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第37話 呪われた聖女



 森の中央で睨み合う俺たち魔の森連合軍と聖堂騎士団。

 今聖女セインは俺の人化魔法の射程内まで近付いている。

 もし俺の仮説が正しければセインは人間に化けている魔族のはずだ。

 人化魔法を解除すればその正体を現すはず。


 そういえば今までの戦いでセインは一度も神聖魔法の類を使用しなかった。

 いずれも禁忌の魔法をそれらしくカモフラージュしていたに過ぎない。


 このチャンスを逃す手はない。

 セインの正体を暴くことができれば聖堂騎士団も魔族に誑かされていたことに気付き無益な戦いは終わるはずだ。

 俺は躊躇うことなくセインに向けて杖をかざし魔力を放った。

 杖の先から閃光が走り、一瞬何も見えなくなる。


「……今のはめくらましのつもりかしら? 往生際が悪いですね」


「あれ?」


 しかし視界が戻った後もセインの姿は変わっていない。

 つまり彼女は間違いなく人間だ。


「あちゃー、()()()は当てが外れたか……」


「聖堂騎士団の皆さん、今我々の目の前に魔の森の魔物たちが集結しています。今こそ王国に仇なす邪悪な魔物たちを一匹残らず排除するのです!」


「おう!」


 聖堂騎士団はセインの号令でメイスを構えこちらに向かってくる。


「舐めた口をききやがって、返り討ちにしてやれ!」


 それに対してトーレンたちも負けずに迎撃態勢を取る。

 小細工なしの総力戦。

 戦力は互角……いや禁忌の魔法を使うセインが向こうにいる以上こちらの方が不利だ。


 しかしこの状況を打開する方法がひとつだけある。


 俺は懐から一冊の魔道書を取り出してマロンに投げ渡した。


「マロン、こいつを受け取れ!」


「これは?」


 マロンが受け取った魔道書の表紙に描かれたウィールス子爵家の紋章を見てセインの顔色が変わった。


「あなた、まさかその魔道書は……」


「セイン、お前が一番よく知っている魔導書だよ!」


 俺がウィールス家の屋敷跡から回収した魔道書について魔法卿は言っていた。

 これは相手を意のままに操れる禁忌の魔法だと。


「誰かあの娘が持っている魔道書を奪い取りなさい!」


 セインは必死の形相で聖堂騎士たちに命令する。

 しかし聖堂騎士の前にトーレンたちがマロンの前に立ちはだかる。


「マロンその魔道書と契約してみろ」


「これを? ……分かった、ルカがそういうのなら」


 マロンが魔道書に手をかざして魔力を流し込もうとしたその時だった。


「あれ?」


 突如マロンの手の中から魔道書が消えた。

 振り向くとそこには魔道書を手にほくそ笑んでいるイーシャがいた。

 一瞬の隙をついてマロンの手から奪い取ったのだ。


「詰めが甘いよねえ」


「よくやりましたイーシャ」


「そいつをこっちに回せ!」


「よしきた!」


 イーシャがテラロッサに魔道書を投げし、そこから更にダスターにパスをする。


「お前たちどうやって檻から出てきた!?」


「あははっ、シーフの私が檻の中で大人しくしているとでも?」


 イーシャは愛用の針金をくるくると回して見せびらかせる。


「誰かあいつを止めろ!」


「駄目ですルカさん、もう間に合いません!」


 トーレンたちは魔道書を取り返そうとダスターたちを追いかけるが聖堂騎士に行く手を阻まれ瞬く間に魔道書がセインの下に届けられる。


「よくやってくれましたダスターさん。これさえあればバンビーナ王国は我々ズクニュー家のものになります」


「ああ、これで約束は守って貰うぜ」


「没落したグレイメン侯爵家の再興があなたの望みでしたね。良いでしょう私が玉座に就いた暁にはその望みを叶えてあげましょう。あはははははっ」


「玉座に就く?」

「聖女様、一体何を言っておられるのですか?」


 聖女セインの突然の変貌に聖堂騎士団がざわつき始めた。


「目に見える全ての者を意のままに操ることができるこのマリオネットの魔道書が私の掌中に収まった今、もう慈愛に満ちた聖女を演じる必要はないわ! さあ愚かな者どもよ、新たなる女王の誕生を祝福しなさい!」


 セインは魔道書に向けて手をかざして魔力を流し込む。

 魔道書との契約が交わされ魔道書の中に書かれていた魔法がセインの頭の中に流れ込んでくる。


 契約は一瞬で終わった。

 ようやく自分たちが騙されていたことを理解した聖堂騎士団は即座にセインを包囲する。


「聖女セイン……いや逆賊セインティアラ! 今までよくを我々騙してくれたな」


「早くその女を取り押さえろ!」


「でも俺たちを意のままに操る魔法だって……」


「お前先に行けよ……」


「いや一番槍はお前に譲るよ……」


 騎士たちはセインの魔法を恐れてそれ以上近付けない。

 その様子をダスターはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら眺めている。


「ぎゃはは、お前ら迂闊に動かない方がいいぜ。ちょっとでもセインティアラ様に刃向かってみろ。次の瞬間物言わぬ操り人形に変えられて仲間同士で殺し合いをさせられるのがオチだぜ」


「……」


 ダスターがセインに視線を送ると顔面を蒼白にして冷や汗をかいている。


「……そうですよね? セインティアラ様」


「え、ええ……お前たち大人しく私に従いなさい。……そうすれば命だけは……助けてあげるわ」


 セインはしどろもどろに答えた。

 それはとても強大な力を得た人間が他者を支配しようとする態度ではない。


「何か様子がおかしいな」


 聖堂騎士たちもセインの様子に違和感を覚え顔を見合わせている。


「ちょっと通してくれ」


 俺はセインを囲む聖堂騎士をかき分けながらゆっくりと前に出て言った。


「セイン、お前もう禁忌の魔法は全然使えないだろ?」


「な……何を言い出すのですか。私はこの魔道書で全てを支配する力を……」


「だってこれお前が探していたマリオネットじゃなくて人化魔法の魔道書だぞ?」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] もしかして聖女は悪魔とかと契約してた感じで人化の魔導者によってその契約がなくなった感じですかね? [一言] もしかしてダスター以外のイーシャ達は主人公達とグルな感じですか?
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