第18話 ダスターの逆恨み
「ダスター坊っちゃま、申し訳ございません。仕損じました」
「構わん。小娘を落とし穴に押し込めただけでも上出来だ。下がっていろ」
「ははっ」
厳つい顔の執事はダスターに頭を垂れ後ろに下がっていく。
「ダスター、テラロッサたちにマロンを誘拐させようとしたのはやはりお前だったんだな。 どうしてマロンを付け狙う?」
「何故だと!? 知れたこと!」
ダスターは唇を噛みしめながら答えた。
「お前のせいで俺はどれだけ惨め思いをしたことか……【サンブライト】は俺のパーティーだ。それなのに周りの奴らはルカだルカだと……ちょっとばかし派手な魔法を使って目立ってるだけのくせに! 平民の分際で!」
「いや、だからお前は魔法が使えなくなった俺をこれ見よがしに追放したんだろ? 何を今更……」
「だがお前の代わり入った魔法使いは役立たずだった。お陰で満足に依頼もこなせなくなりギルドの連中からも馬鹿にされる日々……なのにお前は……!」
ダスターは感情を露にして俺への恨みつらみを並べるが逆恨みにも程がある。
今まで通りの強力な魔物の討伐は出来なくなっても仮にもSランクの戦士だ。
討伐対象を討伐可能なレベルに落とすだけで良かった話なのにそれは彼のプライドがそれを許さなかったのだろう。
「全部自業自得じゃないか?」
「うるさい! だがな、お前は最後に最高のプレゼントをくれたぜ」
「プレゼント? 何のことだ」
「龍殺しの称号、良い響きだと思わないか?」
「なっ……ダスター、お前何を考えている!?」
ダスターはニヤリと不敵な笑みを浮かべると背中に背負った鞘から一本の剣を抜いた。
その剣先が日の光を反射して周囲に閃光が走る。
「伝説の鍛冶王ドワッケンが鍛えし聖剣ラゴーケイト。我がグレイメン侯爵家に代々伝わる家宝だ。お前も名前くらいは聞いたことがあるだろう」
煌びやかな装飾が施されたその剣を目にした瞬間俺は猛烈な寒気に襲われた。
あの剣には見覚えがある。
それもついさっき……屋敷の廊下でだ。
そうだ、かつて英雄ウォール・フォン・グレイメンが単独でドラゴンを討ち取った時に手にしていたという伝説の剣ラゴーケイト。
柄や剣身に埋め込められた特徴的な美しい魔法玉の数々、絶対に見間違うはずがない。
「ヒャハハッ、その小娘を殺せば俺は龍殺しの英雄として王国の歴史に名が残るってもんだ! 地位も名声も女も思うがままだ!」
ダスターは何かに取りつかれたかのように邪悪な笑みを浮かべながら斬りかかってきた。
「正気か!?」
いくらSランクの戦士ダスターといっても漆黒龍と正面からやりあえるとはとても思わない。
しかしダスターは億することなくマロンの首目掛けて剣を振り下ろした。
カンッ、と金属が跳ね返される音が響く。
伝説の聖剣といえどオリハルコン並の強度を誇る漆黒龍の鱗の前にはかすり傷を負わせるのが精いっぱいだったみたいだ。
「ダスター、無駄な抵抗は止めろ。今ならまだ見逃してやらんこともないぞ」
「ヒャハハ、このラゴーケイトがそこいらのなまくらと同じ剣だと思ったのか」
「何? ……うわっ」
突如マロンの身体がグラつき俺は捕まっている前脚から落ちそうになる。
斬撃を跳ね返したはずのマロンはフラフラと力なく翼を羽ばたかせながら穴の底にゆっくりと落下して行った。
「大丈夫かマロン? 何があった」
ダスターはニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらゆっくりと穴を覗き込む。
「ヒャハハハッ、冥土の土産に教えてやろう。この聖剣ラゴーケイトは一度傷を負わせた者の命を吸い取る力があるのだ。もはや空を飛ぶ力もないようだな」
「まさか……魔法剣か!?」
見ればマロンの傷口からは淡い光がダスターの剣に向かって絶え間なく流れ出ている。
俺は瞬時に剣の秘密を理解した。
対象の生体エネルギーを吸い取るドレインという魔法を知っている。
あの剣に埋められた魔法玉にはドレインの効果が込められているようだ。
一口に魔法剣といってもその生成には熟練の技術が必要となる。
未熟な鍛冶師が生成した魔法剣を使った結果、斬った相手ではなく武器を持った本人に魔法の効果が発動して自爆してしまったという事故も珍しい話ではない。
それなのにこの剣はまるで生き物のように確実にマロンの生命力のみを吸い取っている。
まさに鍛冶王と呼ばれた稀代の名工ドワッケンの執念、その魂が宿っている業物といえるだろう。
しかし今は感心をしている場合ではない。
「マロン、得意のブレスを食らわせてやれ!」
マロンはよろめきながら穴の上から見下ろしているダスター目掛けて灼熱のブレスを吐きだした。
「おっとあぶねえ」
しかしダスターは覗き込んでいた頭を引っ込めて軽々とかわしてしまった。
駄目だ、この穴の中からではダスターにブレスを当てる事は不可能だ。
「ヒャハハハ、漆黒龍もこうなってしまえばお終いだな。いいザマだぜ」
ダスターは再び穴を覗き込みマロンが徐々に力尽きる様子を笑いながら眺めている。
そうしている間にもマロンの生命力が剣に吸われ続けている。
このままマロンが力尽きるのを指を咥えて見ているしかないのか。
いや、俺はマロンが人間として独り立ちできるまでは面倒をみると誓ったばかりじゃないか。
こんな簡単に諦めてどうする。
何か手はないか。
何か手があるはずだ。
あの剣さえ何とかすれば……。
「ん……剣? そうか! マロン、俺を穴の外まで投げるだけの力は残っているか?」
「……!」
マロンはこくりと頷き前脚で俺の身体を掴むと思いっきり頭上へ放り投げた。
俺の身体は落とし穴を抜けてダスターの目の前に転がった。
「いてて……」
俺は受け身をしそこなって地面にぶつけた頭を押さえながらダスターに向けて杖をかざした。
その姿を見たダスターはあざけ笑いながら言う。
「ははは、お前ひとりが穴から出てきたところで何ができるっていうんだ。俺に人化魔法でも使うつもりか?」
「お前にじゃない!」
「何?」
「これでもくらえ!」
俺が魔力を解き放った次の瞬間、目の前に全身に美しい鎧を身に包んだ長身の女性が現れた。




