第14話 サンブライト
「炎の精霊よ邪なる者どもを討ち滅ぼせ、フレアブラスト!」
Sランク冒険者パーティー【サンブライト】から追放されたルカの代わりとして新たに加入した魔法使いであるカナッツが呪文を詠唱し魔力を解き放つと耳を劈くような爆音とともに前方から飛びかかってきたコボルトの群れが吹き飛んだ。
「ダスター、まだ二匹残ってる!」
パーティーの紅一点、シーフ職の少女イーシャが指差す方向を見れば辛うじて爆発から免れた二匹のコボルトが逃げ去っていく。
「くそっ、討ち漏らしてるんじゃねえぞカナッツ。コボルトは繁殖力が高い。あの二匹を仕留めないとまた増えちまう」
王都の外れにある森に巣食うコボルトの群れの掃討。
それが今回【サンブライト】が受けた依頼の内容だ。
しかし新入りのカナッツはルカの代わりとしては実力も経験も全てにおいて役者不足だった。
逃げに徹した獣人型の魔物を仕留めるのはSランクの冒険者でも難しい。
だから仕掛ける前に確実に全滅させられるように綿密な作戦を組まなければならないのだが、今までずっとルカに面倒事を押し付けていた【サンブライト】のメンバーが考えたいい加減な作戦は穴だらけで何の役にも立たなかったのである。
魔物の掃討の依頼は一匹でも逃してしまえば失敗だ。
当然報酬を受けることができないばかりか【サンブラスト】の評判も地に落ちることになる。
勿論ギルドに嘘の報告をするのは論外だ。
後日再びコボルトたちが現れれば信用問題に関わるばかりかペナルティを課せられる場合もある。
結局【サンブライト】の面々は逃げたコボルトを討ち取ることはできずにギルドに依頼の失敗を報告せざるを得なかった。
ギルドへの報告が終わり外に出るとダスターは子供のように喚き散らした。
「おいカナッツ、お前がコボルトを討ち漏らしたせいで恥をかいたじゃないか。もっと真面目にやれ!」
「ちょっと待って下さいダスターさん。あんなに無計画で突っ込んでも逃げられるのは当たり前じゃないですか。やはり予めコボルトの退路を断っておかないと」
「言い訳するな! お前のような役立たずはもうクビだ、どこへでも行ってしまえ!」
「……そうですか、分かりました。今までお世話になりました。もう二度と会う事もないでしょう!」
「ああ、さっさと俺の前から消えろ!」
カナッツが憤慨しながらその場を後にした後もダスターの怒りは収まらない。
「まあまあ。もうあんな未熟者のことは忘れて今後のことを考えましょうよ」
「そうですよ。まずは酒場で一杯やりましょう」
イーシャとテラロッサはダスターを宥めながら酒場へ移動する。
今までと違うのはその目的が依頼の打ち上げではなく自棄酒を飲みに行くということだ。
「くそっ、こんなことならルカの野郎を手元に置いておけばよかったぜ。碌な魔法使いがいやしねえ」
「でもダスター、ルカはもう呪いで魔法が使えないじゃない。今更帰ってきたところで役になんか……」
「いえちょっと待って下さい。そういえば先日ルカの噂を聞きましたよ」
「あ? どんな噂だ言ってみろ」
「ええ実は──」
テラロッサはダスターとイーシャに最近ルカが辺境で活躍しているという噂を話した。
「何だって? あいつの人化魔法が自分以外にも効果がある?」
「ええ、何でもあの漆黒龍や何とかってスライムを人化させて手懐けているそうですよ」
「漆黒龍だと!? 伝説級のバケモンじゃねえか。その話確かなんだろうな?」
「はい、ドリットの町から戻ってきたギルドの御者から聞いた話ですから間違いないと思います」
「ふむ……」
ダスターは顎を擦りながら思考に耽ける。
「よし、いいことを思いついたぜ。お前ら耳を貸せ」
「ルカを呼び戻すんですか?」
「いや今更あんな奴の力を借りるつもりはねえよ。それよりもその人化した漆黒龍を攫ってこい」
「漆黒龍を? 確かに戦力としては期待できるかと思いますが素直に我々の言うことに従いますかね?」
「違ーよ。もっといいことに利用するんだ。お前らドラゴン殺しの称号に興味はねえか?」
「え?」
イーシャとテラロッサは顔を見合わせる。
ダウターはニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら続けた。
「俺たち漆黒龍を討伐したとなれば【サンブライト】の名も上がるってもんだろ?」
「え? 人化した娘を殺すってこと?」
「ダスターさん、さすがにそれはちょっと……倫理的にもどうかと……」
「バカか、所詮は人の姿をしているだけのトカゲだろうが。そんなことはどうとでも理由をつけられるだろう。あの漆黒龍を討伐したとなれば俺たちは王国史に残る英雄になれるぜ」
「……」
「それとも一生このままギルドの連中に馬鹿にされる生活を続けたいか?」
「……そんなのゴメンに決まってるじゃない」
「分かりました、すぐに手配をしましょう」




