第十七話 本当の理由
今回はブログのsunset様のコメント内にあった「ナイトメアは僕の一部」の理由が分かる回です。
「だ、大丈夫ですか二宮さん?」
「‥‥少しだけ疲れた」
二宮さんがげんなりした顔で言う。
「‥‥普通私の方を心配しない?」
千夏さんが僕を睨む。
「千夏さんはドMだから大丈夫かなって」
「いや、いくらなんでもあれは‥‥無理だって。死ぬかと思ったし」
「そうなんですか?」
「うん。それに、いじめられるなら悠の方がいいし」
そう言って千夏さんが僕に抱き着いてくる。
「コラ、離れろ!」
そう言って二宮さんが強引に僕を引き離し、僕を抱きしめた。
「もう‥‥ケチ」
「ケチじゃない! 一之瀬は私の、こ、恋人だ! 誰も触っちゃダメなんだ!」
二宮さんが真っ赤な顔して叫ぶ。
「『氷の女王』がこんなに必死になるなんて‥‥悠、凄いね」
千夏さんが少し驚いたように言う。
「『氷の女王』なんて、本当の二宮さんを知らない人が付けた、勝手な名前ですから。本当の二宮さんは、もっと可愛いくて、楽しい人ですし」
「一之瀬‥‥ありがと」
二宮さんが僕を抱きしめたまま答える。
「本当にラブラブだね、二人共‥‥おかげでいい写真取れたし」
「「え?」」
僕と二宮さんが声を揃えて言う。
千夏さんはにんまりと笑うと、首にかけてあったネックレスを外した。
「ネックレス型盗撮器~」
某青いネコ型ロボットのような口調で千夏さんが言う。
「盗撮って‥‥」
「シャッター音しないし、見た目はネックレスだからばれる心配もないし、ブレ防止機能もついてるからその心配もないよ」
「何ですかその無駄に高いクオリティーは‥‥」
千夏さんはこういうアイテムを作るのが趣味だ。
盗撮だったり盗聴だったりと、その方向性が犯罪的なところにしかいかないのがたまにキズだけど。
「いつ撮ったんだ?」
「パーティー始めた頃から連写しっぱなしだよ。自動的に私のPCに送られるから小さいけど容量あるし。二宮の照れてる顔もバッチリだよ」
千夏さんはニコニコ笑っている。
「それを‥‥新聞に載せるのか?」
二宮さんは顔を真っ赤にし、体をわなわなと震わせる。
「どれにしようか迷ってるんだけどね‥‥」
載せることは決定済みのようだ。
「‥‥載せたらさっきより酷いことするから」
二宮さんがなるべく無表情で(顔は真っ赤だけど)千夏さんを脅す。
「そんなことしたら今日撮った写真全部学校中にバラまくからね」
千夏さんは笑ったまま二宮さんを脅す。
「そ、そんなの‥‥卑怯だぞ!」
「スクープのためならどんな手でも使うよ!」
「なんか芸能記者みたいですね、千夏さん‥‥」
僕は正直呆れていた。
「ところでさ、二宮が悠を異性として見始めたのっていつなの?」
「さっき説明したじゃないか」
二宮さんは千夏さんを睨んだまま言う。
「いや、あれは悠を人として好きって話で、異性として好きって話じゃないじゃん。いつから代わったの?」
「言ったらまた記事にする気なのに、言うわけないだろう」
二宮さんは少し苛立ったように言う。
僕や三神さん、由香以外に初めて苛立っている姿を見た。
「じゃあ、悠、二宮の話の後何があったか教えて。そこから判断するから」
「あの後、ですか?」
「い、言うな一之瀬!」
二宮さんが焦っているのか声が少し大きい。
「‥‥ダメみたいです」
「えぇぇ‥‥」
「オイラも気になるよぉ」
「私も聞きたい!」
千夏さんが残念がっていると、いつのまにか僕の後ろにいた京極君と由香が言った。
実際僕も気になってる。
「二宮さん‥‥教えてくれませんか?」
僕が二宮さんを見つめると、徐々に元に戻ってきていた顔が一気に赤くなり、僕から目を逸らした。
「‥‥そ、そんな顔で見るな‥‥」
「え、ごめんなさい‥‥」
僕は何が悪かったのかわからないけれど、とりあえず謝る。
「いや、謝ることじゃなくて、その‥‥」
二宮さんはそのまま黙ってうつむく。
「二宮さんはぁ、照れてるんだよぉ」
「照れてる? 何に?」
