第十二話 夢魔の巣
今回は短めです。
一之瀬視点です
後15分で二宮さんが家に来る時間になる。
『相手』には十文字に頼んでもらってるから大丈夫だと思うけど、なんだか落ち着かない。
「何そわそわしてるの!」
由香が僕の背中をバシッと叩く。
「由香のせいだろ!」
僕はそう言って由香を睨む。
そう、こんなに落ち着かないのは由香が余計な一言を言ったからだった。
「それってデート?」
帰って来た由香に僕が二宮さんと出かけることを話すと、そんなことを言い出した。
「で、デート!?」
「だって恋人同士が二人っきりで出かけるんでしょ? 立派なデートじゃない」
「そんなつもりじゃ‥‥」
なかったんだけど‥‥
でも由香の言う通りこれは一般的にデートと呼ばれる行為だ。
「初デートでしょ? お洒落していかなきゃ」
由香はそう言って立ち上がり箪笥からぼくの服を漁る。
「勝手に漁るなよ‥‥」
「別にいいじゃない。いつものことだし‥‥さて‥‥どれがいいかな?」
そう言って由香は楽しそうに僕の服をいくつか選び、僕の前に置いた。
「由香は、気にしないの?」
「何が?」
「僕がデートすること」
僕は普通に気になったから聞いただけだったけど、由香は少しだけ悲しそうな顔になる。
「気にしないわけ、ないじゃん‥‥」
「え‥‥?」
「悠が別な人と二人きりでデートなんて‥‥悔しいよ‥‥何で私じゃないんだろうって‥‥」
由香はそう言うと俯いた。
「由香‥‥ごめん」
「ううん‥‥いいの。私は悠が幸せなのが一番だし。それに―――」
由香はそう言うと、しゃがんで僕をそっと包み込むように抱きしめる。
「『忘れたりなんかしない』んでしょ? 帰って来たらまた相手してもらうから」
由香が悪戯っぽく笑う。
「‥‥うん、分かった」
僕も微笑み返す。
「じゃ、続き続き‥‥そう言えば、どこに行くの?」
「ええっと―――『夢魔の巣』」
僕が由香に行き先を告げると、由香は少し驚いたみたいだった。
「それ本気!?」
「そんなに驚かなくても‥‥」
「だって‥‥あそこは‥‥」
「あれも今の僕の一部だから、二宮さんには知ってもらいたいの。二宮さんなら受け入れてくれると思うし」
「二宮さんは‥‥『小さな死神』のこと、知ってるの?」
「全部は話してないけど‥‥殆ど話したよ」
「そう‥‥受け入れて、くれたの?」
「多分ね‥‥これ着てくね」
僕はそう言って黒いジャケットを取る。
「えっと‥‥じゃあ‥‥」
そうして由香によるコーディネートが始まった。
そんなこんなで準備は出来たのだけど、何となく由香の言った「デート」の言葉のせいで落ち着くことが出来なくなっている。
「もう、少しは落ち着かないと」
誰のせいだと思ってるんだ。
「ねぇ、悠」
「なに?」
「私も‥‥行っていい?」
今度は僕が驚く番だった。
「な、何で!?」
「久々にみんなに会いたいし‥‥今の悠の様子見てるとなんか不安だし」
「でも‥‥」
「『夢魔の巣』は悠だけじゃない、私の一部でもあるの‥‥どんなことがあってもね」
由香はそう言って笑う。
「‥‥うん、分かった」
「本当! じゃあ着替えてくるね!」
由香はそう言って自分の部屋に入った。
本当はもっと長めにする予定でしたが‥‥とりあえず一之瀬の準備の話だけになりました。
なので13話は本来の12話になる予定でした。
カブトさんの感想に返信した「人数制限してない」と食い違ってるのはそういうわけです。
ちなみに13話、新キャラでます。
ってかキャラ出すぎですね(汗)