minus10.鏡に映る真実と嘘
「ここが6番目の鏡か」
目の前には大きな鏡がある。
「時刻は…2時22分12秒です」
手元の時計で確認する。
「間に合ったな」
ベートーヴェンに始まり、人体模型と二宮金次郎。もう疲れている。でもそうもいかない。これで七不思議は最後。さあ、戦いまでのカウントの始まりだ。
「13、14、15、16…」
噂の22秒までカウントしていく。
「…20、21、22秒!」
鏡を見る。
が、何も起こらない。ただ、二人の姿が映っているだけだ。辺りも静まり返っている。何も変わった所もない。
嘘だったのか?オカ研!
まあ、元々七不思議は噂のようなものだ。
「おかしい所はないですね」
鏡に近付いて触ってみる。
「ああ、周りにも異形の気配がないな」
と三千院がぐるりと周りを見たときだった。
鏡に映ったもう一人の私が本物の私の手を引っ張る。
「っ!?」
異変に気付いた三千院が振り返る。
「何かあったか?」
「いいえ」
私は何もなかったように返事をする。
違う!それは私じゃない!
本物の私は鏡の中。入れ替えられてしまったのだ。
偽者の力か自由に身動きが取れない。偽者と同じ動き方しかできないのだ。
どうする?
話せない。動けない。これでは刀も使えない。
『残念だな』
頭に笑う声が響く。
『お前がやったんだな。ここから出せ!』
『それは無理な話だ。やっと窮屈な場所から出られたんだ。毎日、毎日ずっと同じ動きをさせられる。飽き飽きだったんだよ。それが今自由に動ける。そう簡単に出すと思うか?』
『くっ…』
こうなったら三千院さんに気付いてもらうのを待つしかないのか?
「少し様子を見るか」
「そうですね、三千院先輩」
ニコニコと答える私。
すると眉間にシワを寄せ、偽者をジッと見る三千院さん。
「どうかしたのですか?」
「その必要はなさそうだな」
「え?」
「動くな」
三千院さんは偽者に拳銃を向ける。
「ちょっと先輩。何のつもりですか?」
両手を挙げて焦る偽者。
「太刀華は俺の事を『三千院先輩』などと呼ばない。『三千院さん』だ。それに簡単に笑わない。お前は太刀華の偽者だ」
私だって笑います三千院さん。
『チッ。呼び方でバレるとは。でもよぉ、三千院さんとやら。その拳銃で俺を撃ったら本物も死ぬぜ。これは本当だ。嘘じゃない』
「何!?」
それを聞いて拳銃を降ろす三千院。
『ヒャッハッハッハ!どうする?どうする?』
私達を見て嘲笑う偽者。
そんな事は聞いていない。
「醜い表情で笑うな、偽者。太刀華が穢れる」
改めて拳銃を向ける。
『撃つのか?良いのか死んでも』
ニヤニヤして煽る偽者。
気持ち悪いからやめてほしい…。
だが、三千院は冷静に言う。
「ああ、お前は死ぬ。いや、死ね」
『何だと!?そんな事ができるはずがないだろう?死ぬんだぞ』
「太刀華、衝撃に備えろ」
そんな偽者の言葉を無視して私に告げる。
そういう事か。
三千院さんは銃弾を詰め替える。
『まさか本当に撃つつもりか?』
「そのまさかだ。出す方法を教えるまで撃つ。影踏み!」
逃げられないように偽者の影を捕らえる。
まず、肩を撃つ。
パンッ!
『ウッ!』
偽者の肩から血が飛ぶ。
しかし私の肩からは血が出ない。痛いだけだ。
『何で!?』
続けて足を撃つ。
パンッ!
『ヒッ!』
「教える気になったか?」
『どうして、どうして?』
偽者はパニックになっている。
それからも続けて容赦なく体中を撃っていく。おかげで偽者は血だらけで息も絶え絶えだ。
『おい…このままだと…俺が死んで出られなくなるぞ』
「お前が死ぬだけだ。特に問題はない」
『…どういう事だ?』
「どうせ死ぬのだから教えてやろう。この弾は異形専用の弾丸。普通の弾では異形には意味をなさない。良い撃たれ心地だろう?それに太刀華は対異形用の防弾チョッキ仕様の制服を着ている。だから撃っても痛みだけだ。でも結構痛いだろう?済まないな」
これくらい修行に比べたら痛くない…でも本当は強がっているだけだ。
「さあ、これでさよならだ」
拳銃を構える三千院さん。
『だっ、出してやる。本物を出す方法を教えてやるから撃たないでくれ。合わせ鏡だ。それで出れる』
「嘘をつくな。合わせ鏡は一番やってはいけない行為だ。どこまでも腐っているな」
パンッ!
銃弾は頭を貫いた。
パリンッ!!
偽者は割れて砕け散り、鏡から本物の私が出てくる。
「ありがとうございます。三千院さん」
「良く耐えたな。帽子も異形仕様で助かった」
「本当によか…」
「おいっ!」
頭に衝撃を受けたからか倒れそうになる。
慌てて支える三千院。
倒れる瞬間、ヒビの入った鏡が見えた。
タキシード姿の三千院さんがウェディングドレスを着た私が見つめ合っている。
何だこれは?
『将来の結婚相手が見える事もあるらしい』
三千院さんと私が?
あり得ない。七不思議よりあり得ない。
これは最後の嫌がらせか?