第九話 質疑応答
教室に入ると、八雲と奏がクラスメートに質問責めされていた。
「だから何も分からないっつうの! あ、ほら本人来たんだから本人に聞けよ!」
奏が僕達の方を指差しながら叫ぶ。
すると八雲と奏の周りにいた人達全員が僕の周りに集まった。
「二宮さんと付き合ってるってどういうことだよ!」
「いつから付き合ってるの?」
「どっちから告白した?」
「もう二人の家とか行ったの?」
「どこまでいった? A? B?」
一気に聞かれても説明出来ないのに。
というか、説明しなきゃダメかな?
「えぇっと‥‥」
僕がどう言おうか迷っていると、先に二宮さんが口を開いた。
「昨日、私から告白した。一之瀬の家には行ったぞ。AとかBとかは知らないが‥‥キスはした」
二宮さんが顔を少し赤らめながら言う。
一瞬の静寂の後、爆発のような叫びといくつかの呟きが生まれた。
「あの『氷の女王』があんなに真っ赤に‥‥」
「こりゃあ本物だ‥‥」
小さな声でひそひそ話し合う声が聞こえる。
「お前うらやまし過ぎるぞ!」
クラスメートの一人が僕の背中を叩く。
「どうして一日でそこまでの関係に?」
「雰囲気に流されてって言うか‥‥」
よく考えるとなんでだろ? と不思議に思う。
まぁそれが『好き』ってことなのかも知れないけど。
「キスした感想は?」
「キスした感想‥‥気持ちよかった‥‥かな?」
真っ赤になった二宮さんが真面目に答える。
「どんなキス? ディープ?」
奏が二宮さんに聞く。
「ち、違う! ふ、普通の‥‥キスだ」
「さりげに奏も加わってんじゃない‥‥」
三神さんが呆れ気味に小さい声で呟く。
だんだん質問が際どくなって来た時、ようやく担任教師が教室に入って来た。
「ほら、ホームルーム始めるよ」
そう言って教壇の前に立つのは、僕より身長が低く、童顔のためどう見ても小学生がスーツを着ているようにしか見えないこのクラスの担任教師の九十九新太郎先生。
このクラスの化学の担当でもある。
「ほら、みんな座って」
九十九先生がそう言うとみんなが僕達の周りから離れ席についていく。
「いないのは――五十嵐と十文字か」
九十九先生が教室をぐるりと見渡し言う。
「いますよーっと」
フミが自分より30センチくらい高いワックスで適当にいじった髪のイケメン男子―――十文字望海と共に教室に入る。
十文字望海は、二宮さんとはまた違った意味で有名だった。
いわゆる不良という奴で、今日遅れたのも喧嘩が原因なんだろう。
「ほいほい、今日も全員出席っと」
そう言うと九十九先生は手短に今日の予定を話す。
「――以上で連絡は終わりっと。で‥‥一之瀬」
思いがけずいきなり名前を呼ばれた。
「はい?」
「二宮とはどうなったの?」
笑顔を見せながら聞いてくる。
「は?」
「告白されたんでしょ?」
「な‥‥なんで知ってるんですか!?」
「四条から相談されてたから」
僕が奏を見ると奏はこくりと頷く。
「一之瀬と二宮さんは見事結ばれたみたいですよ」
クラスメートの一人が答える。
「そうなのか! それはおめでとう!」
九十九先生がぱちぱち拍手する。
みんなもそれにならい拍手をする。
「茶化さないで下さい!」
「茶化してないよ。極めて真剣。大事な教え子の恋だからね」
九十九先生は微笑みながら言う。
「このクラス4人目のカップル誕生か‥‥このリア充共め」
‥‥聞こえなかったことにしよう。
「で、二人はどんな感じなんだ? どこまで進展した?」
「キスまでだそうでーす」
クラスメートの一人が言う。
その後、ホームルームの時間ぎりぎりまで事情を知ってる三神さんやフミ、八雲や奏と共にみんなの質問責めにあった。
十文字だけは興味なさげに窓の外を見ていた。