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昼休みのチャイムと同時に、システムからログアウトを始めた。
目の前の光景がゆっくりと滲み、黒く沈む。
代わりに、重たい肉体の感覚が戻ってきた。
意識が浮上すると、頭の奥に鈍い響きが残っていた。
いつも通りの、生体維持装置の中。
人工筋肉がついたスーツが、自動的にストレッチ動作を始める。
脳と接続されたチューブが順番に外れ、呼吸マスクがカチャリと外れた。
カプセル型の睡眠ポッドが前方に開く。久しぶりの湿度の高い外気が、とても不愉快だった。
私は無言で体を起こし、備え付けのハンガーに掛けられていた制服に袖を通す。
前もって用意されていた荷物は、シンプルなリュックひとつだけだった。
誰もいない廊下が清潔なのが不気味だ。
足音が小さく響く。
車寄せに着くと、無人の黒い車両がぬるりと現れた。
音もなくドアが開く。
中には、人はいなかった。
座るとすぐに、ディスプレイが点灯した。
『相田五月、搭乗確認。出発します。』
車両は、音もなく滑るように走り出した。
街の輪郭が遠ざかっていく。高層建築が、次第に曇ったフィルムのように見えなくなっていく。
一時間後、私は窓の外を見ながら、呼吸をひとつ整えた。
その先にあるのは、山奥の屋敷。
もう誰もいないはずの、祖父の家。
どこかで、耳鳴りがした気がした。