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僕の恋人  作者: 織田一菜
12/99

第十一話 犯人

前回に続き二宮視点です。

翌日、私と葉は一之瀬と一緒に登校せずに誰よりも早く学校に登校した。


「まだ‥‥誰も来てないわね」


葉はそれを確認すると、鞄から一通の手紙を取り出した。


「それはなんだ?」


「手紙よ。一之瀬君を呼び出す手紙」


「なっ‥‥なんで!」


私は思わず大声を出してしまう。


「うるさいわよ真鈴!」


「だが‥‥」


「昨日の五十嵐君が『どうせ偽手紙だから行かない方がいいよ。危ないから』って言ったのが本当だったら真鈴が出した手紙とは思わないでしょ」


「だったら来ないだろ?」


「一之瀬君はね‥‥昨日はああ言ったけど、やっぱり私も、昨日の一件は一之瀬君が直接やったんたとは思えない」


「だったら――」


こんなことしなくていいんじゃないか?


私がそう聞く前に葉が喋りだした。


「でも、状況は圧倒的に一之瀬君に不利。そのうえ一之瀬君は何かを隠してるみたいだし」


「何か‥‥?」


「例えば――昨日あの人達のことを殴った犯人、とか」


葉はそう言いながら手紙を机の中に入れる。


「一之瀬が昨日のことを知っていたって‥‥まさか」


一之瀬が『誰か』に頼んだ‥‥?


「もちろんそうじゃないとは信じてるけど‥‥誰かがそう考えてもおかしくないわ」


葉は無表情でそう言う。


「葉は‥‥もう一之瀬を疑ってないのか?」


私がそう聞くと葉は微笑む。


「そう言ったでしょ? 一之瀬君はそんなこと出来る人とは思えないもの。でも、状況は一之瀬君に不利。このままじゃ疑われるのは一之瀬君。だから私達で一之瀬君を助けようと思ってるの。『確認しないと気持ち悪い』って思ってるのも事実だけど」


