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第26話 湖の支配者

 船の上でまな板の上の鯉のようにぐったりと横たわるジェリー。

 まさか液体の身体を持っているジェリーが船酔いをするとは思わなかった。

 まるで冗談のような状況だが今から岸まで戻る余裕はない。

 なんとか堪えてくれ。


 船上では激しい戦いが続いている。

 次から次へと湧いてくる魔物たちの前に共闘する冒険者たちも徐々に疲れが見えてきた。

 魔物たちはその隙に無力化したジェリーに狙いを定めて襲い掛かってくる。

 ゼリー状のジェリーには物理攻撃は通じないが魔物に丸飲みにされたら養分として吸収されてしまう。

 俺とマロンはジェリーを守りながら戦うがそろそろ限界だ。


「ルカ、もう魔力が尽きそう。どうしたらいい?」


「こうなりゃ仕方ない、一旦人化を解くぞ。いけるな?」


「分かった!」


 俺はマロンの人化を解きドラゴンの姿に戻した。

 その瞬間マロンは翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。

 漆黒龍の巨体では船がその重みに耐えられないからだ。

 マロンにはこのまま上空で魔物と戦い続けて貰う。

 空から襲い掛かってくる鳥型の魔物の群れに灼熱のブレスを放つと美味しそうな臭いを放ちながらこんがり焼けた鳥肉が落ちてきた。

 空の敵はこのままマロンに任せれば大丈夫として問題は湖から船に乗り込んできた魔物たちだ。

 マロンが船に向かって灼熱のブレスを放てば船上で戦っているの俺たちも丸焼けになってしまう。

 俺たちが何とかするしかない。


「そうだジェリー、スライムって水の中でも平気だよな? 窒息したりしないよな?」


 ジェリーは朦朧とする意識の中で答える。


「う……うーん……スライムは呼吸なんかしないよ……」


「だったらいい考えがある」


 俺は船上で横たわるジェリーを強引に抱き上げた。

 丁度お姫様抱っこをする格好になる。


「え? あの……ルカ、こんな時に何をする気?」


 ジェリーは顔を赤らめて慌てふためく。

 何を勘違いしているのかは知らないが今は説明している時間が惜しい。

 俺はそのままジェリーを湖に放り捨てた。


「何で!? ……がぼがぼ」


 ジェリーが溺れる前に俺はジェリーに杖を向けて魔力を放出するとその身体がドロドロに溶けて湖の奥に沈んでいった。


「ルカさん、何をやってるんですか!?」


 その様子を見て他の冒険者たちが俺がおかしくなったんじゃないかと勘違いして問い詰めるが俺は正気だから安心して欲しい。


「いいかお前ら。ジェリーの正体は魔の森一帯を沈めるほどの大きさに成長したウロボロスライムだ。それを今湖の中に解き放った。どうなると思う?」


「どうって……」


 冒険者たちは顔を見合わせた後ハッと気付いて答えた。


「湖の中は地獄のようになっているでしょうね」


「正解だ、二重丸を上げよう。これで水中の魔物は一網打尽だ」


「でもルカさん、その作戦をジェリーさんにちゃんと説明しなくて良かったんですか? ジェリーさん何が起きたのか分からないって顔していましたよ」


「どうせスライムの状態だと自我なんて無いから説明する必要なくない?」


「……ルカさんって結構ドライなところありますよね」


 ジェリーという災厄を湖の中に解き放った影響はあっという間に現れた。

 水中の魔物たちがジェリーが沈んでいった湖底から逃げるように水面に集まりバシャバシャと音を立て飛び跳ね始めたのである。


「ルカさん、あれって……」


「多分あの魔物たちは水中で手当たり次第に襲い掛かってくるジェリーから必死で逃げてるんだろうね」


「それその内我々にも襲ってきませんか?」


「ジェリーが船の上に乗り込んできたら俺がまた魔法で人化するから大丈夫さ。お前らは文字通り大船に乗ったつもりでいいぞ」


「ルカさんジョークのセンスはいまいちですね」


「……ほらさっさと船上の魔物たちを駆逐するぞ」


 しばらく船上に残った敵と戦闘を続けていると突然船が激しく揺れた。

 船の下に現れた巨大な影に気付いた冒険者のひとりが大声で叫ぶ。


「リバイアサンだ! 真下にいるぞ!」


 ジェリーの襲撃を受けて溜まらず浮上してきたリバイアサンはその巨大な身体で俺たちの乗っている船に体当たりする。


「うわあっ、船が沈む!」

「もうだめだ!」


 まるでひとつの島とも見間違う程のリバイアサンの巨体を前に船上の冒険者たちは恐慌に駆られてパニックに陥った。

 しかし俺はこのチャンスをずっと待っていたんだ。

 すかさずリバイアサンに向けて人化魔法を放つとその巨体は瞬く間に美しい女性の姿に変わった。

 それはまさに子供の頃読んだ絵本に出てくる人間の足を手に入れて陸に上がってきた人魚姫を思わせる風貌だ。

 えら呼吸ができなくなったリバイアサンは手足をバタバタさせてもがき苦しみながら水面に顔を出す。


「ぶはっ。助けて、溺れる!」


「ほら掴まりな」


 俺は人化したリバイアサンに手を差し伸べて船の上に引き上げる。


「はぁはぁ死ぬかと思った……ねえ私どうなっちゃったの?」


「お前が湖の中で暴れると洪水が起こって迷惑なんだよ。だから俺の魔法で強制的に人間にさせて貰ったよ」


「暴れる? 何のことかしら」


「しらばっくれるな。百年前もお前が暴れたせいで湖が氾濫して俺たち人間の町がいくつも水没したと聞いているぞ」


「本当に分からないわ。私ずっと眠ってたんだもん。さっきだって突然変なスライムに寝込みを襲われて訳も分からずに逃げて来たのよ」


 どうも話が通じないな。

 だが湖の氾濫の原因については本人に全く自覚が無い事だけは分かった。

 その後色々と話を聞いて分かったことだが、リバイアサンは睡眠時間が長く一度眠りにつくと千年は眠り続けるという。

 その話が本当ならば百年前に暴れた時もリバイアサンは眠っていたことになる。

 とどのつまり本人は暴れたつもりなど微塵もなく、ただ寝相が悪かっただけという可能性が浮上した。

 しかし悪意がないからといっても実際に被害が出ている以上このまま放置する訳にもいかない。

 だから俺はリバイアサンの人化を少し解いてあげた。

 人化率七十五パーセント程で下半身が魚の形になり、我々がよく知る美しい人魚姫そのままの姿になった。

 更に耳のあたりがエラに変化して水中でも呼吸ができるようになった。

 元々巨大な化け魚だったリバイアサンはマロン同様に腕力も強く湖の他の魔物たちに襲われても後れを取ることもない。

 我ながらアフターケアもばっちりだな。

 俺はリバイアサンを人魚の姿で湖に帰してあげることにした。


「この姿ならお前の寝相が悪くても湖が氾濫することはないだろう。もう行っていいぞ」


「待って、まだ湖の中にあのスライムがいるから帰れないわ」


「あ、ジェリーを人間に戻すの忘れてた」


 水面を見ると水中でジェリーに襲われて瀕死になった魔物や水棲生物たちがプカプカと浮かんでいる。

 このままでは湖の生き物が全滅してしまう。

 俺はジェリーの暴走を止める為にもう一度湖の中に飛び込んだ。


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