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第22話 聖女セイン


「魔法卿も人が悪い。てっきり武器卿の屋敷を燃やしたことを断罪されるのではないかと思ってずっと気が気じゃなかったですよ」


「ははは、あの件なら武器卿の不始末ということで結論は出ているよ。だが気を付けるがいい。彼らの他にも君やマロン君に良からぬ感情を持っている人たちがいるからな」


「はい、肝に銘じます」


 自慢ではないが俺は辺境の地で他の冒険者とは比べ物にならない程の活躍をしたと自負している。

 ダスターのように嫉妬の感情を覚える者もいれば、魔物であるマロンやジェリーを恐れ疎ましく思っている者もいるだろう。

 聖剣ラゴーケイトを狙う輩も出てくるかもしれない。


 いつまたそういった連中に因縁をつけられるか分からない。

 自衛の手段を考えなくてはいけないな。


 取り急ぎ不測の事態に即座に対応できるようにマロンとジェリーの二人は常時人化率七十五パーセントの状態で活動して貰うことにした。




◇◇◇◇




 ギルドに戻ってきた俺は今まで通り冒険者としての日々を送っていた。

 但し俺が受ける依頼は魔物の討伐ではなく主に薬草などの素材の収集だ。

 人化魔法によって対象を人化させて意思の疎通を図ることができるようになった今、魔物といえども無益な殺生をするのは気分が乗らないのだ。

 中には人化しても構わず襲いかかってくる魔物もいるが、そういった分からず屋のみは全力で叩き潰させて貰った。


 最近マロンは魔法の習得に励んでいる。

 元々強大な魔力を有していた漆黒龍だが魔法の習得には生まれ持ってのセンスが大きく左右する。

 試しに初級の魔道書を買ってきて契約させてみると瞬く間にモノにしてしまった。

 同じ魔法でもその威力は使用者の魔力に左右される。

 マロンは初級魔法でも上級魔法レベルの威力があることが分かり驚かされた。

 さすがに呪われている人化魔法との契約はさせなかったが、目下中級の魔法の練習中だ。


 ジェリーはそのゼリー状の身体の特性を活かして色んなことに役に立っている。

 扉や宝箱の鍵穴に入り込んであっという間に解錠してしまうのが一番の特技だ。

 残撃や打撃が無効な身体も戦闘では役に立つ。


 二人とも冒険者の道に進ませるつもりはなかったのだが、俺の仕事を手伝いたいという本人たちの希望を尊重して依頼の手伝をして貰っている。


 そして俺は折角手に入れたラゴーケイトを使いこなすべく剣の練習を始めた。

 聖剣ラゴーケイトは名工ドワッケンの魂が宿る生きた剣だ。

 たまに俺の意識を超えて勝手に敵に向かって動くことがあり驚かされることがある。


 依頼を終えて宿に帰るとよくその剣身が返り血や泥塗れになっているが、魔法使いである俺は剣の手入れの仕方などまるで分からない。

 困り果てた俺は人化魔法で人間の姿にして本人に直接手入れの仕方を聞いてみるとケイトは微笑みながら答えた。


「ルカ様、自分の身体は自分で洗いますのでお気づかいなく」


 そう言うとケイトは自分の足で風呂場へと歩いていった。

 元々は金属の身体だけど水に浸かって錆びたりはしないのかとか聞くのは野暮なんだろうな。


 先日はマロンやジェリーと一緒に浴槽に入っていた。

 ジェリー曰く、ケイトは「惚れ惚れするようなすごい身体」らしい。

 自分の目で確認できないのが辛いところだ。


 そんな日々が続く中、魔法卿を通して武器卿のその後についての連絡が来た。

 マロンの件だけではなく治安維持の名目で衛兵を私的に利用してた等の不正行為が新たに見つかり、裁判の結果侯爵の位を剥奪され庶民に落とされたという。

 既に以前のような威厳はなく、ボロボロの衣服を被り抜け殻のような状態でフラフラと川辺を彷徨い歩いているのを見かけたそうだ。


 ダスター、イーシャ、テラロッサの三人やならず者たちも新たに再編された治安維持部隊によって逮捕されて現在は国立刑務所でお勤め中とのことだ。


 自業自得とはいえ憐れな話だ。




◇◇◇◇




 新たな依頼を受ける為にギルドへ向かう途中でのことだった。


「あなたがルカ様ですね」


 俺を呼びとめる声に振り返ると透き通るような白く薄い生地を身に纏った美しい女性がそこにいた。


「はいそうですが。えーと、どちらさまでしょう?」


「お初にお目にかかります。私はセインティアラと申します」


「セイン……まさか聖女様ですか?」


「はい、以後お見知りおきを」


 セインティアラ・カース・ズクニュー、通称セイン。

 ズクニュー伯爵家の令嬢にしてここバンビーナ王国で百年に一度現れるという救国の聖女として多くの民衆から崇められている女性だ。

 普段は礼拝堂で女神様へ人々の安寧を祈り続けることが仕事である為めったに外に出てくることはない。

 俺も実際に目にするのは初めてだ。


「聖女様がどうしてこのようなところに?」


「実はあなたを探していたのです」


「俺を?」


「はい。ルカ様の呪いのことを耳にしまして、聖女としていてもたってもいられずに礼拝堂から出てきてしまいました」


「もしかして俺の呪いを解いてくれるんですか!?」


「はい、きっと解呪は可能です」


「やった! 是非ともお願いします」


 俺は思わずガッツポーズをする。

 さすが聖女セイン様だ。

 お金を取るだけとって逃げて行った教会の神父とは違うな。


 しかし聖女セインは首を横に振りながら続けた。


「ルカ様の呪いは相当に強力なものですので解呪する為には専用の魔道書が必要です」


「解呪の魔道書ですか」


 神聖魔法に属する解呪魔法については現在三種類が確認されている。


 初級解呪魔法リフレッシュ。

 中級解呪魔法ディスペル。

 上級解呪魔法ピュリフィケイション。


 いずれも女神の祝福を受けた聖職者のみが使いこなせる魔法で俺には使うことができない。


 上位になる程強力な呪いを解くことができる訳だが、残念ながら俺の呪いは上級解呪魔法ですら解くことができない程強力なものだった。


「つまり、ピュリフィケイション以上の解呪魔法がこの世に存在すると?」


「その通りです。ルカ様は王都マルゲリタから西にある廃墟のことはご存知ですか?」


「王都の西ですか……ああ、確か王国の重臣でありながら密かに魔族と通じていた容疑で罪に問われて没落した旧貴族の屋敷跡があると聞いたことがありますが……」


 言いながら俺は苦笑いをする。

 魔物であるマロンやジェリーたちを従えている俺も似たような立場だからだ。


「はい、実はその旧貴族、ウィールス子爵は屋敷の地下室で密かに呪術の研究をしていたといいます。そしてその研究結果はウィールス家の没落によって世に出ることなく闇に葬られてしまった」


「そうか、呪術の研究を行っていたなら逆に解呪の魔道書もあるはずということですね! ありがとう聖女様、今すぐにでも探しに行ってきます」


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