第十四話 ナイトメア
そんなこんなで途中色々なことがあったが、私達はなんとか目的地近くまで来た。
一之瀬が連れて来たのは駅前の商店街だった。
大型スーパーなどが増えて来たことで、段々と廃れる店が増え、寂れる商店街が多い中、この商店街は一つの店も潰れることなく、長い間営業していた。
「何をするつもりなんだ?」
「会って欲しい人達がいるんです」
私が聞くと一之瀬が微笑みながら言う。
「会って欲しい人‥‥?」
「はい‥‥あ、ここです」
一之瀬がある店の前で止まる。
「ここって‥‥『夢魔の巣』?」
葉が少し驚いたような声で聞く。
「どうしたんだ、葉?」
「真鈴知らないの? この店結構有名なのよ?」
「そうなのか?」
初めて聞いたのだが。
「そうよ。名前といい、午後2時から4時半までっていう営業時間と言い、普通の喫茶店と違うし、客がいる所なんて見たことないのに、お盆も正月も営業してるし‥‥色々噂されてるの」
葉が説明し終わると、由香さんが微笑む。
「今日謎が解けますよ‥‥こっちです」
由香さんはそう言って『夢魔の巣』と隣の建物の間を通って行く。
私達も由香さんに続くと、『夢魔の巣』の裏口に出た。
そこには、地下へと下りる階段があった。
「悠、後はお願い」
由香さんがそう言うと一之瀬は頷いて先頭に立った。
一之瀬を先頭に階段を下りると、黒いスーツを着たいかつい顔の男が二人、扉の前に二人立っていた。
「悠様、お待ちしておりました。しかし‥‥お連れの方は一人と聞いておりましたが‥‥」
「ダメかな?」
「いえ、滅相もございません。こちらへどうぞ」
男はそう言って扉を開いた。
一之瀬が最初に中に入り、私達もそれに続く。
そこは、外とはまるで別世界だった。
外とは対照的に、キラキラ輝く華やかな部屋に、十人を軽く越える人数の人達が楽しそうに騒いでいた。
「ここは‥‥?」
「『夢魔の巣』地下1階‥‥『ナイトメア』の本部です」
一之瀬は私達の方を向いて言う。
「じゃあここは‥‥『ナイトメア』の中枢ってことか?」
「はい、そうです」
一之瀬がそう言って楽しそうに話していた人達の方を向こうとした瞬間、一之瀬が前から誰かに抱き着かれた。
「ひっさしぶり、悠!」
「ちょっ、千夏さん! 離れて!」
千夏と呼ばれた金髪で顔立ちの整った女性は一之瀬に抱き着いたまま離れようとしない。
‥‥正直いい気はしない。
心の底からドス黒い物が溢れ出て来る。
「もう、暑苦しいから引っ付くないで!」
一之瀬が語気を強め、彼女を無理矢理引きはがそうとしても彼女は決して離れない。
「あぁ、もっと強く言って‥‥」
「‥‥変なこと言わないで、ってか客人の前でMっ気出さないで下さい」
「それだけじゃないよ、ショタっ気も出してる」
「‥‥堂々と言うことじゃないですよ、それ‥‥」
「ほら、悠様が困ってるでしょ、千夏」
呆れた顔の一之瀬と嬉しそうな女性を見たのはそう言ったのはウェイターの服を着たショートカットの黒髪が似合う宝塚にでもいそうな美男子だった。
「‥‥どなたですか?」
「申し遅れました、ボクの名前は百武真琴、モモって呼んで下さい。で、こっちの女は千賀千夏です。よろしくお願いします、二宮さん」
そう言って真琴さんが笑顔をみせる。
「どうして私の名前を‥‥」
「だって学校の有名人じゃない。『氷の女王』二宮真鈴」
私の問い掛けに一之瀬に抱き着いたままの千夏さんが答える。
‥‥いい加減離れてくれないだろうか?
「二人共僕達の先輩なんですよ」
千夏さんに抱き着かれたままの一之瀬が言う。
「先輩?」
「二人共城羽学園の二年生です‥‥入学式で見ませんでしたか? モモさんは生徒会副会長ですよ」
「入学式‥‥」
全く覚えがない。
三神も同様のようだ。
「モモは女装してたからね~」
千夏さんがニヤニヤ笑いながら言うと、真琴さんが重いっきり千夏さんを蹴る。
「あぁん!」
「お願いだから耳もとで変な声出さないで‥‥」
一之瀬が少し疲れたような表情で千夏さんに言う。
「だって‥‥気持ちいいんだもん‥‥一之瀬もいじめて‥‥」
そう言って千夏さんがよりいっそう一之瀬に密着し、顔を近づける。
「コラ、やり過ぎ! っていうか知らない人の前ではっちゃけ過ぎ!」
私が止める前に、由香さんが止めた。
それまで私達の後ろで見てるだけだった由香さんが千夏さんの後ろに襟を掴む。
「あぁ、もうちょっとだったのに‥‥」
「あんまりやり過ぎると‥‥つっくんに言いつけるからね」
「そ、それだけはやめて!」
「だったらさっさと離れる!」
由香さんに言われてようやく千夏さんは名残惜しそうに一之瀬から離れる。
「蹴られて気持ちいいって、どういうことだ?」
「‥‥深く考えないほうがいいわ」
私が三神に聞くと、三神はなんとも表現のしがたい微妙な表情になる。
「ふふ、懐かしいね」
真琴さんがにこやかに笑う。
‥‥やっぱり、会った覚えがない。
が、三神は思い出したようだった。
「あぁ‥‥そういえば‥‥」
「思い出したのか?」
「今の真琴さんに‥‥女子の制服着せると‥‥」
三神の言われた通りにやってみる。
‥‥‥‥思い出した。
「‥‥確かにいた」
「‥‥でしょ?」
ということは‥‥
「真琴さんは‥‥女性、なのか?」
私がそう言うと真琴さんはあからさまに不機嫌になった。
「男だと思ってたんですか?」
「しょうがないんじゃない? どっからどうみても凛々しい男の人だし、今の服装も男の服だし」
真琴さんが不満げに言うと千夏さんがそう返した。
「‥‥ひらひらの服は似合わないって‥‥悠様や由香が言うから‥‥」
真琴さんがそう言って一之瀬と由香さんが見える。
「だってモモさんが女性服着ても女装してるようにしか見えないんですもん」
「僕は今の百武さんのままでいいと思いますけど‥‥似合ってますし」
由香さんと一之瀬が交互にフォローする。
「複雑な気分です‥‥」
「似合わないよりいいんじゃない?」
千夏さんが落ち込む真琴さんの肩をポンと叩いた。
余談ですが、ブログ始めました。
http://syousetukani.blog133.fc2.com/
まだ数は多くありませんが、この小説のことや新しく書く(予定の)小説のことを書いていきたいと思うのでぜひお越しください。
誤字脱字等の問題もここにお願いします。