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第34話 快進撃


 ズクニュー伯爵や聖女セインの正体は人化魔法で人の姿になって人間界に潜り込み王国を乗っ取る機会を狙っていた魔族である。

 あまりにも突拍子もない仮説であるがそう考えれば色々とつじつまが合う。


 確かめる方法はただひとつ。

 俺の人化魔法で彼らの人化を解いてみることだ。

 もし人間ならば何も変わらないが、もし本当に魔族だったら正体を現すはず。


 しかしその前に俺たちにはマリシア王女を保護するという使命がある。

 ダスターから得た情報では教会が有している聖堂騎士団がマリシア王女を捕らえるべくこちらに向かっているという。

 聖堂騎士団は王国の騎士団とは異なり剣や槍での戦いよりも神聖魔法を駆使した戦いを得意としている。

 一筋縄ではいかないやっかいな奴らだ。

 更には背後に聖女セインがついている。

 どんな手を使ってくるか分からない。


「ルカの旦那、マロンの姐さんなら聖堂騎士団なんか簡単に蹴散らせるんじゃないですかい?」


「いや、相手は禁忌の魔法を躊躇いもなく使ってくるような連中だ。油断は禁物、全力で当たらないと」


 この小さな砦では心許ない。

 俺たちはこの砦から更に北に位置する魔の森まで後退することにした。


 魔の森ではミノタウロスのトーレンたちが出迎える。


「久しぶりだなトーレン。俺たちが王都へ行っている間変わりは無かったか?」


「はいルカさん、この森は相変わらずですよ」


「相変わらずか……」


 それはつまりまだ森の中では魔物同士での縄張り争いが頻発しているということだ。

 聖堂騎士団との戦いの最中に横から魔物たちにも襲われたらたまったものではない。

 彼らがやってくる前にマリシア姫の安全を確保する必要がある。

 俺は万全の状態で聖堂騎士団を迎え撃つ為にミノタウロスたちと共に魔の森の掌握に動くことにした。


 まずはミノタウロスたちがその武力で付近の魔物たちに降伏を迫り、従わない者はマロンが漆黒龍の姿で魔物たちを威嚇をし怯んだ隙に俺が人化魔法で人間の姿に変えて無力化させ力ずくで従わせる。

 何の捻りもない古典的なやり方だが力が全てのこの魔の森では効果は抜群。

 コボルト族、オーガ族、ゴブリン族、ラミア族、ハーピィ族等いくつかの種族を軍門に降すことはできたが魔の森全体を制圧するにはどうしても時間が掛かる。

 このままでは魔の森を掌握する前に聖堂騎士団がやってきてしまう。

 もっと急がないといけない。


「トーレン、魔の森で一番勢力を伸ばしている種族は何だ?」


「はい、東のケンタウロス族ですね」


 人の上半身に馬の下半身を持つケンタウロス族は走るのが速く、弓矢を使ったヒットアンドアウェイ戦法を得意としている魔物だ。

 パワー一辺倒のミノタウロス族にとってはこの上なく相性が悪く、何度も苦渋を飲まされてきたという。

 漆黒龍の姿に戻ったマロンでもその逃げ足の速さには追いつけないだろう。


「分かった。じゃあ次はケンタウロス族を狙おう。奴らを従えることができれば他の魔物たちも俺たちに従うかもしれない」


「分かりました。オレについてきて下さい」


 俺はトーレスに案内されて森の中を進みケンタウロス族の縄張りへと足を踏み入れた。

 この辺りは樹木も疎らで地面の起伏もなく、ケンタウロス族の肢を活かすには持って来いの地形だ。


「それでルカさん、どうするつもりですか? オレたちの侵入に気付いたケンタウロスたちが直ぐにでも襲ってきますよ」


「ああ、俺にいい考えがある。ジェリーこっちにおいで」


「うん、私は何をすればいい?」


「こうするのさ」


 俺はジェリーに杖をかざして魔力を放ち僅かに人化を解いた。


 人化率二十五パーセント。

 ジェリーの自我が残っているぎりぎりのラインだ。

 元の巨大なスライムの姿に近付いたジェリーは辺りの地面を覆い、大きなぬかるみ地帯が出来上がった。

 やがて縄張りを侵した俺たちの存在に気付いたケンタウロス族が前方から現れた。


「ルカさん、仕掛けてきますよ」


「分かってる」


 ケンタウロス族は遠くから弓矢を射かけてからすかさず距離を取るいつもの必勝パターンで攻撃を仕掛けてくるがまだまだ距離があるので矢がこちらに届くころには勢いも衰えている。

 俺は手にしたラゴーケイトで飛んできた矢を軽々と斬り落とし、トーレンもまた石斧で弾き落とした。

 それを見たケンタウロスたちは今度は確実に仕留める為に更に距離を詰めてくる。

 しかしケンタウロスたちがぬかるみに足を踏み入れた途端に動きが止まった。

 この水分をふんだんに含んだ重馬場ではケンタウロスたちの自慢の肢も制限されるからだ。


「今だジェリー!」


「はーい」


 俺の合図でジェリーがケンタウロスの足元から襲いかかった。

 ケンタウロスたちは何が起きたのか分からないまま次々とぬかるみに足を取られて転倒する。


 馬型の魔物にとって転倒することは死に直結する重大な事故だ。

 何頭かは肢を骨折したのかそのまま立ち上がることもできずにもがいている。


「よし、もう良いぞジェリー」


 俺はジェリーを人間の姿に戻すと倒れているケンタウロスに近寄った。

 地面に這いつくばって死を覚悟するケンタウロスに向けて俺は人化魔法を掛けて人の姿にする。


「くそっ、私たちの負けだ。煮るなり焼くなり好きにするがいい」


「別に取って食ったりはしないよ。治療をしてやるから大人しくしてろ」


「治療だと? 何のつもりだ」


 俺は人化したケンタウロスの肢を添え木で固定して回る。

 人間の姿なら足の骨折程度なら命に関わることはない。

 しばらくすればまた歩けるようになるはずだ。


 弱肉強食は魔の森の掟。

 戦いに敗れた者は勝者に従わなくてはならないのがこの森のルールだ。


 しばらくしてケンタウロスたちは漸く俺たちに降参の意を示した。



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