2-1
眩い光が天に消えたその瞬間、部屋には沈黙が落ちた。
空気が焼けるような匂いと、電子機器が発する微かなノイズだけが耳に残る。
「……なに、今の……」
呆然としながら、アイーダは手に持った楽器を見つめた。まだ手は震えている。確かに吹いただけ。なのに、あの光は――。
そのとき。
「ビーッ!ビーッ!」
突然、鋭く電子音が鳴り響いた。
その音は機械の悲鳴のようで、次第に不快なほど耳に刺さった。
八面のモニターが一斉に切り替わり、画面いっぱいに赤い文字が踊る。
【魔素レベル5】
【空間干渉検知】
【即時退避勧告】
【周辺監視を強化中。制圧部隊が接近中。退避手順を即時実行せよ】
五月は目を見開き、混乱と恐怖が入り混じった感情に襲われた。
「制圧……部隊? なにそれ……!」
慌てて机に駆け寄ると、いくつかのモニターには屋敷の外の映像が映っていた。
その映像には、屋敷の周囲に次々と現れる黒服の人物たち、装甲車のような車両、上空に浮かぶドローン…
完全に取り囲まれている。
「嘘……なにこれ、警察…じゃない?」
別のモニターが点滅した。
それは再生中の古い映像だった。ざらついた画質の中に、祖父の姿が映っている。
その目は真剣で、アイーダを見つめている。
『もしも君があれを吹いてしまったなら、この映像が再生されるはずだ。』
祖父はカメラをまっすぐ見つめていた。
『あの楽器は――この世界のものじゃない。誰にも見つかってはならない。今すぐ逃げろ、五月。やつらは容赦しない』
「おじいちゃん……!」涙がこぼれそうになる。
「でもこんなんじゃ、逃げようがないよ…」
そう呟いて恐怖で膝から崩れ落ちる。
その視界の隅、煙の向こうに人影が揺れる。
次の瞬間、壁に空いた穴から数人の武装隊員が、銃を構えたまま突入してきた。