「葉‥‥」


葉は、こんなにも一之瀬のことを考えていた‥‥


それに比べ私は‥‥


「何考えてるの真鈴?」


「私は‥‥そんな簡単なことにも気付かなかった‥‥ダメだな、私は」


私がそう言って自嘲気味に笑うと、葉は私の手を握って私の目を見つめた。


「そんなことないわ‥‥私は最初は疑ってたけど、真鈴はずっと信じてたじゃない。真鈴みたいに無条件でずっと信じてあげれる方が100倍凄いと思うよ」


葉はそう言っていつもと変わらない笑顔で笑ってくれる。


「じゃ、行きますか?」


「どこにだ?」


「どこでもいいけど‥‥ここにいたら私達がやったってバレちゃうじゃない」




私達はしばらくトイレで時間をつぶし、ある程度人が集まってからさも今登校したかのように教室に入った。


どこから漏れたのか、皆昨日のことを知っているようだった。


いや、どこから漏れたかなんて考えるまでもないが。


「なぁ、ニーノはどう思う?」


奏が無邪気な笑顔で私に聞いて来る。


ほぼ間違いなく奏がどこから聞いて話したのだろう。


「どう思うって?」


「だから、昨日の暴力事件。あいつら、悠のこと呼び出してたんだろ? 誰がなんのためにやったのか‥‥学校中で噂になってるぜ。ニーノはどう思う?」


「分からない」


「あ、そう。ちなみに一之瀬がやった説が今有力だな」


「そんなわけ――」


「ない。俺だってそう思ってるよ。絶対にあいつに限ってそれはない」


奏が珍しく真剣な顔で言いきる。


「奏も‥‥一之瀬を信じてるんだな‥‥」


「当たり前だろ? 俺はお前より付き合い長いんだ。あいつがそんなことする奴じゃないってことぐらい知ってる」


奏はそう言ってため息をつく。


「だから一之瀬じゃないってあちこちで言いふらしてるんだけどな‥‥あんまり意味ないみてぇだ」


やっぱり、昨日の事件を学校中に広めたのは(本人は気付いてないかもしれないが)奏だった。


「奏は‥‥誰からその話を聞いたんだ?」


「誰って‥‥雄祈だけど。雄祈はふーみんから聞いたみたい」


ふーみんとは多分五十嵐のことだろう。


相変わらず奏のセンスはよく分からない。


「それがどうかしたか?」


「いや、別に‥‥」


奏は気になったのか、追求しようとしたが、その前に九十九先生が入って来た。


奏はすぐに自分の席に戻り、それきりこの話はしなかった。




そして、葉が手紙に書いた時刻――放課後になった。


「なんで私達が校舎裏に隠れてる必要があるんだ?」


私と葉は校舎裏の小屋の陰に隠れていた。


「問答無用に殴られたら困るじゃない」


葉が真面目な顔で答える。


「いきなりそんなことする奴‥‥いるのか?」


「さぁ?」


私達がそんなどうでもいいような気がしないでもない話を小さな声でしていると、誰かの足音がした。


誰か来た―――


そう思い陰から少しだけ顔を出し、誰が来たのか確認する。


それは、一之瀬でも五十嵐でも八雲でもなかった。


「十文字君‥‥‥?」


葉が呟く。


そこにいたのは葉が一之瀬の机にいれた手紙を持った十文字望海だった。


十文字は葉の声を聞いてこちらを振り向いた。


「お前ら‥‥何やってんだ? 探偵ごっこか?」


十文字が100人いたら100人全員が聞くであろうことを私達に尋ねる。


「えーっと‥‥そんな感じでしょうか‥‥昨日の事件の調査中なので」


葉はそう言いながら僅かに微笑み、十文字に近づいて行き、私も葉の後ろについて行く。


「犯人はあなたですか、十文字望海君」


「だったら何だって言うんだ?」


十文字は顔色一つ変えずに答える。


「確かに昨日あいつらを殴ったのは俺だ‥‥だから? お前らに何の関係がある? まさか『喧嘩はいけません』なんて言い出すんじゃないだろうな」


「言いませんよ。あの人達が何をしようとしてたのかは何となく分かりますから‥‥ですが、昨日の一件のせいで一之瀬君に良からぬ噂を流されているんです」


「大丈夫だろ、あの人にはアリバイがある」


「『あの人』‥‥?」


私は思わず呟いていた。


十文字は一之瀬を『あいつ』ではなく『あの人』と呼んだ。


その他の人や敵としてではなく、敬意のある言い方だった。


「知り合い‥‥なのか?」


その時初めて、十文字の表情が変わった。


どこか焦ったような、そんな表情だった。


「あんたらには関係ないだろ」


十文字はそう言ってこの場を立ち去ろうとする。


しかし、葉が十文字の前に立ちはだかる。


「どけ、邪魔だ」


「どきません。あなたがどうしてこんなことをしてるのか、そして――どうしてあなたみたいな不良と一之瀬君が繋がってるのかを知るまでは」


「‥‥あの人は関係ない」


「でもあなたは一之瀬君のためにこんなことをしてる」


「違う!」


十文字が怒りをあらわにする。


「そうですか? 一之瀬君を守りたい‥‥だからここに来た‥‥違いますか?」


「違う! あの人は‥‥関係ないんだ」


「この事件に一之瀬君が関係してなくても、あなたと繋がりがあるならその理由が知りたいんですよ‥‥いえ、『ナイトメア』との繋がり、と言った方が正しいかもしれません」


「『ナイトメア』? なんのことだ?」


私は葉に尋ねる。


『ナイトメア』そのものは知っている。


私達の住む白新町はくしんちょうに存在する、非行少年少女の集団、それが『ナイトメア』だ。


詳しくは知らないが、一人一人ではどうすることも出来ない人達がまとまり、助け合い、ある一定以上の非行を行わせないための集団で、そのためこの町は喧嘩が多いわりには子供の犯罪割合が極端に少ない、という話だ。


