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第24話 副伯



「ルカ様お帰りなさい。道中は大変だったでしょう。魔導書は見つかりましたか?」


 王都マルゲリタ戻った俺を待ち構えていたかのように宿の前で聖女セインが声を掛けてきた。


「いえ、残念ながらそれらしいものは見つかりませんでした。噂なんて当てにならないものですね」


「え? そんなはずは……!」


「?」


 一瞬聖女セインが険しい目をしたように見えたが直ぐに穏やかな表情に戻る。


「いえ、そうですか……では何か進展がありましたらご連絡下さい」


「はい、分かりました。それではまた」


 俺は違和感を抱えたままセインと別れると宿泊部屋に戻りテーブルの上に荷物を置く。


「さっきの聖女様の表情、何だったんだ?」


 俺は鞄の中から旧ウィールス家の屋敷から回収した魔道書を取り出して眺める。

 あの時の反応から察するに聖女セインはこの正体不明の魔道書が地下室にあることを確信していたに違いない。

 あれは魔導書が見つからなかったと嘘をついた俺を非難しようとした眼差しだった。

 これは本当に解呪の魔法なのか?

 嫌な予感がする。


 しばらく部屋で考えていた俺は魔法卿のことを思い出した。


「そうだ、魔法卿ならこの魔道書について何か分かるかもしれない」


 思い立ったが吉日。

 俺は再び鞄の中に魔道書を仕舞い、マロンとジェリーを連れて魔法卿の屋敷へとやってきた。


「これはルカ様、ようこそおいで下さいました」


 アポなしでの訪問だったが俺のことを魔法卿から聞いていた門番たちは快く中に通してくれた。

 そのまま執務室へ案内される。


「やあ、よく来たねルカ君」


「お仕事中に申し訳ありません。実は魔法卿に相談したいことがありまして」


「ふむ。どんなことかね?」


「はい、これについて何かご存知でしたら教えてもらいたいんですが……」


 鞄の中から件の魔道書を取り出して見せると魔法卿の目の色が変わった。


「ルカ君、この魔道書をどこで手に入れたのかね?」


「これは旧ウィールス家の屋敷の地下室から見つかったものです」


「ウィールス子爵か……何故そのようなところに?」


「はい、先日聖女セイン様に俺の呪いを解く為に必要な解呪の魔道書が旧ウィールス家の中にある可能性がある教えて頂きまして」


「なんだと!? セイン嬢め、どうしてそのようなことを……」


 魔法卿は眉間に皺を寄せながら魔道書を睨みつけている。


「魔法卿はこの魔道書が何なのかご存知なのですか?」


「ルカ君。この魔道書は解呪の魔法ではない。むしろ逆に呪いによって対象を意のままに操れる禁忌の魔道書だ」


「そうだったんですか……」


 ウィールス子爵が後世に残した爆弾という訳か。

 まさか魔道書が解呪ではなく呪いそのものだったとは。


「魔法卿に相談して良かった。危うく聖女様が俺の様に呪われてしまうところでした」


「ルカ君、その認識は違うぞ。これは契約した者が呪われる魔道書ではない。相手に呪いを掛け意のままに操れる魔法を使える魔道書なのだよ」


「え……?」


「セイン嬢め、解呪の魔法があるなどと嘘をついてルカ君にこのような物を取りに行かせるとはやはりあの噂は本当だったのか」


「噂ってなんです?」


「……そうだな、君は知っていた方がいいだろう」


 魔法卿は大きく溜息を吐いた後ゆっくりと語った。


「聖女セインの生まれであるズクニュー伯爵家は教会を取り仕切る司祭の家系であることは知っているね?」


「勿論です。ここバンビーナ王国の人間なら誰でも知っていますよ」


「ではウィールス子爵家はそのズクニュー伯爵の補佐官として発祥した家であることは知っているかね?」


「え? そうなんですか」


 子爵という爵位は別名を副伯といいその起源は伯爵の補佐であるということは知識としては知っていたが、まさか聖女セインの実家とウィールス子爵に繋がりがあったなんて考えもしなかった。

 何やらきな臭い物を感じる。


「ウィールス子爵はズクニュー伯爵家の指示で魔族と呪いの研究を続けていたという噂もあったのだが、決定的な証拠が見つからず結局ウィールス子爵が独断でやったことでズクニュー伯爵家は無関係だという判決が下されたのだよ」


「……」


 もし魔法卿の話が真実ならウィールス子爵はズクニュー伯爵家のスケープゴートにされただけだ。


「ズクニュー伯爵家の生まれであるセイン嬢ならばウィールス子爵の研究内容もよく知っているはずなのだがな。あの屋敷に解呪の魔導書などあるはずがない」


「……つまり、あの屋敷にこの呪いの魔道書があることを知った上で俺に取りに行かせたということですか?」


「そう考えるのが妥当だろうな」


 考えてみればあの屋敷の周辺には危険な魔獣が徘徊しており地下室にはミミックも棲息していた。

 あの女自分で取りに行けなかったから何も知らない俺を騙して取りに行かせたのか。

 こんな恐ろしい魔導書を手に入れようとして一体何を企んでいるんだ。


「ルカ君。聖女セイン……いやズクニュー伯爵家が何を企んでいるのかはまだ何とも言えないがしばらくは我々が監視をしよう。君も警戒を怠らないでくれ」


「分かりました。ところでこの魔導書はどうしましょう?」


「君が見つけたものだ。君が持っていたまえ」


「こんな恐ろしい魔導書を俺が持っていても良いんですか? どうしてそこまで俺を信用してくれるんですか?」


「どの道君は今呪いで魔法を使えないのだろう? もしもの時は改めて回収させてもらうよ」


「あ、そうでした」




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― 新着の感想 ―
[一言] 命あるものを人化させる魔法が使えるならそれを利用しない手はないと考えてますね聖女は………。 もしかして聖女はダスター達を解放して利用するつもりですかね?
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