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カナデシキ。  作者: そら
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第7章:試練

 その瞬間。

 俺の目の前に激しい閃光が瞬いた。

 眩しくて咄嗟に目を閉じる。


 恐る恐る目を開くと、そこにいた奏や神様が居なくなっていた。


「な、なんだ…、この場所……」


 そこは白く、何も無い世界。

 さっきまでそこにあった豪華な家具類、突き抜けるような天井、赤い繊毛、何も無かった。

 こんな世界、神経がやられそうだ。


 と、前方に一瞬、空間がゆがんだような気配がした。

 すぐにそちらへ視線を向ける。


 その時……


 喧騒が耳に響く。

 聞き覚えのあるチャイムの音。

 机や椅子の擦れる音。

 教師が黒板に、字を書く音。

 よく知っている、友達の笑い声。


 すっと、視界が開けた。





「しーくん、なーにぼんやりしてるんですかぁ?」


 小林が、俺の顔を見て言った。

 俺は、ぼんやりとした表情で言う。


「お前はいつも楽しそうで、いいよなぁ」

「なに、どしたの?哲学でも考えちゃってる?そんな非現実よりさー、俺たちに実際に迫っている現実を直視しようぜー」


 にへらっと、小林が笑う。


「今日も頼みますよぉ、シキ大納言様ぁ」


 俺は、無表情で机からノートを出し、小林に放る。


「ははぁ、ありがたやありがたや」


 ノートを拾う小林を、俺は見つめる。

 ここは、俺の学校。

 この出来事は、確か今日の昼に起こったことだ。

 俺は、長い夢でも見ていたのだろうか。

 どこから夢で、どこから現実なのか。

 考えると頭が痛い。なんだかどうでもよくなってきた。

 小林は、一心に俺のノートを写している。

 俺の解答が合っているかもそっちのけだ。

 ああ、今日は疲れたなあ。

 さっさと帰って、風呂入って寝よう。

 明日のことは、明日に考えればいい。

 このまま、深い夢の中へ。

 今までのことは、全て忘れて……


 と、その時に。

 俺はふと、何かを握り締めていることに気づいた。

 なんだ、杖じゃないか。

 この杖はすごいんだぜ、俺の思った通りに、魔法が使えるんだぜ。

 嘘じゃねえよ、何なら、試してみようか?

 そうだなあ、じゃあ、お前をカエルにしてやろう。

 気をつけろよ、カエルになると極端にステータスが落ちるからな。

 お前だったら、ザコ敵でも一発で戦闘不能だろうな。

 じゃあ、よーくみとけよ。


 ………


 そらみろ、本当だっただろう?

 小林、お前はカエルになったんだ。

 俺は、この杖で魔法使いになったんだ。

 何だ、小林。俺がうらやましいのか?

