minus7.七不思議
「初めまして。太刀華梨といいます。宜しくお願いします」
着ているのは紺色のブレザーに赤いネクタイ、チェックのズボン。いつもの制服ではない。
そう。梨は今、学校にいる。男子高校生としてー。
話は数日前に遡る。
「今回の任務は学校の七不思議についてだ」
「七不思議ってあの学校でよく聞く有名な怪談ですか?」
「そうだ。ある学校でその怪談の被害にあっている生徒が増えているそうだ」
「はあ…」
何とも子供じみている。
「それで太刀華にはその学校に生徒として潜入してもらう」
「私が生徒!?」
「お前だけじゃないぞ。ピッタリのヤツと組んでもらうから安心しろ」
そう言いながらニヤリと笑う臥龍岡。この笑いには嫌な予感しかない。
「見た?数学の田辺先生の代わりに来た先生」
昼休み時間、女子生徒達が集まって話している。
「見た見た!マジでカッコいいよね〜」
「眼鏡でクールな感じがもうヤバ過ぎる」
『三千院先生!』
早速、噂の的になっている。
今回組まされたのは三千院だった。休職中の先生に代わり、潜入したのだが本当に教員免許を持っているらしい。あまり話す事がなかったし興味もなかったから知らなかった。
「でもさあ、転校してきた太刀華君もカッコよくない?」
ここからはコソコソと話す。本人がいるからだ。
「英語もペラペラで体育のバスケは何本もシュート決めてた。顔も頭も良くておまけに運動神経も良いなんて。あんな彼氏がほしいわ」
「えー、愛結美ってば太刀華君狙い?」
「もしかして告っちゃったりする!?」
「まだ話した事もないから無理だって」
本人達は秘密話をしているつもりらしいがこちらまで聞こえてくる。潜入早々、二人とも目立ってしまった。
だが、これはチャンスだ。
席を立ち、女子達の方に向かう。
「こんにちは。佐々野さんだったよね?楽しそうに話してたけど何の話?僕も皆と仲良くなりたくて」
佐々野とは愛結美の苗字だ。
「太刀華君!えっと…」
さっきまでの勢いはどこへやら。急にモジモジし始めた。周りの女子達もチラチラと見ている。
「そういえば、さっき男子から聞いたんだけどこの学校に怪談があるって本当?」
それを聞いた女子達の和気藹々としていた雰囲気が変わる。まるで触れてはいけないものに触れてしまったような。
「…七不思議の事?」
「うん。ちょっと興味があって」
「あまりその話に立ち入らない方が良いよ。実際、巻き込まれた生徒や先生がいるから。生徒は不登校や行方不明になっているらしいって話」
「先生はもしかして田辺先生の事?」
「そう。皆があまりにも騒ぐから『ただ、不幸が続いただけ。何もないって確かめるから』」って言って試したみたい。そうしたら本当に呪われて大怪我したって。それで入院中なの」
「そうなんだ」
どうやら話は本当らしい。
「何だよ太刀華!七不思議の話か?」
グラスのムードメーカー八木君が話に入ってくる。八木君も私より先に入ってきた転校生だ。持ち前の明るさとコミュ力ですぐにクラスに馴染んだらしい。
「詳しく知りたいならオカルト研究部に聞いてみれば?」
「オカルト研究部?」
「そう。アイツらなら詳しいと思うぜ。今は使ってない空き教室を部室にしてるから。興味があるなら放課後にでも行ってみれば?」
「ありがとう、八木君」
とりあえず笑顔でお礼を言う。
ただお礼を言っただけなのに女子達が騒ぐ。
「別にお礼なんて良いよ」
ニヤッと笑う八木。何か嫌な笑いだ。
そう言って男子達のグループの話に戻る。
「いい気になりやがって。痛い目にでも見れば良い」
「ああ、女子達にカッコいいとか言われて調子に乗ってさ。気に入らないよなー」
「楽しみだな」
クスクスと笑う男子達。
ここは女子達からの質問攻めで聞こえなかった。
「コラ、太刀華。授業を始めるぞ。席に戻れ」
「いたっ!」
三千院先生が教科書で私の頭を軽く叩く。見た目は軽いのにかなり痛い。何故だ。
席に戻ると授業が始まった。
今日は小テスト。予め、田辺先生が用意していた物だ。七不思議の大怪我といい余計な事をしてくれたものだ。でも簡単で良かった。
先ほど聞いた事をこっそりとメモに書いて折り、机の隅に置く。それを監視に回ってきた三千院が気づかれないように回収する。
そして放課後。
「ここだよな」
八木の言っていた空き教室に来た。
確かにそこには「オカルト研究部」と書かれた紙が貼られている。
コンコン。
ドアをノックする。
「はい〜…」
中から出てきたのは眼鏡を掛けて髪を二つに結った真面目で大人しそうな女子。
「オカルト研究部ってここであってる?」
「はっ、はい!」
「話が聞きたいんだ。中に入れてもらっても良いかな?」
「ど、どうぞ…」
中に入るとたくさんのオカルト雑誌や古文書、様々な心霊現象について書かれた本が棚に並んでいる。
机にはオタクといった感じの男子が二名座っていた。目を合わせてくれない。暗い雰囲気をしている。
