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カナデシキ。  作者: そら
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第4章:ヒカエオロー。

「あんたそれ使えるんだから、空ぐらい飛べるでしょ?」

「はっ!? え、そ、空!?」


 少女は、俺が依然握り締めていた長い杖を指して言った。そういや、これ返さなくていいのか?

 というか、俺、やっぱりこの杖で魔物を倒しちまったんだよなぁ……

 俺が何も言わず杖を凝視しているのを見て、少女はため息を吐きつつ、ゆっくりと諭すように言った。

「それはね、使用者の精神に作用して働く汎用性デバイス。あんたがイメージすることによって、勝手にそれをスクリプトしてくれるっていうお手ごろな武器。っていっても、ある程度のCPUが必要なんだけどね」

「……何を言ってるんですか?」

「……本当にあんた、『普通』の人間なのよねぇ……何で、干渉できるんだろ……。とりあえず私が悪かった。もう一回説明するわ」

 少女は杖を取り、高らかに宣言した。


「天駆ける力を我に! フライ!!」


 その詞を受けて、杖はまばゆく光る。そして、気がつけば少女には先ほどの羽が背中に生えていた。

「まぁ、こういうこと。つまり、やりたいことを頭でイメージすることによって、それを現実に起こすことができる代物ってわけ。OK?」

「は、はぁ」

 まさに『魔法』な訳ですな……。で、俺がさっきやったことも、今彼女がやったことと同じことだった訳だ。

「でもイメージするだけなら、わざわざ詞にしなくてもいいんじゃないか?」

「まぁそうなんだけど。実際私は詞なんか使わないし。でも、イメージを具体化するのに詞にしたほうがやりやすいのよ。自分自身に暗示をかける意味でもね」

 初心者には呪文が必要だってことか。

「それで、今から天界に行くんだけど、いいよね?」

「え、今から? いきなり!?」

 本当にめんどくさそうに、少女はため息をついた。

「あたしだって暇じゃないのよ。こんな厄介なこと早めに誰かに任せちゃいたいし、あんただって、このままここに居てもさっきのようにまた襲われるだけよ?」

「な、何でまた俺が襲われなくちゃいけないんだ!!?」

 俺は驚いて、少女に思わず食って掛かった。冗談じゃねぇ、何で俺が、この平和な二十一世紀に、生死をかけた戦いをせねばならないんだ!

「知らないわよ! あたしもまだ、なんであんたが干渉できるかが分からないんだから! でも、あんたは既にあたしとのつながりを持ってしまってるから。あたしたちと関わりある者は例外なく、人間界では魔物のターゲットになっちゃうのよ。ご愁傷様」

「……まじかよ」

「で、あたしと一緒に居たほうがあんたも安全だってことで、手っ取り早く天界に行きたいんだけど、それでいいよね。うん、異議なし」

 その台詞は俺が言わないと意味がないのでは。

 少女ははなから俺の意見など無視する構えで、勝手にさっさと自分の羽をだしやがった。

「さあ、あんたも空を飛ぶ準備をしなさい。さっきのあたしみたいに、高らかと宣言するのよ」

「わ、分かったよ……」

 さっきは急を要していたということもあって、呪文を唱えるには抵抗がなかったが、このように畏まってしまうと、いかんせん気恥ずかしい。戸惑っていると案の定、少女から「早くしろ」とにらまれた。

 仕方ない。俺は、今、この瞬間、大魔法使いに転職する!!



「天駆ける力を我に! フライ!!」



 まばゆい光が俺の周りを取り巻く。

 そして、少女と同じように、俺の背にも真っ白な羽が、本当に生えやがった。

「う、わぁっ……」

「……やっぱり、使えるのよねぇ」

 軽く地を蹴ってみる。

 すると、体は簡単に、宙に浮いた。

 地球の重力なんて、全く感じないほどに。

「じゃあ、さっさと天界へ行くわよ。あたしについてきて」

 少女はそういった途端、俺を先導するなんてことを瞬時に忘れたらしく、ものすごいスピードで天空に昇っていった。

「お、おいっ! ちょっと待ってくれよ!!」

 少女の姿が米粒くらいになってしまったが、見失わないように、俺も必死の思いで後をついていった。






「そうだ、あんた、一応聞いておくわ」

 ロケットのようなスピードで先頭を切っていた少女が、いきなりその速度を緩めた。慌てて俺もそのスピードに合わせる。今更何を愚痴っても聞いてもらえないので、俺は素直に少女の言葉を聞いた。

「名前。あんたみたいな人間にも固体識別名はあるんでしょう?」

「そんな、人を何かの標本に載った生物みたいに言うなよ」

「あたしにとっては、あんたの名前もショウジョウバエも、一緒の項目として頭の中に分類されるわ」


 ハエと一緒なのかよ。


「他人の名を聞く前に、自分の名前を言わないといけないんじゃないのか?」

「そんな決まり、あたしの中には存在しない」

 ったく、ああいえばこういう。

 仕方なく、俺は自分の親に幸せを願ってつけられたありがたい名を、この俺をハエと同一視しやがる奴に言った。

「ふーん、志稀シキっていうの。字面だけだったら完全にあんた女ね」

「うるせえ、名前には拒否権がないんだ。そういう、お前はなんていう名前なんだよ」

「あたしの名前を知ったところで、それを活用する日は来ないでしょうけれど、しゃーなしで教えてあげるわ」


 少女は、くるりとこちらを向いた。

 そして、名を言った。

 自分の存在を目いっぱい誇示しながら。


「あたしの名前は、カナデ。演奏の『奏』と書いてカナデと読むわ。心に深く、刻み込みなさい」


 できれば速攻「わすれる」コマンドで忘れてやりたい。ここ数時間で起こった全ての出来事を。

 そんな思いを知る由もなく、羽少女「奏」は首にかかった長い髪を後ろへ払い、さっさと前方を向く。

「じゃあシキ、改めて出発するわ。早くしないと今日中に着かないじゃない」

「え、そんなに遠いのか!? 俺はてっきり五分くらいで着くものかと……」

「あんたを連れてるから、私だってゆっくり飛ばなくちゃいけないのよ。いつもならすぐに着くんだけれど」

 俺は、今の速度でも十分スピード違反モノだったのだが。天界人とやらは、奏のような輩ばかりなのだろうか。よく衝突事故が起きないものだ。

「ちょっとペース上げるわよ。ついてきて」

 と、言うが早いか、奏はさっきの二倍以上の速さで大空へと舞い戻った。

全然、「ちょっと」じゃないと、俺がぼやく暇もなく。

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