 そんなに口から、長い八重歯を出して、今更可愛い子ぶるんじゃねえよ。

 よく見たら、背中にこうもりみたいな羽が生えてるな。

 いつの間にそんなアクセサリーを買ったんだ?お前、趣味悪いな。

 おい、折角俺がカエルにしてやったのに、勝手に姿を変えるなよ。

 頭からそんな角生やしたって、もてねぇぞ。


 ………。


 よく思い出してみる。

 小林との付き合いは長いはずだが、こんな姿の生物は人違いだ。

 ましてや、今のこいつの姿は人でもない。

 俺は、手に持っている杖を見る。

 何故今、俺は学校に居るのか。

 いや、俺は今学校になんか居やしない。

 それどころか、自分のいた世界にも存在していない。

 俺は怪しげな少女と出会い、あれやこれやと天使の世界へ連れて来られたはずだ。

 そして、神様が試練と称し、俺を魔物と戦わせていたはずなんだ。

 ということはだ。

 目の前に居る小林もどきは。

 俺の魂を食らわんとしているにっくき魔物野郎ということではないか。


「……こんなところで、俺の高貴な魂を食われてたまるかよ!! 聖なる天のいかずちよっ! 彼の者に裁きを下せっ! サンダ-っ!!」




 俺が小林もどきに鉄槌を食らわした瞬間、再び辺りが激しく閃光し、

 俺は気づくと元の城に戻っていた。


「……倒したのか?」

「……」


 見ると、神様と奏が、俺を凝視して固まっている。


「あ、あの、えっと」

「……奏、私は夢でも見ているのでしょうか」

「いいえ、私も同じ光景を見ていましたから」

 こいつら、俺のことを魔物に食わせようとしてたな。

 そんなこと、あってたまるか。

「普通の人間なら、幻覚突破などありえないこと……。やはり、あなたは何か特別な存在なのでしょうか……」

「あんた、本当に人間なの!!?」

 そこまで驚かれると、俺も気後れしてしまうのだが。

 しかしまあ、こちとら命がかかってますんで。

「これは、しばらく様子を見てみないことには、何とも言えませんね」

 神様は、しげしげと俺を見つめる。

 そんな、俺を何かの天然記念物みたいに見ないでほしい。俺なんかにそんな価値はない。

 俺は、とにかく元の世界に帰りたいだけなのだ。

「あの、く、クレス様」

「はい、何ですかシキさん」

「俺、いつになったら元の世界に帰れるんでしょうか……?」

 うーん、と神様が唸る。

 本当に冗談じゃねえ。もうそろそろ茶番はいいだろう。今までの冒険は夢オチにしていいからさ。

「今シキさんを地上に帰したら、闇の眷属たちに狙われてしまいますしねぇ」

 と、神様が良案を思いついたようで、ぽんと拳を手のひらで叩いた。

 分かりやすい反応だ。

「調度いいです、奏、シキさんとしばらく地上に待機してなさい」

『は、はぁぁっ!!?』


 二人は同時に声を上げた。

「なんで私がこんな得体の知れない人間と一緒に居なければいけないんですか!!?」

「なんで俺がこんな得体の知れない天使と一緒に居なければいけないんですか!!?」

「あら、息もぴったりじゃないですか!お似合いですよ、お二人」


 よかったよかったと、神様は一人納得している。

 本当に冗談じゃない。今日一日だけでも俺にとっちゃあエベレスト登山並みに辛く険しい道のりだったってのに、それがこれからも続くというのか。俺のバラ色ハイスクールライフをこんな冷酷非道な天使様に邪魔されたくない。というか、卒業するまで人間としての精神を保てている自信がない。

「奏、あなたに特別任務を与えます。シキさんを地上で守ってください」

 俺の決死の抗議もむなしく、クレス様は勝手にきりっとした目つきになって、奏にこう命じた。

「シキさんの正体が分かり次第、すぐにあなたに伝えます。それまでの辛抱です」

 ぶすっとした態度で、しぶしぶ奏は頭を垂れる。あいつ絶対怒ってる、ぜーったいに怒ってる。

「そして、シキさん」

「は、はい!」

 急に呼ばれて、改めて俺はクレス様に居直る。

「シキさんは、本来ならば地上に生きる者。このような世界を永遠に知ることなく人生を全うするのが本来の生き方なのですが、何が起こったか、あなたは天の力を有してしまいました。それにより、魔物たちが力を奪うためにシキさんを襲ってきます。その場合、あなたのその力を使って闇を退けてください。しかし、その力を目的以外に決して使用しないこと。大丈夫、あなたが力を使わなくても、奏があなたを守ってくれますから」

「はぁ……」

 この超気分屋天使が守ってくれる保証は全くない。

 宝くじに当たる可能性の方が高いと思う。

 そんなことを考えながらクレス様の話を聞いていると、クレス様はそっと最後に耳打ちをした。

「奏は私の言うことに絶対ですから! 危ない目にはあっても、あなたを殺すようなことはしませんのでご安心を☆」

 ……危ない目には遭うんだな。

 もう、何も言うまい。色々むなしいだけだ。


 とにかく、俺たちは一度地上へ戻ることになった。



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