「悠のその上目づかいの表情に決まってるじゃん」
由香が呆れ顔で言う。
「悠はもっと自分のこと知るべきだと思うよ。それ立派な武器になるし」
由香はそう言って腰を屈め僕と視線を合わせ、僕の頬に触れる。
「悠はこんだけ可愛いんだから、もっと自覚持ちなさいよ」
自覚はしてるけど、認めたくないだけだ。
「あ、あんまりベタベタ触るな」
二宮さんが由香に言う。
「じゃあ、悠になんで惚れたのか、話して下さい」
「そ、それは‥‥」
「話してくれないと‥‥悠にキスしますよ?」
由香はそう言って僕を軽く抱きしめる。
「な、何を言ってるんだ! ダメに決まってる! というか一之瀬を抱きしめるな!」
「じゃあ話して下さい。全部聞き終わったら離します」
由香が微笑みながら言う。
二宮さんは少しだけ躊躇したけど、嫌々話し始めた。
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一之瀬の言葉で励まされた後、私達は、自己紹介をしてなかったことに気付いて、簡単に名前だけ告げて、相変わらずマンションまでの道を歩いていた。
すると、一匹の猫が木に登ったまま降りられなくなっているのを見つけた。
周りの野次馬達はただ見るだけで、助けようとは誰もしなかった。
「あ、猫が‥‥ごめんなさい、二宮さん、三神さん、ちょっと助けてきます」
「私も行こう。葉は‥‥」
「ごめんなさい、私、猫アレルギーだから‥‥」
「じゃあ、三神さんはここで待ってて下さい」
私と一之瀬はそう言って葉を置いて木のところに行った。
「どうやって助けましょう、僕、木登りできませんし‥‥」
「君が私の肩の上に立てばいい。しっかり掴んでおくから安心してくれ」
「え、でも‥‥」
「私は靴を脱いでくれれば全く構わない」
「‥‥なら、お願いします」
一之瀬はそう言って靴を脱いでしゃがんだ私の肩に乗り手を伸ばす。
一之瀬の手はぎりぎり猫に届き、何とか猫を助けることが出来た。
猫は野良だったようで、一之瀬が地面に降りると一目散に走って行った。
「猫、可愛いかったですね」
「ああ」
私達はそんな話をしながら戻ると、葉が見るからに不良、というような男二人組(金髪モヒカンと顔にピアスを何個も付けた男)にナンパされていた。
しかし、葉は明らかに嫌がっていた(そもそも用があるのだから、ついていけないのだが)。
「葉、どうしたんだ!?」
「あ、真鈴‥‥」
「うわ、こっちの子も可愛いじゃん?」
金髪モヒカンの方の男が言う。
「君も俺らと来ない?」
顔ピアスの方がニヤつきながら私に聞く。
さすがに私の容姿を見ても恐怖を抱いたりはしないようだ。
私が睨みつけても下品な笑みを止めず、私の腕を取る。
「気安く触るな!」
私が腕を振り払うと、初めて男達の顔から笑みが消えた。
「んだとコラァ!?」
「調子に乗ってんじゃねぇぞこのクソ女ァ!」
金髪モヒカンの方が私に殴りかかって来た。
それはあまりに稚拙な拳で、私なら簡単に避けられるはずだった。
しかし、視界の範囲ぎりぎりで顔ピアスの方の拳が見えた。
見事な連携プレーで、私の逃げ場は失われていた。
「真鈴!!」
葉の叫び声が聞こえた。
やられる、と思った。
しかし、金髪モヒカンの方が急にバランスを崩し、拳はあらぬ方に曲がり、私は瞬時に顔ピアスの方に向き直り、拳を止め、足を払い投げ飛ばした。
顔ピアスは背中から落ち、動かなくなった。
金髪モヒカンの方を見ると、なぜ彼がバランスを崩したのがが分かった。
一之瀬が足払いをかけていたのだ。
「っのガキ!!」
金髪モヒカンはそう言うと一之瀬の頬を殴る。
一之瀬はよろけて倒れた。
私は金髪モヒカンの腕を掴んで地面にたたき付けた。
金髪モヒカンも顔ピアスと同じように動かなくなった。
「だ、大丈夫ですか?」
葉が一之瀬に駆け寄った。
「大丈夫ですよ、心配しないで下さい」
一之瀬はそう言ったが、モヒカンがつけてた指輪のせいで、頬が切れ血が流れてた。
「血が出てるじゃないですか!?」
