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minus6.片名

それは花梨が10歳の頃。

「花梨様、こちらが片名(かたな)の者達です」

少し離れた場所に五名の少年達が座っている。


片名ー。

代々、「たちばな」家に仕える「名無木(ななき)」家の中から刀の力を持って生まれた者の事を言う。5歳になると鑑定師による「試し斬り」と言われる特殊な刀での血液採取が行われ、能力の有無と刀としての優劣がきまる。優秀な者は「太刀華」家に贈られ、その下の者達は太刀華家より下の家に等級毎に贈られる。そして贈られるまでは刀としての修行に励むのだ。それまでは刀の名前で呼ばれる。()としての名前がない。なので片方だけの名前「片名」となる。「たちばな」家の者に認められれば人としての名前を与えられ、ようやく一人前となるのだ。


「たちばな」家の者達は10歳になると刀が贈られる。花梨は橘家の者としてお役目を果たそうと刀を振るってきた。同年代の男子達とも引けをとらない。そこで10歳の誕生日に刀が贈られる事となった。

「女かよ。まあどうせ残り物の俺にはぴったりかもな」

一番左側に座っている少年が言う。

「私は刀を扱うのに男も女も関係ないと思っています。私は橘家に生まれた事を誇りに思います」

花梨が毅然と答える。

「ご立派ですね〜」

「お名前は?」

「名前なんて別にどうでも良いだろう。…鍔鬼(つばき)だ」

「貴方は?」

隣にいる少年に聞く。

殺眼(あやめ)…殺すに眼です。こんな物騒な名前なので僕なんて止めた方が良いですよ」

暗い顔をしている殺眼。

「お母様の好きなお花の名前と同じ読み方です!素敵なお名前。私は好きですよ。私の名前『花梨』もお母様が付けて下さったのです」

「え…?」

今度はポカンとする殺眼。

「どうかされましたか?」

「名前を褒められた事なんて初めてなので…」

「では、貴方のお名前はこうしましょう」

花梨は半紙と筆を用意し、サラサラと文字を書く。

『菖蒲』

「貴方の紫色の瞳にぴったりです。菖蒲の花言葉には『良い便り』や『希望』というものがあります。きっと素敵な運を運んでくれるでしょう」

笑顔で説明する花梨。

すると殺眼は花梨の正面に移動し、片膝をつき頭を垂れ宣言する。

「この殺眼、橘花梨様の刀として一生お護りする事を誓います。『菖蒲』の名、拝命致します」

「認めます」

これで菖蒲は花梨の刀となった。


「おい、お前だけ先にずるいぞ」

さっきまで投げやりだった鍔鬼が文句を言う。どうやら先を越されたのが悔しかったらしい。

「名前なんてどうでも良いと言っていただろう。そんなに悔しかったら花梨様にお話して名前を頂けば良い」

「くっ、悔しくなんかない!」

素直になれない鍔鬼。

「ふふっ。そんなに焦らずとも良いですよ。もうきめてあります。ピンときましたので」

筆で一文字。

『椿』

「初めて貴方の瞳を見たとき思いました。寒さの中でも凛として咲き誇る姿、赤い瞳はまさに椿のようだと。椿の花言葉には『気取らない優美さ』というものがあります。貴方を見てこれだと。それに椿は私の一番好きな花です」

ここまで言われたらもう認めるしかない。

本当は認めていた。ここに来てから。

真っ直ぐで真剣な瞳に揺るがない信念。

実はこんな捻くれた性格だった為、周りに煙たがられていた。それを花梨は真正面から受け止めてくれた。

菖蒲と同じように片膝をつき頭を垂れ宣言する。

「我、鍔鬼。橘花梨様の刀としてこの身を捧げ、一生従いお護りする事をここに誓います。『椿』の名、ありがたく拝命致します」

「認めます。貴方を歓迎致します」

「どうだ!一番の名前をもらったぞ」

菖蒲を見て勝ち誇った顔をする椿。

「一番好きな花の名前だろう?」

「それでも一番は一番だ!」

嬉しそうな椿に呆れている菖蒲。

兄弟がいたらこんな感じなのだろうか?

