第十五話 掟
「それでは、悠と二宮さんの交際を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
店にいる全員が乾杯をする。
モモさん達とのやり取りを見てるだけだった人達や遅れて来た十文字も加わり、何故か僕と二宮さんの交際を祝う会になっていた。
「ほら、本日の主役がそんな暗い顔でどうするの!」
『ナイトメア』のメンバーの一人が僕の肩を叩く。
「暗い顔はしてないけど‥‥これ、どういうこと?」
「どういうって‥‥ただのサプライズパーティーよ」
別なメンバーが答える。
「すいません‥‥止めたんですけど‥‥」
十文字が申し訳なさそうに謝る。
「なんだよ、十文字だって気になるだろ? 悠がどうしてこんな美人と付き合えたのか‥‥」
「それは‥‥‥‥気になるけど」
「だったらいいじゃない」
小さい声で呟いた十文字に千夏さんが言う。
「ってか千夏さんは騒ぎたいだけでしょ」
僕が千夏さんに言うと千夏さんは「バレたか」と言い舌を出す。
「相変わらずお祭り好きですね」
「いいじゃん、久しぶりに悠達と喋れたんだし‥‥由香なんて会うことさえ久しぶりだし」
「そうでしたっけ‥‥?」
「千夏の言う通りですよ‥‥営業時間内なら、いつ来ても構いませんから」
「あ、もちろん二宮も三神もね」
モモさんの言葉に千夏さんが付け加える。
「何で私の名前‥‥まだ言ってないのに‥‥」
「城羽学園新聞部の情報力をナメちゃだめだよ!」
驚く三神さんに千夏さんが得意げに言う。
「千夏は新聞部の部長なんですよ」
モモさんが二宮さん達に説明する。
「じゃあ、そういうことで、新聞部部長として二人に緊急インタビュー!」
そういうことってどういうことなんだろう?
「いつから付き合い始めたの?」
「えっと‥‥一昨日」
二宮さんが戸惑いながら答える。
「へぇ、最近なんだ」
千夏さんはそう言いながら、どこから用意したのか、ボールペンでノートにメモをし始めた。
「どこに惚れたの? 悠は‥‥まぁ聞くまでもないけど」
千夏さんが笑みを浮かべる。
二宮さんはさすがに昨日三神さんに言われたことを忘れてはいないみたいで、少し赤面する。
「いや、綺麗だとか、そんな理由だけじゃないですから‥‥」
「あれ? 違うの?」
「それもありますけど‥‥二宮さんのいろんな表情がみたい、二宮さんのことをよく知りたいって、そう思ったんです」
僕がそう言うと、『ナイトメア』のメンバーが黙った。
「どうしたんだ‥‥?」
二宮さんが不思議そうな表情をする。
「一之瀬さんが‥‥そんなこと言うなんて思わなかったから」
十文字が呟くように言う。
「悠は、『ナイトメア』の掟を体言したような奴だから」
「掟? そんなのあったの?」
そんなの僕自身初めて聞いた。
「『ナイトメア』の掟は『人を思いやること』と『無理に他人に詮索しない』ことだよ」
‥‥なんか小学生の学級目標みたいな掟だ。
「どうしてそんな掟があるんだ?」
二宮さんが千夏さんに尋ねる。
「ここに来る奴らには、たいてい浅くない理由があるの。私の場合は親のところに帰りたくなかったからだけど‥‥まぁそんな感じに、色々と辛い過去があって‥‥たいてい愛とか優しさとか、そういう感情を失っちゃってる場合が多いの。悠やモモは違ったけどね。だからその人達にそういうのを教えるのが『ナイトメア』の役割。だけど自分の知られたくない過去を無理矢理知ろうとしちゃダメなのよ‥‥逆効果になるから。それで『詮索しない』と言う掟があるのよ‥‥守るの、凄く難しいんだけど。だからその人自身が話すまで、こちらからは過去を聞き出さないの。勿論話を聞いた奴はそれを黙ってるし、全員に言う必要はないわ」
「悠様は誰に対しても優しかったし、無理に他人を詮索するようなこともしなかったので、わざわざ言う必要がなかったんですよ」
「悠、『ナイトメア』に誘った奴らにいつも言ってたじゃない。『君の辛さを知らない僕が、君の過去を知る権利なんてないし、君が話したくないなら、無理して話す必要なんてないし、僕が君の信頼に足るまでは、君自身のことは話さなくていいよ』って。結局みんな悠に話してたけどね」
「悠様聞き上手だし、いつも的確なアドバイスくれるから」
モモさんがそう言って微笑んでくれた。
「そんな悠が自分から他人のこと知りたいなんて言うから、みんな驚いたのよ」
千夏さんがそう言ってニヤリと笑う。
「相当悠に思われてるのね、二宮」
千夏さんにそう言われ、二宮さんがさらに赤面する。
「二宮は‥‥悠のどこに惚れたの? 可愛い所? 優しい所?」
「それは‥‥」
二宮さんはそこまで言うと顔をさらに赤くしてうつむき、搾り出したような微かな声で言った。
「ぜ、全部‥‥だ。可愛い所も、かっこいい所も、どんな人にも優しい所も、怖い人相手に自分を貫く強い所も‥‥全部。どれか一つになんて‥‥絞れない」
「に、二宮さん‥‥」
さすがにそこまで言われると照れ臭い。
「もう、どれだけラブラブなのよ!」
千夏さんはそう言って僕の背中をバシバシ叩く。
正直痛い。
「じゃあ、次の質問ね。二人はいつ異性として意識し始めたの? 悠は一目見た時だろうけど」
さっきから勝手に決めないで欲しい。
‥‥間違ってないけど。
「初めてあった時だ」
「入学式ってこと?」
「いや、それよりも前だ」
「あれ、そうなの? じゃあ、いつ?」
「あれは―――」
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