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第35話 魔の森の王



 魔の森の一大勢力だったケンタウロス族を従えた後は早かった。

 残った魔物たちも俺たちには敵わないと理解してなし崩し的に軍門に下ったのである。


 これで漸く聖堂騎士団を迎え撃つ準備が整った。

 俺は従えた種族のリーダーたちを森の中央に集める。


「それではこれから対聖堂騎士団の作戦会議を始めたいと思う──」


「ちょっと待って下さい」


 会議を始めようとしたタイミングでケンタウロス族のリーダーが待ったを掛けた。


「どうした? 何か気になることでも?」


「その前にひとつ。私たち魔の森連合の主はルカさんということで良いんですか?」


「うん? まあそういうことになるのかな」


 今更な質問だが確かにあまり考えたことはなかった。

 やっぱり便宜上はそうなるんだろうな。

 ケンタウロスのリーダーはかしこまって言う。


「承知しました。何なりとご命令下さい魔王様」


「ま……魔王?」


「魔の森の王となられるのですから魔王と称するべきでしょう」


 戸惑う俺を余所にトーレンたち他の種族のリーダーたちもうんうんと頷きケンタウロスのリーダーに賛同の意を示す。


「ちょっと待ってくれ。俺は一応バンビーナ王国の人間だぞ。勝手に王だなんて名乗れる訳が無い。盟主が必要だというのなら俺よりもマロンの方が適任じゃないか? 長くこの森の絶対的な支配者として君臨してた実績もあるし」


 いち冒険者にすぎない俺だ。

 いきなり魔王を名乗れとか言われても困る。

 俺は助けを求めるようにマロンに視線を送る。


「私みんなを支配なんてしてなかったよ」


 マロンは首を横に振りながら答える。

 思い返してみればマロンは長く魔の森の中で本能に従うまま食っちゃ寝の生活を続けていただけだ。

 他の魔物たちはマロンを恐れていたがマロン本人には彼らを支配しているというつもりは全くなかった。

 しかしこのまま彼らに乗せられて勝手に王を名乗ってもいいものだろうか。

 最悪の場合諸外国を巻き込んで外交問題に発展したりしないだろうか。

 一介の冒険者である俺にはその辺りの判断がつかないが、幸いにもこの場にはマリシア王女が同席している。

 王族ならばその辺りも詳しいはずだ。

 俺はマリシア王女に意見を伺う。


「皆さんあんなこと言っていますが、マリシア王女はどうお考えですか?」


「そうですね。この魔の森はどこの国の領地でもありませんし、私が指図をする筋合いはないと思います。この地を治める者が必要だというのでしたら皆様が言う通りルカ様が王となって彼らを導くのが宜しいのではないでしょうか?」


「そうですか」


 確かにこのような大所帯は誰かがまとめ役にならなければちょっとしたことで瓦解してしまうだろう。

 今一番重要なことはマリシア王女を守る為に魔の森の皆がひとつになって聖堂騎士団を迎え撃つことだ。

 俺は覚悟を決めた。


「それでは不肖ルカ、魔の森の盟主をさせて頂きます」


 俺がそう宣言した瞬間、拍手が巻き起こった。


「新たなる魔王の誕生だ!」

「俺たちを導いてくれ!」


「いや、とりあえずの話だからね? 聖堂騎士団を撃退した後で色々問題になったらすぐにでも解散するからね?」


「魔王様、文句を言う奴がいたらオレたちがぶっとばしてやりますよ」


「トーレン、いきなり問題になりそうな発言をするじゃない」


「ルカが王様になるなら私が王妃になる」


 普段は大人しいマロンまでこの空気に乗せられたのかおかしなことを言い出した。


「じゃあオレは将軍に立候補してもいいですか」


「それでは私は大臣に……」


 それに釣られてみんな好き勝手にやりたいことを口にする。

 まるでごっこ遊びだ。


「もう好きにしてくれ。それよりもそろそろ対聖堂騎士団の作戦会議を始めたいんだが……」


「はい、魔王様!」


 俺の一言でリーダーたちは静まり返った。


 女神の加護を受けた聖堂騎士団は人間同士の戦いよりも魔物との戦いを得意としている。

 特に厄介なのが彼らが使う破邪の魔法だ。

 まともに食らえば並の魔物は一瞬で塵と化してしまうだろう。

 だからなるべく人化魔法で人間に近付けた状態で当たって貰う。

 人間には破邪の魔法は効果が無いのだから。

 ケンタウルスたちはその機動力で相手を撹乱し、ミノタウロスやオーガたちがそのフィジカルを活かして敵の進軍を正面から食い止め、ハーピィたちは空から攻撃を仕掛ける。

 他の種族もそれぞれの特技を活かして敵に当たらせる。

 マロンとジェリーは切り札だ。

 戦局を見てここぞというタイミングで敵の喉元に突っ込ませる。

 これで聖堂騎士団に対抗できるはずだ。


 作戦会議が終わると皆々配置について聖堂騎士団の到着を待つ。


「さて……」


 俺は鞄の中から一冊の魔道書を取り出して眺めた。

 その表紙にはウィールス子爵家の紋章が描かれている。

 人化以外の魔法が使えない俺は人間である聖堂騎士団相手ではあまり戦力にならない。

 いざとなったらこの魔道書の力に頼るしかない。


「おいルカ、その魔道書ってまさか……」


 捕虜として檻の中に閉じ込められているダスターが目敏くそれを見つけ問い詰めてきた。


「これか? 出来れば使いたくない魔法なんだけどな……」


「お前人化以外の魔法使えないんじゃなかったのか?」


「ダスター、お前は知らないかもしれんがうちのマロンが魔法使いの道を目指していてね。最近は中級程度の魔法なら使えるようになってきたんだ」


「てめえ……セイン様のやっていることを否定しながら自分たちも禁忌の魔法を使おうっていうのか?」


「あくまで最後の手段だよ。それにどの道お前らにはもう関係が無いことだ。檻の中で事の成り行きを指を咥えて眺めているんだな」


「けっ……」


 話は終わりだ。

 俺はダスターを尻目に森の入口へと向かう。










 カチャリ。


 後ろで何かが開く音がした気がする。





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