「いや、これはただのかすり傷で‥‥」
「いいから、見せて下さい!」
葉はそう言って鞄から傷薬とガーゼを取り出し、傷口を消毒し、最後に絆創膏を貼った。
「すまない、私のせいで‥‥」
「二宮さんのせいじゃないですよ。避けられなかった僕が悪いんです。だから、気にしないで下さい」
一之瀬はそう言って私達に向けて笑った。
それは、多分私達を心配させないようにするための笑顔。
その笑顔を見た時、一之瀬をかっこいいと思った。
私の胸が高鳴るのを感じた。
私の顔が赤くなってるのを感じた。
そして、私は一瞬で理解した。
私はこの人に惚れたんだと―――
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「結局、悠の笑顔に惚れたってこと? 普通過ぎて面白くないわ」
千夏さんが言う。
「千夏さん‥‥」
「失礼だよぉ、千夏先輩ぃ」
京極君がのんびり注意する。
「ま、いいけどね。これでいい記事がかけそうだよ」
「‥‥やっぱり、記事にするのか‥‥」
「当たり前じゃん!」
笑顔で千夏さんが言うと由香が僕から離れ、千夏さんの方を向く。
「悠と二宮さんのこと記事にしたら‥‥悠とのやりとり、つっくんに全部バラすから」
由香がそう言うと、千夏さんの顔が凍りついたように固まる。
「し‥‥証拠がないから‥‥」
「あるよぉ、証拠ぉ」
そう言って京極君が取り出したのは指輪だった。
「そ、それは、私の作った盗撮器動画版指輪型!!」
‥‥そんな物まで作ってたのか、千夏さん。
「オイラのパソコンの中にぃ、あのことが動画で全部入ってるからぁ」
京極君がニコニコしながら言う。
「う、うぅぅ‥‥分かった、記事にはしないよ‥‥」
千夏さんは泣きそうな顔でそう言ってとぼとぼ去って行った。
「由香さん、京極‥‥ありがとう」
「いえ、気にしないで下さい!」
「楽しい物見せてもらったからぁ、別にいいよぉ」
二人は笑顔で答える。
「ところで、何で一之瀬は私をここに連れて来たんだ?」
二宮さんが僕に聞く。
それは―――
「二宮さんに、知って欲しかったんです。今僕が見せられる僕の全てを」
「え?」
「由香がいて、奏や八雲がいて、十文字やモモさんや千夏さんや京極君、『ナイトメア』のメンバーがいて、今の僕がいるんです。だから‥‥二宮さんには、みんなの事、知って欲しかったんです。『ナイトメア』では‥‥色んな事がありました‥‥いいことも、悪い事も。でも、それがあったから、今の、二宮さんが好きになってくれた、僕がいるんです」
僕はそう言って笑う。
「それに『ナイトメア』はただの不良の集団だって、思われたくなかったんです。確かに『ナイトメア』には十文字みたいに不良って言われるような人もいます。でもモモさんみたいな人もいるし、そういう人でも、悪い人ばかりじゃないって、分かってて欲しかったんです」
「一之瀬‥‥私は‥‥」
「二宮さんは、どう思いましたか?」
「え?」
「『ナイトメア』のこと‥‥また来たいって、思いました?」
二宮さんは少しだけ考えて言った。
「ああ、そうだな。想像してたような人達じゃなくて‥‥楽しそうな人達だったから」
二宮さんが微笑んでくれる。
お世辞とかじゃなく、本当にそう思ってくれたようだ。
「よかったです」
僕も笑うと、二宮さんがまた真っ赤になった。
「おおぉ、骨抜きだぁ」
京極君が楽しそうな声で笑った。
千夏が持ってる道具は多分オーバーテクノロジーだと思います。よくわかりませんが。
まぁ、フィクションなので、許してください。
ようやく『ナイトメア』での話が終わりました‥‥長かった‥‥
次回からは学校に戻ります。
「キス魔な彼女と草食系僕」連載中です。
http://syousetukani.blog133.fc2.com/
ブログも小説も、評価されてるかどうか待ったく分かりません(泣)
これで感想がなかったら投げ出してしまうところです。感想だけを頼りに書いております。
皆様、どうか評価をお願いします!(懇願)