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第4話 お呼びでない奴ら


 王都から北の果てにある辺境の地までは馬車で半月程かかる。

 俺はギルドが手配してくれた馬車に揺られながらこれからのことを考えていた。


 呪いによって人化以外の魔法が使えなくなった俺にできることはいくつもない。

 自力で呪いを解く方法を探すか、戦士などの魔法を使わない冒険職に転職するか、いっそのこと冒険者を引退して別の道を歩むかの三点に絞られる。


 時間は充分にある。

 当面は適当な依頼をこなしながらゆっくりと今後何をするべきかを考えてみるとしようか。


 幾度も昼と夜を繰り返した後にやがて馬車は深い森の入り口にさしかかった。

 ここから先は人間たちの勢力が及ばない魔物達の領域だ。

 その為にこの辺り一帯は魔の森と呼ばれている。


「ありがとう。日が暮れるまでには戻ってくると思うからここで待っていて下さい」


「了解しました。お気をつけて」


 俺は御者に礼を言うとひとり魔の森の中へと足を進めた。

 森の中は深い木々に日光を遮られ、広間だというのにまるで夜の帳の中にいるような錯覚に陥る。

 こういった場所では光球(ライト)の魔法で周囲を照らしながら進んでいくところだが今の俺は魔法を使うことができないので松明の灯りのみが頼りだ。

 途中で魔物たちの気配を感じる度に進路を変え、くねくねと蛇行するように目的の薬草があるというドラゴンの住処へ向かった。


 そんなこんなで一刻程歩いたところで空から光が差し込んでいる一帯に辿り着いた。

 見れば先程まで陽の光を遮っていた頭上の木々が横に薙ぎ倒されており青空が顔を覗かせている。

 俺はさらに神経を集中し周囲の様子を探る。

 この光景は間違いなくドラゴンの縄張りに入った証拠だからだ。


 野生動物は樹木に爪痕を刻んでこの場所が自らの縄張りであることを示すことがあるが、ドラゴンはその巨大な爪で樹木そのものを切り倒して自身の縄張りを主張するのだ。


 孤高の存在であるドラゴンは基本的に群れることはない。

 一度縄張りの中に足を踏み入れてしまえば同じドラゴン同士でも凄惨な殺し合いが始まるという。


「……よし、この近くにはいないな」


 まだ縄張りの外にいるとはいえドラゴンに見つかれば餌と認識されて襲われる可能性もある。

 幸い近くにそれらしい気配は感じられない。

 ドラゴンの身体から溢れ出る魔力は強大であり、近くにいれば気がつかないはずがない。

 俺はほっと胸を撫で下ろした後、気を取り直して依頼に取りかかる。

 この倒れている樹木の先がドラゴンの縄張りということはお目当てのドラゴンハーブが近くに生息しているはずだ。

 縄張りに入るぎりぎりの位置で足元を注意深く探るとまるで竜の鱗のような形をした葉──ドラゴンハーブ──がところどころに生えている。

 俺は周囲を警戒しながらドラゴンバーブの採集に取り掛かった。

 あまりグズグズしていたらいつドラゴンが現れるか分からない。

 慎重かつ迅速に袋の中にドラゴンハーブを積め込んでいく。


「よし、このくらいで良いだろう」


 袋一杯にドラゴンハーブの採集を終え帰路に就こうとした時だった。


 ガサッ。


 近くの茂みから物音が聞こえた。


「誰だ!?」


 俺は即座に臨戦態勢に入り周囲を見回すといつの間にか柄の悪い十名程の男たちが俺を取り囲んでいる。

 どう見てもカタギの人間ではない。

 強大なドラゴンの気配を警戒するあまり、俺に近付いてくる小さな気配に気づくのが遅れてしまったようだ。


「お前ら盗賊か?」


 そう問いかけると盗賊の親玉と思われる髭面の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら答えた。


「げへへ。泣く子も黙るゴンザレス盗賊団たぁ俺たちの事よ。生きて帰りたければ金目の物は全部置いていきな」


 こんなところで盗賊に襲われるなんて全くついてないと思う。

 俺じゃなくて盗賊たちの方が。

 何せ俺はまだ依頼の途中で彼らを満足させる程の大金は持っていないからだ。

 俺はやれやれと肩を竦めながら答えた。


「残念だけど今あんまりお金は持ってないんだ。そんなことよりここはドラゴンの縄張りだぞ。お前たちこそ死にたくなければさっさどどこかへ行った方がいいんじゃないかな」


 俺が忠告をすると盗賊たちは顔を見合わせて笑った。


「そんなことは百も承知よ。ドラゴン様のお陰でこの辺りには衛兵や王国の軍隊も近付かねえからな」


 どうやらこの盗賊たちはここに棲息しているドラゴンを隠れ蓑にしているようだ。

 確かにドラゴンに近付かないように注意さえすれば逆にこの辺りは隠れ家としてはうってつけかもしれない。

 こいつら見た目と違ってそれなりに悪知恵が働くようだ。


「悪いが俺様は気が短いんだ。もういい、野郎どもこいつの身包みを剥いじまいな!」


 一向に言うことに従わない俺に対して業を煮やした盗賊たちが一斉に襲いかかってきた。


 しかし俺はこれでもSランクの冒険者だ。

 接近戦は得意ではないとはいえ、長い冒険の中では魔物の奇襲を受けて已む無く肉弾戦をしなければならないこともよくあった。

 だから戦士などの専門職には及ばなくてもこんな盗賊相手に後れを取ることはないんだ。

 俺は盗賊たちの攻撃を軽々とかわし、右手に持った杖で盗賊のひとりをぶん殴った。


「ぐへえっ」


 こめかみに強い衝撃を受けた盗賊の男は一瞬にして昏倒した。


「ああっ、ブッチャーがやられた!」


「こいつ、結構強いぞ」


「親分、どうしやす?」


 盗賊たちは狼狽えながら後ろに下がってゴンザレスと名乗った親分に助けを請うと、ゴンザレスは身構えながらゆっくりと前に出てきた。


「てめえ一体何もんだ……げえっ、その胸についているマークは……」


 ゴンザレスの見つめる先、俺の胸には双頭の鷹が描かれた銀色のバッジがあった。

 これはSランクとなった冒険者にギルドから授与される特別な物だ。

 それに気づいたゴンザレスは途端に態度を変える。


「あんた、Sランク冒険者だったのか……」


「ん? ああ、そうだけど」


「へへへ、これは失礼しやした……お名前を伺っても?」


「……ルカだが?」


「げえっ、あの歩く天変地異と呼ばれたルカ様ですかい!? よりによってとんでもないお方に喧嘩売っちまった」


 どうやら俺の名前は盗賊たちの間にも知れ渡っていたそうだ。


「うわあああ、命だけは助けてくれ!」

「俺はまだ死にたくねえ!」


 幸い俺が魔法を使えなくなったことはまだ伝わっていないようで、恐れをなした若い手下たちが森の奥に脱兎のごとく逃げ出していった。

 まったく大袈裟だな。

 もし魔法が使えたとしても別に取って食ったりはしなないよ。


 まあ後で衛兵には突き出すけどな。


 半ば呆れながら逃げていく盗賊たちを眺めているとゴンザレスが血相を変えて叫んだ。


「お、おい馬鹿野郎! そっちに行くんじゃねえ!」


「おい、どうしたんだ?」


「ルカの旦那、あの先には今ドラゴンがいるんです!」


 ゴンザレスは手下を必死に止めようとするが恐怖のあまり錯乱した手下たちの耳には届かない。


 次の瞬間大地が大きく震えた。


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