1-4 ギャラルホルン
その部屋は、今までの屋敷とはまるで雰囲気が違っていた。
壁際には大型PCが設置され、今も低く唸るように稼働している。
机には八面のモニターが並び、いくつかには屋敷周辺の監視映像が映されていた。
読み慣れない文字で書かれた本や手記が散乱し、部屋全体に異様な緊張感が漂っている。
その中央に、美術館で見かけるようなガラス張りの展示ケースがひとつ。
私が一歩足を踏み入れた瞬間、ケースが静かに、自動で開き始めた。
中には一本の管楽器。
金属製で、トランペットに似た形状だが、どこか違和感がある。
「なにこれ……トランペット?にしては、ちょっと細長いような……」
私は思わずつぶやき、ガラスの縁に手をかけて顔を近づけた。
確かに、形はトランペットに似ている。金属製で、ベルの部分はわずかに広がっている。
でも、どこか違和感があった。
管が直線的で、全体的に細身。
鈍く光るそれは、どこか無骨で、無名の職人が手作業で仕上げたような古めかしさを感じさせた。
「吹けるのかな……?」
ケースに収められているにしては大げさだが、他に特別な装置はない。
見た目はただの古い楽器──それ以上でも以下でもなさそうだった。
「……友達にやらせてもらったとき、音すら出なかったんだよね」
苦笑しながら、私はその金属の楽器をそっと持ち上げた。
思っていたよりも重く、冷たい。
マウスピースを唇に当て、深く息を吸い込む。
そして、そのまま一気に吹き込んだ。
――刹那。
金管楽器らしい、明るく力強い音が部屋中に響き渡る。
それと同時に、眩い光がベルの先から放たれた。
「――えっ!?」
光線は激しく渦を巻きながら、一直線に前方の壁を突き破る。
衝撃波が吹き荒れ、周囲の紙束や椅子が吹き飛ばされた。
私は思わずのけぞり、背中が棚にぶつかる。
その間にも、光線はそのまま天を穿ち、
厚い雲を切り裂いて、空へと消えていった。
一瞬、あたりは静まり返る。
薄い煙が立ちこめ、私の手には、まだ熱を持った金属の楽器が残されていた。