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minus5.神々廻巡

「廃墟に現れる赤い女ですか?」

「そうだ。勝手に廃墟に入ったバカ物…ゴホン、若者達が次々と襲われているそうだ。特に男がな」

臥龍岡に任務という事で呼ばれた。

「男…ですか。赤いとは?」 

「被害者達の話によると真っ赤な唇に赤いワンピース。血の着いた包丁を持っているらしい」

資料を渡される。

地図と被害者の体験談について書かれていた。

「場所は…◯△病院。何でそんな所に包丁を持った女が」

「ウワサ話になってしまうが、その病院に入院していた少女が手術での医療ミスによって死亡。それを認めない担当医師に母親が包丁を持って襲いかかったそうだ。揉み合っている間に包丁が逆に母親に深く刺さってしまい、そのとき着ていた白いワンピースが血で赤く染まった。口からは血が。それで死亡してしまった母親は怨念となり、今もその病院で医師を探してさまよっているという話だ」

「そうですか。それで『赤い女』という事ですね」

本当だったら何とも痛ましい事件だ。

「本来なら神楽坂と組んでもらうところだが今、別の任務に行ってもらっている。今回は神々廻と言ってくれ」

「了解しました」


夜の廃病院。

懐中電灯で辺りを照らしながら廊下を進んで行く。

「何でコイツと一緒にいかなきゃいけないんだよ」

不服そうな椿が後からついてくる。今回はいつ現れるか分からないので、すぐ対応できるように人の形で来てもらった。

「上司命令だからだよ」

優しく答える神々廻さん。

「おい、梨にあまり近付くなよ」

「太刀華さんは男性だろう?何も問題ないでしょう」

「そうだけど!…そうじゃないんだ!!」

本当の性別を知っているが梨に忠実な椿は言えずにイライラしている。

「とにかく!離れろ!」

無理矢理、二人の間に割って入る。

「わあっ」

「コラ、椿」

さすがに注意する。

「まるで彼女をとられたくない彼氏みたいだね」

笑う神々廻さん。

「おっ、俺は梨の刀だからな。持ち主を守るのは当然だ」

「そうだよね。ごめん、ごめん」

ごめんと謝るが悪びれた様子もなく言う。

掴みどころのない人だ。


しばらく歩くと

「この辺り、何か寒く感じませんか?」

「そうですね」

ここの場所に来てから急に寒くなってくる。

周りを照らすとそこは手術室のようだった。寝台と壊れてはいるが照明がある。備品が床に散乱していた。

先ほどまでは害の少ない霊はうじゃうじゃといたのにここだけ全くいない。だが圧迫感は感じる。

「神々廻さん。ここに来たかもしれません」 

そう言うと同時に、現れた。

『ウゥ…』

ペタ、ペタ…。

床を歩く音。こちら側に向かっているようだ。

赤いワンピースに包丁。よく見ると唇は赤く染まっている。話通りだ。

『私の…私の子を返せぇー!!』

血に濡れた包丁を振り回し近付いてくる。

「解放!鍔鬼!」

「御意っ」

名を呼んで力を解放する。

鍔鬼が刀で包丁を受け止める。

『お前か…お前か!』

ウワサは本当だった。

「ぐっ」

相当恨みがこもっているのか力が強い。

私は死薇の柄に手を添え、いつでも抜ける状態で構えている。神々廻さんも護符を持ち、攻撃に備えていた。

その間にも女は凄まじい力で暴れている。

『ウワァァ!!お前が!!』

何度か攻撃するが無茶苦茶な動きをするので簡単には当たらない。

「俺じゃねーよ!」

鍔鬼の声が届いたのか今度は神々廻さんに目標を変えた。

『お前かっ!』

やはり男を狙うのか。女の私は視界に入っていないらしい。

急いで刀を抜き、神々廻さんの所に向う。女は勢いよく飛びかかる。


するとあれほど力が強く、止められなかった女の腕を掴んだ。

「うっ…」

「神々廻さんっ!」

『ウー、ウー』

ググッと力を入れて押し返した!

そこを死薇で斬りかかる。

『ウワァァー』

女は叫ぶ。

カラン。

持っていた包丁を落とした。

『うっうっ』

化け物のようだった顔がだんだんと人間に戻っていく。

死薇は「死ノ美」とも言い、死者の魂を美しく・浄化するという力がある。

『花菜、花菜…』

そこにいるのはもう化け物ではない。子供を亡くしてかなしんでいる母親だ。


『お母さん』

どころからか少女の声がする。

『お母さん』

『その声は、花菜?』

少し離れた所にいたのは5〜6歳くらいの少女だった。

『花菜っ!』 

母親は少女に駆け寄って抱きしめる。

『私ね、今お空の上にいるんだけどお友達と一緒に遊べて楽しいの。体が自由に動くの。でもね、やっぱりお母さんがいなくてさびしかった。お母さんにずっと会いたかった』

『ごめんね、ごめんね…』

なきながら謝る母親。

『これからは一緒よ。でもね、お母さん悪い事しちゃったから遅れて行くね』

そう、罰を受けるのだ。

いくら理由があろうとも生者を襲ったのだ。だが母親も被害者だ。会える日はそんなに遠くはないだろう。

『うん!良い子にして待ってる』


それを聞いた母親の形は崩れ、キラキラと光が舞い上がる。

見送ると少女がいた場所には神々廻さんが目を閉じて立っていた。

「神々廻さん!?」

「行きましたか」

「何でお前がそこにいるんだよ」 

驚く私達に笑顔で説明する。

「僕の能力は『コピー(複製)』です。怪力もそうですが、その力の持ち主の技を見てコピーできるんです。能力の大きさによって制限はありますが」と言い、自分の目を指差す。

「先ほどは母親の腕を掴んだら記憶が流れてきたんですよ。それで一番の課題、子供の真似をして成仏させる事にしました。偶然ですが上手くいったので良かったです」

そうだったのか。怪力もあの女のコピーだったとは。


「それなら速く力を使えば良かっただろう」椿が刀を納めながら文句を言う。

「言ったでしょう。『制限がある』って。そんなに強くない力でも別の技を続けて使うと体に対する負担が大きく、最悪暴走して死ぬ可能性もあります」

「フンッ!」

自分の手柄にできなかったからか不機嫌だ。それよりも神々廻さんとは合わないらしい。一方的に。


「それにしても…男が襲われるという話でしたが何故、女の近くにいた太刀華さんより離れた所にいた僕が狙われたのでしょうか?」

まずい。疑われている。

「それは」

「それは?」

「私が椿に隠れて見えなかったのではないですか?」

こんな理由で通用するだろうか?

「そうですか…」

納得していないような顔をしている。

やっぱり無理があったか?

「梨がそう言っているからそうなんだろう!」

強引にきめる椿。

「では、そういう事にしておきましょうか」

ニヤリと笑う神々廻さん。


やはり掴みどころのない人だ。

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