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第32話 決着


「いいのかよ? 俺に手を出したらお前ら完全に聖女様を敵に回すことになるぞ。その女を止めてくれよルカ。今ならまだ聖女様に口利きをしてやってもいいんだぜ……」


 腰を引かせながらそう言ってのけるダスターの姿を見て俺は憐れみを感じずにはいられなかった。

 これでもかつてはSランクの戦士として多くの冒険者から一目置かれた男である。

 それが今では聖女セインという後ろ盾がないと何もできないような情けない男になり果ててしまった。

 月日とは残酷なものだ。


「……ケイト、戻れ」


「はい、ルカ様」


 俺はケイトの人化を解いて一振りの剣に戻し拾い上げる。

 それを見たダスターはニヤリを笑みを浮かべて言った。


「は、はは……ようやく自分の立場を理解した様だなルカ。それじゃあさっさとマリシア王女の居場所を教えて貰おうか」


「何を勘違いしてるんだ? 俺がケイトを剣に戻したのはお前や聖女セインに屈したからじゃない。俺の手でお前に直接引導を渡してやる為だ」


「何だと!? てめえ俺をバカにしてるのか?」


 満足に魔法が使えない魔法使い職の俺が戦闘のプロである戦士ダスターに決闘を挑もうというのだ。

 プライドをズタズタにされたダスターは予想通り顔を真っ赤にして怒り狂う。


「いいだろう俺様を舐めくさったことをあの世で後悔させてやるぜ!」


 そう言うや否やダスターは剣を振り上げて飛びかかってきた。

 俺はそれを手にした聖剣ラゴーケイトで簡単に受け止めてみせる。


「どうしたダスター、まさかこれが本気じゃないよな?」


「くそっ、まぐれだ!」


 ダスターは激昂して何度も斬りつけてくるが俺はそれを軽々といなしてみせる。


「ダスター、お前本当に弱くなったな……」


「何だとてめえ!?」


 怒りに身を任せたまままるでチャンバラごっこをする子供のようにでたらめに剣を振り回し続けるダスターを見て俺は悲しくなってきた。


 Sランクの戦士でありパーティーのリーダーだとという立場に胡坐をかき面倒事は全て他人に押し付けてきたダスター。

 もう何ヶ月も自分の力で敵と戦った事はないだろう。

 驕りとはここまで人を腐らせるものなのか。


 一方の俺は人化以外の魔法が使えなくなったハンデを克服する為に毎日剣の鍛錬を欠かさなかった。

 これはその差だ。


「もう終わりにしよう」


 俺は隙を見て聖剣ラゴーケイトを横に薙ぎ払った。


「ぐあっ」


 剣先がダスターの右腕を掠めた。


「くそっ、この程度のかすり傷!」


「いや、もう勝負あった」


 次の瞬間ダスターの傷口から淡い光と共に生命力が流れ出しラゴーケイトに吸い取られていく。

 ドレインの効果が発動したのだ。

 これを止める手段はダスターにはない。


「まだだ、まだ俺は……てめえなんかに……」


 ダスターはふらふらとよろめきながら俺に近付いて腕を掴んだ。


「てめえのせいで……俺は!」


「もう寝てろ」


 俺はラゴーケイトを振り上げるとその顔面に思いっきり柄の底で殴打する。


「ぐべっ……」


 ダスターはついに白目を剥いて前のめりに倒れた。

 彼には聖女セインやズクニュー伯爵についての情報を吐いてもらう必要がある。

 ここで死んでもらったら困る。

 俺は再び人化魔法を使ってケイトを人の姿にしてドレインの効果を解く。


「さて、とりあえずこいつらを馬車までかついで行って情報を吐かせるとするか。ケイト、手伝ってくれ」


「承知しました」


 俺とケイトは三人を縄で縛り上げた後でそれぞれダスターとイーシャを担ぎ上げる。

 そしてもうひとり、俺たちの戦いを横で眺めていたゴンザレスにも声を掛ける。


「なあ、どうして手を貸してくれたんだ? 俺たちがあんたを衛兵に突き出したのを恨んでいるんじゃないのか?」


「へい、それなんですが俺たちあれからずっと牢屋の中で頭を冷やしまして。人々の為に身を削って働いてるマシューさんたちを見てたら俺たち本当に何やってるんだろうと恥ずかしくなってきまして……」


「そうだったのか」


 ゴンザレスは照れくさそうに頭を掻いている。

 やれやれ、盗賊ですら心を入れ替えて真人間に生まれ変わろうとしているというのにダスターたちって本当になんなの?


「旦那、こいつを運べばいいんですね。俺も手伝わせていただきますよ」


 そう言いながらゴンザレスは地面で伸びているテラロッサを担ぎ上げる。


「じゃあ頼むよ」


 俺たちは三人を担いでマリシア王女の待つ馬車へと戻った。


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