第2章:羽少女
「あ、あの……」
危険な奴かもしれない。そんなことは頭から吹っ飛んでいた。ただ、こいつが何者なのかを知りたい、その一心で声をかけた。しかし、謎の羽少女は、何事もなかったかのようにすっくと立ち上がり、あたりを見回した。その目には俺が映っていないのだろうか。完璧に無視された感が俺に残る。
その後何度も何度も俺は呼びかけた。しかし一向に返事がくることはない。俺は仕舞いには強引に、少女の肩をつかみ言った。
「なぁ、おいっ!!」
「!!?」
少女は初めて俺の存在に気がついたかのように、丸い目をさらに大きくさせて将に飛び上がるほど驚いた。この反応に呼びかけた俺の側も驚いちまうほど。
「な、ななななな!!! ど、どういうことっ!!?」
少女は咄嗟に俺から一定の距離をとった。ありえない、訳が分からない、という言葉を連呼し、動揺を隠せないようだった。しかし、声をかけた俺の方がこの状況を理解できない。
「なぁお前、何なんだっ!? 宇宙人かっ!?」
少女は俺の言葉を無視し、なおも動揺中である。ぶつぶつと訳の分からぬ事をひとりごち、頭を抱えたりそこらへんを歩き回ったりしている。俺はただそれを黙って見ているしかできなかった。
と、その時。
ギシャアアッ!!
「!!?」
少女の背後で空間が黒く渦巻き、その中から血に飢えた獣のような鳴き声が聞えてきた。
そんな視覚的、聴覚的エフェクトで、この中からヤバい奴がでてこない訳がない。
案の定、(というか、このときの俺がこんな冷静な分析をしていられるはずはないが)そこからは見るからにモンスターですよと言わんばかりの輩がでてきやがった。俺はもう、それを凝視するのみ。
「っ! こんな時に限って!!」
少女は狼モンスターに対峙した。そして、どっから出したのか全く分からないが、手にはいつの間にか武器とおぼしき杖を持っていた。それで少女は戦うかと思いきや。
「これっ!」
「え、ええっ!!?」
少女はあろうことか、何の関係もなかろうと思われる、また戦闘能力ゼロであろうこの俺に、その杖をよこした。いきなりのバックパスに思わず落としかけるぐらいだ。
「とりあえず、自分の身は自分で守って!!」
「ちょ、ちょっと!!どうやって――」
使うのかという言葉を発する前に、少女は空高く舞い上がった。