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第27話 王国の動乱


 俺たちが国王陛下が崩御されたことを知ったのはミーカン湖から王都マルゲリタへ凱旋してきた直後の話だ。

 原因は急な病だそうだ。


「以前お会いした時はまだまだお元気そうだったのにな」


 俺は王宮で国王陛下に謁見した時のことを思い出し感慨にふける。

 実際にお会いしたのは一度だけだが優しそうな人だった。

 人間の敵であるはずの魔物を従えている俺が周りに疎まれることなくこの国で暮らしていけるのは陛下が色々と取り計らってくれたからだ。

 その感謝の気持ちは忘れてはいけない。


 陛下が亡くなられたとなると陛下のたったひとりの子供であるあの幼い王女が近い内に次の王として即位することになるはずだ。


 王女様はフルネームをマリシア・フォン・バンビーナという。

 生まれつきお身体が弱く寝たきりの日々が続いていたが俺が魔の森で採集してきたドラゴンハーブを調合して作られた万能薬エリクサーによって回復された経緯がある女の子だ。


 この先も色々と大変だろうがきっと魔法卿や大臣ら周りの大人たちが支えになってくれるだろう。

 庶民である俺に出来ることはもう何もない。

 俺は自分の仕事をするのみだ。



 次の依頼を受ける為にギルドへ向かう時だった。

 後ろから妙な気配を感じて振り向くとフードで顔を隠した怪しい人物が俺の後をついてくるのが見えた。

 バレバレなんだよ、尾行するならもっと上手くやるんだなこの素人め。

 俺はマロンとジェリーに合図をして尾行に気が付かない振りをして貰い、曲がり角を曲がったところで咄嗟に建物の陰に隠れる。

 不審者が俺を追って曲がり角にやってきたところですかさず後ろに回り込んで捕まえた。


「俺を尾行しようだなんて百年早いんじゃないかな」


「きゃっ」


「……きゃっ?」


 不審者の可愛らしい悲鳴に戸惑いながら正体を確かめる為にフードを剥ぎ取ると中から幼い少女が現れた。


「え? お前……いやあなたは!?」


 俺は驚きのあまり言葉を失った。

 フードの中から現れたのは他でもないマリシア王女殿下だったからだ。


「姫様こんなところで何をされているんですか? 今は王宮で陛下の喪に服されている時では?」


「ごめんなさいルカ様を尾行するつもりはなかったんです。ここでは何ですので人気のない所に行ってくれませんか?」


「何か訳ありの様ですね。ではひとまずは俺が泊っている宿にいきましょう」


「はい、宜しくお願いします」


 王女様は再びフードで顔を隠し何かを警戒するように辺りをきょろきょろ見回している。

 王侯貴族がお忍びで町に出てくるのとは明らかに様子が違う。

 俺も周囲に気を巡らせて異常が無いか探るが特に異常は見つからなかった。


「大丈夫、この辺りには怪しい気配は感じませんよ」


「はい、ありがとうございます」


 俺の一言で王女は漸く安堵の表情を浮かべた。

 そのまま俺は王女を連れて宿屋の宿泊部屋へと帰ってきた。


「ジェリー念の為部屋の中に誰か潜んでいないか見てきて」


「オッケー!」


 人化魔法を僅かに解いて液体化したジェリーは部屋の中は勿論屋根裏、床下まで侵入して異常はないか徹底的に調べる。


「ルカ、何もなかったよ」


「ご苦労。このまま入口を見張っていてくれ」


「了解!」


「マリシア王女、この部屋の安全が確認できました。何があったのか教えてくれますか?」


 マリシア王女はフードを脱ぐと身体を震わせながら答える。


「ルカ様お願いします、そうか私を匿って下さい。このままでは私もお父様の様に殺されてしまう」


「陛下が殺された? 陛下は病で亡くなられたのではなかったのですか?」


「はい。あれはお父様が亡くなられた夜、私は庭でお父様のことを想いながらひとり泣いていました。少しして私の部屋の中から数人の男女の声が聞こえてきました。怖くなって物陰に隠れて様子を見ているとどうやら私を探しているようでした。そしてはっきりと聞いたんです。この国の王は呪いで始末した。後は王女だけだ。必ず見つけ出して殺せ、と……」


 そう言うとマリシア王女は大粒の涙を流し嗚咽をもらす。


「それで王宮から逃げてきたんです……そこでルカ様を見つけて……」


「事情は分かりました。よく話してくれました。もう大丈夫ですから」


 俺はマリシア王女を胸に抱き締めて慰める。

 王女は俺の胸の中で泣き疲れてそのまま眠りについてしまった。

 俺は王女を起こさないように優しくベッドに運ぶ。


「マロン、マリシア王女の話は聞いたな?」


「うん、絶対に犯人をやっつけよう」


「問題は犯人が分からないことだな。まあ王様を手に掛けるくらいだ。王国の乗っ取りを企むような碌でもない輩に決まっているだろうが……」


「ルカ、誰か来たよ!」


 その時入り口を見張っていたジェリーが部屋に飛び込んできた。


「追手か!?」


 俺たちはマリシア王女の壁になるようにベッドの前で身構える。

 コツン、コツンと靴を鳴らす音がこの部屋に近付いてくる。


 王を暗殺した者の刺客ならば余程の手練れに違いない。

 いざとなったら女将さんには悪いけどマロンをこの部屋の中で漆黒龍の姿に戻してでも抵抗してやる。


 コンコン。


 入口の扉をノックする音が聞こえる。


「……どちらさまでしょう?」


「ルカ君、私だよ」


「この声……ひょっとして魔法卿ですか?」




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