第31話 追撃
「くそっ、またしても……ここは一旦退くぞ!」
「またですかダスターさん」
「覚えてなさいよルカ!」
ダスター、テラロッサ、イーシャの三人は形勢不利と見ると尻尾を巻いて逃げだした。
「待てダスター!」
ダスターたちにはズクニュー伯爵家や聖女セインについて色々と聞きたいことがある。
俺とケイトは彼らをは追いかけるがダスターたちは脱兎のごとく逃げていく。
「くそっ、逃げ足だけは早い奴だ」
ダスターたちの姿がどんどん小さくなる。
このままだと追いつかない。
「大丈夫です、逃がしません!」
「何をするつもりだケイト?」
「こうするんです」
ケイトは走りながら身に着けている鋼鉄の鎧を脱ぎ捨てる。
ドスンと大きな音を立てて鎧が落ちた地面には窪みができた。
「……どれだけ重い鎧着てたの?」
「ちゃんと計ったことはありませんが合計で大体五十キロぐらいでしょうか?」
そう言いながらケイトは籠手と兜も投げ捨てる。
彼女が着ていた鎧も人化魔法を使った時に自動的に生成されたものだ。
大きくなったり小さくなったり物質が変化したり、今更ながら本当に人化魔法は変わった魔法だと思う。
上半身が鎧の下に着ていたギャンベゾンのみとなって身軽になったケイトは獲物を狙う狼のような速さでダスターを追撃する。
少しずつダスターたちとの距離が縮まっていく。
これなら追いつけるかも知れない、そう思った矢先にダスターの目の前にひとりのガラの悪い男が現れた。
ダスターはその男の顔を見るなりニヤリと笑みを浮かべながら言った。
「丁度いいところで会ったぜ。ここであいつらを食い止めてくれ」
男はチラリとこちらに視線を送った後で答えた。
「ダスターの旦那、あいつらから逃げているんですかい? そういうことでしたら俺について来て下せえ。こっちに抜け道がありますぜ」
「おお、そいつは助かるぜ。牢屋から逃がしてやった甲斐があったってもんだ」
この男の名前はゴンザレス。
かつて魔の森を拠点に追剥ぎ行為を繰り返していたが俺とマロンが捕まえてこの町の衛兵に突き出した経緯がある盗賊団の親玉だ。
ダスターはゴンザレスに誘導されて路地へと逃げていく。
ケイトがそれを追いかけ、少し遅れて俺もその後に続く。
「うん? あの先って……」
俺は首を傾げながら逃げるダスターたちを追いかける。
この町のことはよく知っているつもりだ。
あの先は確か行き止まりのはず……?
思った通り十字路を曲がるった先でダスターたちが足を止めていた。
「おいゴンザレス行き止まりじゃねえか。てめえ俺を騙したのか?」
「分かった、隠し通路があるんでしょ?」
「……ああ、そこのブロックの隙間に仕掛けがある」
「どこだ?」
ダスターたちはゴンザレスの言う通りにしゃがみこんで隙間を眺めている。
その時だった。
ボコッ!
完全に無防備になっているダスターの頭をゴンザレスがぶん殴った。
「て、てめえ、何をしやがる!」
不意打ちを喰らったダスターは脳震盪を起こしてふらつきながら喚いた。
イーシャとテラロッサは激昂してそれぞれ短剣とメイスをゴンザレスに突き付ける。
「あんたやっぱり私たちを騙したのね?」
「ダスターさん、こいつやっちまいましょう」
「おっと、俺に構ってる暇なんてあるのか?」
「何よ、今更言い訳なんて聞かないわよ……?」
「ぐべえっ!」
イーシャの目の前でテラロッサの身体が宙を舞った。
「えっ、何!?」
「ふふふ……追いついたわよ」
ダスターとイーシャの目前には拳を握りしめたケイトが立っていた。
地面に伸びているテラロッサの顔面にはくっきりと拳の跡が残っている。
何が起きたのかは一目瞭然だ。
ケイトは蔑みの目で二人を見つめる。
「あなたたち覚悟はできていますか?」
「ま……待って、見逃して……私はダスターに命令されて仕方がなく……」
「イーシャてめえ裏切るのか!」
「ダスター、あんたがルカをパーティから追放してから碌な事が起きない! ギルドの依頼も満足に達成できなくなるし、その次には人攫いの罪で投獄される。そして今度はこんな化け物に追いかけられる。もう沢山よ!」
「言いやがったな! 今まで目にかけてやったことを忘れたか!」
忽ち目の前で見るに堪えない醜い言い争いが始まった。
「……見苦しい」
二人の間に割り込んできたのはケイトだ。
「ルカ様、話を聞くならダスターひとりだけいれば良いですよね?」
「うん、そうだね」
「な、何する気? やめてよ、謝るから……」
「ちょっと痛いと思いますけど我慢して下さいね」
ケイトはイーシャの背後に回り込み首の後ろに思いっきり手刀を放つ。
イーシャは悲鳴を上げる暇もなく気を失いその勢いで顔面から地面に激突してしまった。
その容赦のなさに俺は思わず目を背ける。
「さてダスター、後は貴方だけですね」
背後は壁。
完全に逃げ場を失ったダスターにケイトがにじみ寄った。




