろん二宮さんは全員倒してたけど。
それでもしつこく現れる相手から逃げるように、僕の部屋に来ていた。
「あ、お帰り!」
僕達をそう言って迎えてくれたのはなぜか勝手に上がり込んでいた六車さんだった。
「何で六車さんがいるんですか?」
「何さその言い方! 来るなって言ってるみたいじゃないの」
「来るのはいいんですけど‥‥どうやって入ったんですか?」
きっちり鍵はかけたはずだ。
「私管理人だよ」
「‥‥合い鍵使ったんですか」
僕がそう言うと六車さんは笑顔で頷く。
「とりあえず、勝手に来るのは‥‥」
「勝手じゃないもん。今日は遅くなるからって、由香ちゃんに頼まれたの!」
そんな話は全然聞いてない。
「携帯にメールしたって言ってたよ? ‥‥もしかして、メール見てないの?」
「見てないっていうか‥‥持って行ってないです」
「携帯の意味ないじゃん! 携帯を携帯しない人初めて見たよ」
「いや、由香から無理矢理持たされてるだけだし‥‥」
僕はそう言って自分の部屋に入り、携帯を確認する。
確かに由香から『今日帰り遅くなるから、京華ちゃんに頼んでおいたから』というメールが来ていた。
「メール来てたでしょ?」
いつの間にか僕の後ろに立っていた六車さんが聞く。
「勝手に部屋まで入ってこないで下さいよ‥‥」
「いいじゃん! 悠ちゃんのケチ!」
「ケチって‥‥」
そういう問題ではない気がする。
「一之瀬‥‥メール、するのか」
六車さんについて来た二宮さんが僕の部屋の前に立って聞く。
「そりゃあメールの機能のありますから‥‥」
というか、初めてあった時、二宮さんの目の前で使った気がする。
「私に‥‥その、アドレスを‥‥教えてくれないか?」
二宮さんは何故か顔を少し赤らめながら僕に聞いてきた。
「いいですよ」
僕はそう言って六車さんを連れて部屋を出た。
その後、アドレスを交換して、色々と雑談をして30分くらいで二宮さんは帰って行った。
二宮さんが帰ってからしばらくして、僕が部屋を掃除しているとソファーの隙間に何かチカチカ光る物を見つけた。
手を突っ込んで取り出すと、それは二宮さんの携帯だった。
どうやら忘れていったみたいだ。
チカチカ光っていたのはメールを受信したことを知らせるライトだった。
明日返せばいいか、と思ってテーブルに置こうとしたとき、いきなり聞いたことのない音楽が鳴り出した。
電話の着信のようだ。
どうしようか迷ったけど、かけてきた相手が三神さんだと分かり、とりあえず二宮さんが携帯を忘れたことを伝えようと思って携帯に出た。
「もしもし」
『あれ? 一之瀬君? 何で?』
「二宮さんが僕の家に携帯忘れたので‥‥」
『忘れたってことは、今そこにいないの?』
「はい、もう帰りましたけど‥‥どうかしたんですか?」
『真鈴が帰って来ないのよ。いつも帰るって言った時間には帰って来るのに‥‥知らない?』
分かりません、とそう答えようとした時、チャイムも鳴らさずに誰かが扉をあけて入って来た。
「悠様!!」
入って来たのはモモさんだった。
後ろには十文字が着いて来ている。
二人ともそうとう急いでいたようで、かなり息が切れている。
「モモさん? どうしたんですか?」
「二宮さんが‥‥‥誘拐、されました」