「知らないんですか? 十文字君は『ナイトメア』の現総長―――つまり『ナイトメア』のトップですよ」


葉は何で知らないの、とでも言いたそうな表情で私を見る。


「まぁあなたは興味はないでしょうけど」


葉はそう言って再び十文字の方を向く。


「教えてくれませんか? 彼が『ナイトメア』に、もしくはあなた個人とどうして関係あるのか‥‥」


十文字はしばらく黙っていたが、私をひらりと見ると、ため息をついた。


「お前らに話すつもりはない‥‥知りたいなら本人に聞け」


「それは一之瀬君があなたか『ナイトメア』どちらかに関係がある‥‥ということですか?」


「お前の耳は飾りか? 俺は話すつもりはないと言っただろ」


十文字は葉を睨みつける。


葉の表情が、ほんの少しだけ変わった。


普通に見たら気付かない程度の変化、だけど付き合いの長い私達だからこそ気がついた。


葉は、苛立ち始めていた。


「ふふ‥‥口には気をつけた方がいいですよ、十文字君」


「お前がしつこいからだろう‥‥男に一番嫌われるタイプだ‥‥あぁ、だから彼氏が出来ないのか」


葉の表情が、今度は誰でも分かるくらいに変化した。


「それが何!? あんたには関係ないでしょ!?」


「図星か‥‥やっぱり彼氏もいないのか、お前」


十文字は一瞬だけ笑みを浮かべる。


「それがどうしたって言うの!?」


「葉、落ち着け」


私が葉の目の前に立って葉を落ち着かせようと試みる。


「真鈴は黙ってて! こいつだけは許さないんだから!」


葉は今にも殴り掛かるんじゃないかと思えるくらい強い語調で喋る。


こんなに怒るってことは‥‥彼氏のいないこと、気にしてたのか‥‥


それなのに、葉は私に一之瀬と付き合い権利を譲ってくれた。


罪悪感に襲われる。


だが、今はそんなことを気にしてる場合じゃなかった。


「葉、冷静になれ。本来の目的はもう終わっただろう?」


「そうだけど‥‥こいつだけは許せない!」


「‥‥付き合ってられるか」


十文字はその場を立ち去ろうとして――


足を止め、反対方向に走りだした。


十文字は走って逃げ出した。


普通に速いと思った。


私ほどではないが、陸上部なら普通にエースになれるくらいの速さだった。


だがそれより早く、私達の間を通り、十文字にしがみつく人がいた。


一之瀬だった。


「い、一之瀬さん‥‥」


「何で逃げるの、十文字?」


一之瀬の体重じゃしがみついてもそのまま走って連れていかれるんじゃないか、そう思った。


しかし、十文字の足は止まった。


「何で?」


「別に逃げてるわけでは‥‥」


十文字は困惑しているようだった。


「だってせっかく同じ学校になったのに、僕のこと避けてばっかだよ?」


「そ、それは‥‥とにかく、離れて下さい。二人が見てます」


十文字がこちらをちらりと見て、目だけで助けろと合図を送ってくる。


ただ、第三者である私から見ると、兄にじゃれつく弟のようで、なんとなく二人を離すのは気が引けた。


葉の方を見ると、もう最初はなっから助ける気などなさそうだ。


「離すと逃げるでしょ?」


「逃げませんから離して下さい」


十文字はもう一度私に視線を向ける。


「あぁっと‥‥一之瀬。その‥十文字も困ってるから、離してやったらどうだ? 本人も逃げないと言ってるし」


私が一之瀬に言うと素直に十文字を解放した。


十文字ももう逃げようとはしなかった。


「一之瀬は‥‥十文字ど知り合いなのか?」


「はい。中学時代に『ナイトメア』で知り合いました」


「一之瀬さんっ!」


私の問いに一之瀬がそう答えると十文字が慌てて咎める。


「何だよ十文字」


「その‥‥そういうのは秘密にしておいた方が‥‥」


「いいじゃん、別に」


一之瀬はそう言って笑う。


「一之瀬君も‥‥『ナイトメア』にいたの?」


葉が尋ねると一之瀬は素直に頷く。


「十文字の前の総長の代理をやってました」


「総長の‥‥代理?」


「はい‥‥二宮さんと三神さんは‥‥『小さな死神(リトル・デス)』ってご存知ですか?」


私は知らなかったが、葉は知っているようだった。


「中学生なのに『ナイトメア』の総長を任された‥‥少女みたいな男の子、って聞いてるけど‥‥」


「僕はその人の代理をやってたんです‥‥本当の『小さな死神(リトル・デス)』にはあったことありませんけど」


「それなのに代理? というか、何で代理なんて必要なの?」


「お前達には――」


関係ない、と十文字が言いかけると、一之瀬が十文字を見上げた。


「いいよ、十文字。隠す気もないし、二宮さん達なら大丈夫だから」


「ですが‥‥」


十文字は何か言おうとしたが、一之瀬から視線をそらし、ため息をついて口を閉じた。


一之瀬は何もなかったかのように喋り始める。


「他のチームにおける『小さな死神(リトル・デス)』の影響力はとても大きいもので‥‥『小さな死神(リトル・デス)』がいるってだけで『ナイトメア』は手を出せない、そんな存在でした。だけどある日、『小さな死神(リトル・デス)』が怪我をして‥‥入院することになったんです。そのせいで『ナイトメア』はいつ他のチームに狙われてもおかしくない状況になりました。その状況を打破するため、見かけが似てる僕に代理を頼んだんです‥‥『小さな死神(リトル・デス)』はもう復活したように見せかけるために」


