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第21話 命の恩人


 グレイメン侯爵家の屋敷も立派だったが王宮はまるでレベルが違う。

 今までは遠目から眺めることしかなかったが、間近で見るこの王宮の美しさ、荘厳さには畏怖さえ感じる。


「綺麗」

「すごーい」

「見事なものです」


 マロンたちも思わず感嘆のため息を漏らす。


「ルカ君、それにマロン君とジェリー君とケイト君もついてきたまえ」


「あっはい」


 魔法卿の声で我に返った俺たちは彼の後ろについて巨大な門を潜り王宮の中に入った。


 内部には美しい絵画や彫刻が所狭しと飾られている。

 それは武器卿の屋敷の中に飾られていた絵画や彫像のように自らの家の歴史と権威を自慢する為の物ではなく、単純に来訪者の目を惹き心楽しませる為のものだ。


 魔法卿は更に王宮の奥へと進んでいく。

 やがて目の前に大きな赤い扉が現れた。

 その両脇には鋼鉄の鎧を身に纏った二人の兵士が控えている。

 


「ここから先は武器は与らせて貰います」


「お役目ご苦労。彼らは武器など持っておらんよ」


「はっ、失礼しました魔法卿」


「陛下、魔法使いルカとその仲間たちをお連れしました」


「うむ通せ」


 扉の向こうから威厳に満ちた深みのある声が響く。

 二人の兵士がゆっくりと赤い扉を開けた。


「ちょっと待って下さい魔法卿。今陛下っていいました?」


「うむ。この先にいらっしゃるのが国王陛下だ」


「ちょ……どうして俺のような一介の冒険者が陛下にお目通りを?」


「君の功績に報いる為に決まっているだろう」


「功績?」


「さあついてきなさい」


 魔法卿は部屋の奥に向かってゆっくりと足を進める。


「マロン、ジェリー、いいか、この先にいるのはこの国の王様だぞ。絶対に失礼がないようにしてくれよ……」


 そう言い付けながら俺は魔法卿の後についていくが、恐らく今この場で一番テンパっているのは俺だ。

 マロンとジェリーはいつも通り普通に歩き、ケイトはその見た目通り騎士然とした堂々たる振る舞いでその後ろに続く。


 玉座の前まで歩いたところで魔法卿は跪いた。

 俺たちもそれに倣って跪く。

 今目の前の玉座にはこの国の王様が座っている。

 王様ってどんな人なんだろう。

 さっき聞こえた声からすると厳しそうな人なんだろうな。


「顔を上げよ」


 陛下の許しを得て顔を上げると玉座に座っていたのは立派な白髭を蓄えた老人だった。

 しかしその威厳のある声とは対照的ににこやかな表情を浮かべている。

 そして玉座の横には幼い少女が微笑みながら陛下に寄り添うように立っていた。


 陛下は玉座から立ち上がって言った。


「冒険者ギルド所属Sランク魔法使いルカ、我が娘を救ってくれたことを感謝する」


 よく分からないが陛下は大層ご機嫌の様子。

 ん? 娘を救ったって何のこと?


「褒美を持て」


 陛下が合図をすると奥に控えていた兵士たちが一つの箱を持ってきて俺の目の前に差し出した。

 王家の紋章が描かれたその箱はいわゆる宝箱というやつだ。


「は、ははー」


 俺は状況が掴めないまま両手でその箱を受け取る。


「大義であった。下がってよい」


「は、ははー。失礼します」


 どうやらもう帰っていいみたいだ。

 国王陛下に対する礼なんて全く知らない俺はケイトの所作を真似てそれらしい挨拶をすると魔法卿の後について逃げるように謁見室を後にした。

 緊張のあまりそこからの記憶は曖昧だ。

 王宮の外に出てきた俺は漸く冷静になり状況を整理する。


 ええと、さっきの老人がこの国の王様でその横にいた女の子は国王の娘……つまり王女様?

 そして俺はどうして国王から褒美を貰ったんだ?

 宝箱を開けると大量の金貨と冒険に役立つ高価な魔道具一式が入っていた。

 腕を組み頭を捻って考えるもさっぱり分からない。


「あの……俺は一体どうして陛下から褒美を貰ったんでしょうか?」


 思い切って魔法卿に聞いてみると呆気に取られたような表情をして言った。


「おや? ギルドから伝達されていなかったか?」


「ギルドから? 何がでしょう?」


「ルカ君は魔の森から陛下の為に命がけでドラゴンハーブを取りに行ってくれたではないか」


「え? あの依頼主って陛下だったんですか?」


 メイアさんからは何も聞いていないぞ。

 ああ見えてメイアさんはどこか抜けてるところがあるからなあ。

 ……いや、違うな。

 普段から依頼者のことをあまり気に掛けていない俺が依頼主のことをちゃんと確認していなかったからか。


「正しくはギルドに依頼を出したのは陛下ではなく大臣だな。王女殿下は生まれつきお身体が弱く、病の床に伏せる日々が続いていたのだ。聖女様でも王女殿下のお身体を癒すことが叶わず、王女殿下をお救いする為には最早女神の万能薬といわれるエリクサーの治癒力に頼るしか方法が残されていなくてな。しかしエリクサーの素材となるドラゴンハーブは漆黒龍の縄張りである魔の森でしか手に入らない。皆も諦めかけていたのだが君が命懸けで取りに行ってくれたお陰で王女殿下はあそこまで回復なされたのだよ」


「そうだったんですか」


「ごめんなさい……」


 その話を聞いてマロンが自分があの場所にいたせいだとしょんぼりしている。

 しかし魔法卿は首を横に振りマロンを慰めるように言った。


「いや、マロン君を責めているわけではないのだ。ドラゴンハーブはドラゴンの身体から溢れ出る魔力をふんだんに吸収して育つという。だからマロン君がいなければそもそもドラゴンハーブは魔の森に存在できないのだ」


「本当に?」


「うむ。それについては陛下も理解しマロン君に感謝している。だから正当な理由もなくマロン君に危害を加えようとする輩は陛下の怒りに触れることになるだろう」


「え? それって……」


「武器卿には相応のペナルティが課せられるだろうな」


 その言葉に俺は思わずずっこけた。

 この人やっぱり屋敷での出来事を知ってたんかい!



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