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「誰? あなたは……!」
「説明はあと! 今は逃げるしかない!」
彼女の声は鋭くて、だけど不思議と安心感があった。
迷っている暇はなかった。私はケースごと楽器を抱え、タンデムシートに飛び乗った。
次の瞬間、バイクが地面を引っかくように旋回し、空いた壁の穴へと向かって猛加速する。
警告音、怒鳴り声、無線の雑音。全てを振り切って、黒服たちの間をすり抜けていった。
山道へ飛び出すと、後方から追手の装甲車とドローンが追いすがる。
彼女は片手でハンドルを操りながら、もう片手で銃を抜き、正確に撃ち抜いた。
爆音とともに、ドローンがひとつ、またひとつと墜ちていく。
「すご……」
呆気にとられる私に、彼女が小さく笑った。
「これ、持ってな!」
そう言って、腰のホルスターから小型のハンドガンを抜いて私に投げ渡す。
「えっ、ちょっと待って、使い方わかんないよ!」
「いーから!」
彼女の声は風にかき消されそうだったけれど、それでも確かに届いた。
「……ほんと、何なの今日……!」
私はハンドガンを握った。手のひらが汗ばんでいたけど、放せなかった。