「でも‥‥いくら似てるっていっても、すぐにバレるんじゃないか?」


「それはないわね」


私の疑問に答えたのは一之瀬じゃなく葉だった。


「『小さな死神(リトル・デス)』は戦った相手に自分の顔を晒さなかったって言うし」


「『少女みたいな少年』なんだろ、その『死神』って奴は」


「背格好と髪が長かったからそう呼ばれてるのよ‥‥声は男だったらしいし」


「だから僕でも代わりが出来たんです」


一之瀬が私の方を向いて言う。


「それで『小さな死神(リトル・デス)』の名前がなくても『ナイトメア』に支障が出ない程度まで十文字が総長をこなすことが出来るまで、僕が代理をしてました」


「じゃあ今は‥‥辞めたのか」


私がそう言うと一之瀬はうなずいた。


「今話せるのはそのくらいです」


一之瀬はそう言って笑う。


「もう良いだろう」


十文字はそう言って立ち上がり一之瀬の手を取って立たせる。


「あ‥‥ところで、なんでみんなここにいるんですか?」


一之瀬が笑顔で聞く。


だが、私達は誰ひとりとして答えようとしない。


「えぇっと‥‥」


「あぁっと‥‥その‥‥」


「‥‥‥‥」


誰も答えられない。


「‥‥‥散歩です」


しばらく黙っていた後、十文字がそんなことを言い出した。


「‥‥三人で?」


一之瀬が表情を少しも変えずに再び聞く。


「‥‥はい」


「一之瀬君はなんでここに来たの?」


葉は話をそらそうとする。


「僕は‥‥二宮さんを探してたんです。奏にここにいるって聞いたので」


「私を‥‥?」


「はい‥‥一緒に帰りませんか?」


「え‥‥?」


「昨日一緒に帰れなかったので‥‥今日は一緒に帰ろうかな、と思って‥‥ダメですか?」


一之瀬が私の目を見つめながら言う。


「いや‥‥ダメなんてことはない‥‥ぞ」


私が照れながら答えると葉がクスリと笑う。


「私達はちょっと用があるから、二人で先に帰っててくれる?」


葉はそう言って十文字の手を取る。


「ちょ、何すんだおい!」


「いいから来なさい、空気読めないわね!」


葉はそう言いながら十文字をひっぱて行く。


「おい、何すんだコラ! 離せ!」


「うっさい馬鹿!」


そのまま二人ともどこかに行ってしまった。


「‥‥どうなってるんだ?」


「さぁ‥‥」


取り残された私達はしばらくその場できょとんとしていた。




「十文字ってどんなやつなんだ?」


帰り道に一之瀬に聞いてみた。


「なんでって‥‥どういうことですか?」


「葉があんなに初対面の奴と話すなんて‥‥信じられない」


「十文字‥‥三神さんのこと、怒らせませんでしたか?」


「怒らせたな」


「だからだと思います。十文字は、初対面の人をすぐ怒らせるけど、そのせいか十文字の前ではいつの間にか素の自分が出ちゃうんですよ‥‥過去あったこととか、あいつの前じゃ全部忘れちゃうんです」


一之瀬はそう言って笑う。


「一之瀬は‥‥三神がなんで素の自分を出さなくなったのか知ってるのか?」


私がそう聞くと一之瀬は首を振った。


「分かりません‥‥そんなに付き合い長いわけでもないですし、親しくなったのも最近ですし。でも、過去に何かがあって、それを隠してるのは何となく分かります。僕、そういうのすぐに分かるんですよ」


一之瀬はそう言って黙りこんだ。


しばらく沈黙が続いた後、一之瀬が再び口を開いた。


「二宮さん‥‥今夜、外で会えませんか?」


「今夜?」


「一緒に行きたい所があるんです」


「今夜‥‥か‥‥9時までに帰れるなら大丈夫だ」


「じゃあ‥‥6時半頃に家に来てくれますか?」


「ああ、分かった‥‥だが、どこに行くんだ?」


私がそう聞くと一之瀬はとびきりの笑顔で答える。


「行ってからのお楽しみ‥‥です」


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