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第16話 龍化の代償


「うわあああああ!?」


 大通りにならず者たちの悲鳴が響き渡った。


 人化魔法を解除した事で巨大なドラゴンの姿に戻ったマロンがイーシャとテラロッサをその前脚で鷲掴みにする。


「嘘……た、たすけて……あっ……」

「ひい……か……神様……」


 イーシャは恐怖のあまり失神し、テラロッサは震えながら神への祈りを繰り返している。

 ならず者たちもある者は腰を抜かし、またある者は気を失い、中には失禁する者もいる。


 俺は気絶しているイーシャから悠々と杖を奪い返した。


 しかし町中で人化解除をしてしまったことでならず者だけでなく遠巻きに俺たちの様子を眺めていた町の人たちも恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。


「お騒がせして申し訳ありません。ちょっと悪い奴らを懲らしめただけですので安心して下さい」


 人々に危険がないことを説明して回るが、当然というべきかあの漆黒龍の恐ろしい見た目の前では説得力が皆無のようで人々は震えるばかりで耳を貸そうとしない。


 仕方なくマロンに人化魔法をかけて再度人間の姿にすると町の人も少しは落ちつきを取り戻したようだが一度身体に染み付いた恐怖は簡単には取れるものではなく怯えながらマロンから距離を取る。


「参ったな……」


 俺は頭を抱えた。

 これでは王都の民がマロンを受け入れてくれることなど絶望的だ。

 それどころかマロンの方が人間に心を閉ざしてしまうかもしれない。


 俺は思わずマロンに憐みの眼差しを向ける。


 しかしマロンはそんな人々の様子を嫌悪することもなく、地面に落ちたお団子や果物を拾い上げて買い物籠に戻し、まだ怯えて身構えているひとりの年配の女性のところにゆっくりと近付いていく。


 そして籠の中からお団子をひとつ取り出してパクリと口にしてみせた。


「驚かせてごめんなさい。私このお団子大好き」


「え? それはどうも……」


「また買いに来てもいい?」


「え……ええ、もちろんよ。いつでもいらっしゃい」


 マロンが声をかけた女性はさっき買い物をしていた団子屋の店員だった。


「確かに悪い子じゃないみたいね……」


「怖がる必要なんてないんじゃ……」


 マロンの純粋な笑顔を見て周りの人たちも徐々に警戒を解いていく。


「……うちの天ぷらも美味しいよ。是非食べてくれ」


「いやいや、うちのリンゴだって天下一品だ!」


「実は俺たちもこのならず者たちの横暴ぶりにはウンザリしてたんだ。お陰でスッキリしたよ」


 気がつけば先程までの張り詰めた空気も嘘のように消え去りすっかり町の人たちと打ち解けている。

 その様子を見て俺も胸を撫で下ろす。


「なんだ、心配すること無かったじゃないか。それじゃあさっさとこいつらを衛兵につきだして宿に戻るとするか。ジェリーもお腹を空かせて待ってるだろうしな」


「うん、早く帰ろう」


 ここバンビーナ王国では人攫いは極刑もあり得る程の重罪だ。

 未遂とはいえマロンを誘拐しようとしたこいつらは相当重い刑罰を受けることになるだろう。

 下らない逆恨みで犯した罪を牢屋の中で充分後悔するんだな。


 そうこうしている内に騒ぎを聞き付けた前方から槍を手にした衛兵たちが駆け寄ってきた。


「お前たち動くな!」


「あ、衛兵さんこっちです」


 呼びに行く手間が省けたというものだ。

 俺はならず者たちを指差しながら事情を説明する。


「衛兵さんこいつらがうちのマロンを誘拐しようとした犯人です。早く連れていって下さい」


 しかし衛兵たちはならず者には目もくれず俺たちに槍を突き付けながら言った。


「魔法使いルカ、それに漆黒龍マロンだな。お前たちの身柄を拘束する!」


「は? ちょっと待ってくれ。俺たちが何をしたというんだ。人攫いはこいつらだぞ?」


「だ、黙れ! 大人しく我々についてこい!」


 衛兵たちも漆黒龍の恐ろしさはよく分かっている。

 槍を持つその腕が小刻みに震え虚勢を張っているのが分かる。

 どうやら彼らは状況が分かっていないようだ。


 取りつく島もない程の一方的な言い草を見兼ねて町の人たちも俺たちの無実を訴えるが衛兵たちはまるで耳を貸す様子はない。

 しかし衛兵はならず者とは違いれっきとした公務で動いている人間である。

 逆らえば国家を敵に回すことになる。

 力ずくで突破するのは容易いが俺としても事を荒げたくはない。

 俺は杖を降ろして両手を上げ降参の態度を示した。


「仕方ないな。マロン、ひとまずこの人たちに従おう。何か誤解をしているようだけど事情を話せば分かって貰えるさ」


「分かった。ルカがそういうのなら」


 町の人たちが見守る中俺とマロンは衛兵たちにしょっ引かれていった。



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