楽しそうだ。


そこで一番背の高い金髪の少年が自己紹介する。

「私は殺鬼(さつき)と申します。本日は花梨様とお話しできるのを楽しみにして参りました」

「私をご存知なのですか?」

「はい。前に用事を申し付けられお邪魔した事がございました。するとお庭から声がしたので覗いてみると、可愛らしい少女が冬の寒い中、木刀を一生懸命振っておりました。その熱心な姿に心奪われました。だから会えると聞いてどんな方に成長しているかと楽しみにしておりました。思った通り素敵な方です」

「私はまだまだ力も心も未熟者です」

「それでもあなたに仕えたい一心で参りました」

「嬉しいです。そうですね。私の誕生花がサツキ、皐月なんですよ。花言葉は『協力を得られる』今、必要な言葉です。どうですか?」

真剣だった殺鬼の顔が笑顔に変わる。

(わたくし)殺鬼、橘花梨様の刀として誠心誠意お仕え致します。『皐月』の名、謹んで拝命致します」

「認めましょう」

「ありがとうございます!」


「貴方のお名前は?」

皐月の隣にいた少年に話し掛ける。

斬夜(きりや)

「どのように書くの?」

斬夜は半紙に書いて見せる。

「カッコいいお名前ね!それに上手!」

それまで面倒そうな顔をしていた斬夜が少しだけ照れる。斬夜が褒められて逆に椿が少し不機嫌になった。何だか子供みたいだ。

「でも名前なんてどうでも良い。この名前も適当に付けられたと思うから」

「そんな事ないと思う!ちゃんと考えてくれたと思うの。そうでなければこんな素敵な名前付けてくれない。では私はそれに負けないくらいの名前を考えましょう。…そうね、桐谷。貴方の名前は桐谷。中国ではね、桐は鳳凰が親しむおめでたい樹木とされているの。それにね、成長が速いの。私と一緒に速く成長して強くなりましょう!」

書いた名前を見せながら意気揚々と語る花梨。

負けた。ここまで言われては。

「分かった。分かったから。斬夜は橘花梨…様の刀として精進し、共に戦う事を誓う。『桐谷』の名、拝命する」

「認める」


残り一人となった。

「最後になってごめんなさい。あなたのお名前は?」

一番小さい子に聞く。

(さや)

「あなた、女の子ね」

「「「「え?」」」」

驚く他の刀達。

鞘は黙ってコクンと頷いた。

「やっぱり!可愛いもの。もう一人妹が増えたみたいで嬉しい!」

それまで無表情に近かった顔が桜色に染まる。

「鞘が妹なら俺は長男だな!」

勝手にきめる椿。やっぱり自分が一番でないと気が済まないらしい。

「はいはい。静かにしようね、お兄ちゃん」

もう諦めたように言う菖蒲。 

「私ね、今度弟か妹ができたらこの名前をお母様にお願いしようと思っていたの」

新しい半紙にサラサラと書く。

『咲耶』

「さ…や?」

「そう。よく読めたわね。男の子だったら『さくや』が良いと思っていたけど女の子だったら『さや』が良いと思ったの」

少しだが嬉しそうにする鞘。

「でも、何故私の所に来る気になったの?」

「…大人達の話で、女の人で、刀を使う人がいるって聞いた。女なのに、とか、遊びだろう、とか言う人がいたけど…男達の中で、一人頑張っているのは、スゴいと思った。僕も女、だから色々、言われた。でも話を聞いて、男の人に負けたくない、会ってみたい、その人の刀になりたくて来た」

「そう!分かりました。同じ志を持つ者同士、頑張りましょう!」

少々、圧倒気味の鞘。

「僕、鞘は橘花梨様の刀として、そのお心に寄り添い、一生お側を離れない事を約束します」

「認めます。さあ、これで皆さんは『橘家』となりました。皆の活躍、期待しています」

『御意』

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