「見かけない方ですが入部希望の方ですか!?」
勢い良く眼鏡の女子が目をキラキラさせて言う。
「期待させてしまって悪いんだけどこの学校の七不思議について聞きに来たんだ。今時、そういう話って聞かないから興味があってね。ここの部が詳しいってクラスメイトに言われたんだ」
「そうですか…」
明らかにガッカリとする。
「僕は転校生の太刀華梨です。あなたは?」
「転校生でしたか。どうりで。三年生で部長の端隅メイです」
「部長さんでしたか。すみませんでした。上級生の方に軽々しい口を聞いて」
「いいえ…。普段から同級生に下に見られているので慣れています」
そんな事、慣れてはいけないだろう。
「あとは二年の片野君に戸田君です」
「初めまして」
「宜しく」
「初めまして…」
暗い。とにかく暗い。
申し訳ないが見ただけで本当にオカルトマニアといった感じがする。別に差別してはいない。自分のすきな事に打ち込む事は良い事だ。だが、この雰囲気をどうにかしてほしい。
「それで話とは?」
部長の端隅さんがが聞く。
「この学校には七不思議があると聞きました。中にはケガや行方不明になる人までいるとか。それについて詳しい話を聞きたいんです」
すると沈んでいた空気が一気に変わる。
「よくぞ聞いてくれました!私達、オカルト研究部は七不思議について研究を重ねてきました。次々と起こる怪現象に被害者。オカルト研究部と名乗るからにはこれは調べずにはいられないと!ここに資料があります」
机の上に大量のノートが積まれる。
見てみると七不思議についての詳細や考察がびっしりと書かれていた。
その中の一冊を開いてみるとよく聞く怪談の名前だった。ただ、内容が内容だった。
1番目、ベートーヴェンの目が光る。
音楽室に飾られた作曲家の肖像画の中でベートーヴェンの目が光る。その目からはビームが発射され、当たった者は肖像画になってしまう。
ビーム!?今のベートーヴェンはビームまで出せるのか?
2番目、音楽室の楽器が鳴る。
音楽室のピアノや他の楽器が勝手に鳴り出す。投げ銭をすればリクエストにも応えてくれる。PayPayは不可。ただし、聞いた者は曲がおわるまで踊らなければならない。
リクエストを聞いてくれるのか!?投げ銭方式は良くてキャッスレス方式は不可?何だそれは!
3番目、二宮金次郎像が歩く。
二宮金次郎像が歩いたり走ったりする。そのとき言ってはいけない言葉がある。「歩き読みは良くない」である。それを言ってしまうと反対に「お前らだって歩きスマホするだろう」と言って暴れる。逃げるのも厳禁。走って後を追いかけ、背負っている薪を投げつけてくる。命中率80%。
逆ギレとは今の若者と変わらないではないか。老人も一緒か。二宮金次郎像って何年あるか分からないしな。それに命中率が微妙に高いのが気になる。
4番目、人体模型が動く
理科室の人体模型は夜になると動く。
肝試しに来た女子生徒には隠れていて来たら自分の裸を見せて驚かせる。男子生徒には自分の体で内臓パズルという遊びをさせる。場所を間違えた者はその臓器を抜かれる。
それはもうただの変質者だろう!それに女子と男子の差が激しいな。
5番目、階段の段数が変わる
縁起が悪いとされ階段の段数を13段にする事はあまりない。それが夜になると増えて13段になる。転ばないように注意。以上。
それだけか!
6番目、不思議な鏡
夜中の2時22分22秒に鏡を覗くと何かが起きる。鏡の中に引きずり込まれて鏡に映った自分と入れ替わってしまうという事も。ただ、顔やスタイルが良くないと引きずり込まれないとか。判断基準はノ◯ノ
やジュ◯ンボーイの雑誌に載るくらい。将来の結婚相手が見える事もあるらしい。映らなかった場合は一生独身。
基準といい、結婚相手といい厳しい鏡だな!
7番目、トイレの花子様
花子さんという少女がトイレに現れる。ノックをして遊びに誘うとオールでカラオケに付き合う羽目に。酒(甘酒)に弱く「もうヘアスタイルやファッションを変えたい」と愚痴る。口癖は「トイレには神様じゃなくて花子様がおるんやで」
ストレスが溜まってるんだな…。
何とも言えない。
私はノートを閉じて一言。
「…これが七不思議ですか?」
「はいっ!私達が聞き込みや調査を重ねた結果です。諸説あるのですがこれが有力だと思われます。ここ最近になって騒がれるようになりましたが元々あったものを変えてできたのではないかと我がおカルト研究部は考えています」
熱く語る部長。
「そうですか。でも何故、最近になって騒がれるようになったのでしょうか?」
「それについては私達も調査中です。重要なのはここからです!片野君!」
「はい。七不思議には8番目が存在するのではないかという新しい情報を噂を耳にしました」
「8番目?」
「8番目は最も新しくできた怪談。これらの怪現象は8番目が現れて引き金になって起きたのではないか」
「その8番目の怪談は?」
「8番目の怪談は『コックリさん』です」