第13話 久々の王都
人化したウロボロスライムの身柄を引き取ることになった俺は魔の森のことをトーレンに任せてドリットの町へと戻ってきた。
兵士の詰所で魔の森の状況を隊長のマシューに報告し、再び宿に戻って休息を取る。
それから数日間は毎日魔の森に異常がないか監視をしながら人化魔法についての研究を続ける日々が続いた。
試しに宿泊部屋の椅子や机などに掛けてみたところ一向に反応が現れない。
外に出て町中の野良犬や野良猫にかけたところ普通に人の姿になった。
どうやら人化できるのは生き物限定の様だ。
人化率についても実験を行った。
野良犬や野良猫の人化率を調整してその変化を事細かに研究ノートに記す。
人化率七十五パーセント程では犬耳や猫耳のいわゆる亜人の姿となり、人化率を下げていくに連れて体つきや顔つきが獣に近くなっていく。
大体想像通りの結果である。
実験に協力してくれたワンちゃんやネコちゃんにはお礼に霜降りの肉を奮発してあげた。
次はウロボロスライムについての実験だ。
人化率七十五パーセントで全身が軟体動物の様に柔らかくなり、五十パーセントで半透明なゼリー状の身体に変化した。
その見た目から彼女の事をジェリーと命名する。
この時点ではまだ人の意識はあるようだ。
ゼリー状となったジェリーは身体の形を自由自在に変化させてどんな隙間や穴にも簡単に入り込めてしまう。
偵察とかで活躍できそうだな。
一方マロンについても実験を行った結果、ドラゴンの形態でも俺の言った言葉を理解できることが分かった。
発声器官が人と異なる為に人語を話すことはできないが、ドラゴンの知性の高さが窺い知れる。
人化率五十パーセント程で並の魔物ならまるで相手にならない程強く、戦力としては申し分ない。
──などとついいつもの癖で冒険者視点で評価をしてしまったが、マロンやジェリーに冒険者としての道を強要するつもりはない。
今は成り行き上俺と行動を共にしているが、人間社会に慣れてきたら各々が自分の進む道を見つけてくれればと切に願う。
その後の魔の森は特に異常もなくミノタウロス一族の統治によって安定し始めていた。
もう監視を続けなくてもいいだろう。
後顧の憂いが無くなった俺は久しぶりに王都へと戻ることに決めた。
まだドラゴンハーブ採集の報酬も受け取ってないしね。
ドリッド商会が手配してくれた馬車に揺られること半月、道中特筆することもなく無事に王都へと辿り着いた。
王都についた俺たちはまずは食堂で腹ごしらえをした後でのんびりとギルドへと向かった。
ギルドの入り口の扉を開けると突然冒険者たちが俺に駆け寄ってきてあっという間に俺を囲い込んだ。
「何だ何だ?」
戸惑う俺に冒険者達は一斉に声を上げた。
「ルカさんお帰りなさい!」
「魔の森でのことは聞きましたよ」
「俺にも詳しく聞かせて下さい!」
辺境での俺の活躍は王都にも届いていたらしい。
まるで戦果を上げて凱旋した英雄の気分だ。
呪いによって魔法が使えなくなり、半分逃げるように王都から出ていったあの日からは想像もできない程の歓迎ぶりだ。
「あの漆黒龍を手懐けたんだって? もう王都中で噂になっていますよ。さすがルカさんだ!」
「こっちの蒼髪の女の子が魔の森を水没させたっていうスライムですか? まじパネェっす!」
「お、おう……」
「ルカ、何これ?」
その怒涛の賛辞ラッシュは思わず俺もマロンも引いてしまう程だ。
ジェリーは逆に自分から「私がそのウロボロスライムでーす」と冒険者たちの輪の中に割って入り盛り上がっている。
この陽キャめ。
一方ギルドの壁際に視線を送ると俺が【サンブライト】から追放されたあの日俺をしこたま痛めつけてくれたダスターの取り巻きどもが肩身が狭そうにこそこそしているのが見えた。
俺もあんな目に遭わされて黙っていられる程善人ではない。
あの時の借りをどうやって返して貰おうかと思案していると、冒険者の一人が俺に近付いてきて言った。
「そういえば聞きました? ルカさんをパーティーから追い出した【サンブライト】の皆さん今悲惨なことになっていますよ」
「へえ、何があったんだい?」
「ルカさんがいなくなった後、代わりに別の魔法使いをメンバーに入れたみたいですが、やっぱりSランク魔法使いであるルカさんには遠く及ばなかったみたいで魔物討伐の依頼の失敗が続きましてね。この前もギルドの前でダスターさんがイライラしながら怒鳴り散らかしていましたよ」
「あいつそんなことになってたのか。でも俺も今は人化以外の魔法が使えないけどね」
「ルカさんはその人化魔法で大活躍をされてるじゃないですか。本当に馬鹿ですよねえ。せめてルカさんの人化魔法がどういうものかちゃんと見極めてから今後のことを判断すれば良かったのに。まあ俺たちも人のことは言えませんけどね」
「まったくだ。お前らの手の平返しも大概だぞ」
「ハハハ」
「じゃあそろそろ受付にいってくる」
冒険者たちとの談笑が終わると俺は受付カウンターへと向かった。
そこにはメイアさんがいつも通り太陽のように温かい笑みを浮かべて俺を待っていた。
……いや、俺を待っていたと考えるのは自惚れかもしれないな。
メイアさんはどんな冒険者に対しても明るい笑顔で対応をする。
俺はカウンターに片手をつき、カッコつけながら先日受けた薬草採集の依頼結果の確認をする。
「メイアさん、ドラゴンハーブはちゃんと届きましたか?」
「はい、ちゃんと届いていますよ。依頼者の方とても喜んでいましたよ。いずれ直接お礼を言いたいって。はい、こちらが報酬の金貨十枚です」
俺は金貨が入った袋を受け取ると、姿勢を正しメイアさんの目を見据えて言う。
「お礼といえば実は俺もメイアさんにお礼を言いたかったんです。今回はメイアさんが紹介してくれた依頼のおかげでこれからも冒険者を続ける自信がつきました」
「うふふ、どういたしまして。また良い依頼がありましたら最優先してルカさんに回しますね」
「宜しく」
業務報告も終わりカウンターに背を向けるてその場を離れようとすると、その様子を隣で眺めていたマロンがぽつりと呟いた。
「ルカ、デレデレしてる」
「は!?」
しまった、顔に出ていたか。
俺は慌てふためきながら否定をする。
「いやデレデレなんてしてない! ゼンゼンシテナイヨ」
「分かった、あの女の人を番にしたいんでしょ?」
「つが……いやいやいやいや全然違うよ。何を勘違いしてるんだ? と、とにかく今日は長旅で疲れてるだろう。そろそろ宿にいくぞ」
「ふーん。そうかのかな」
マロンは意味深な表情を浮かべたままギルドの外へ歩いていった。
「あの、マロンが失礼なことを……」
俺は恐る恐るメイアさんを見る。
メイアさんは恥ずかしそうに顔を紅潮させ俯きながら言った。
「いえ……その……可愛い子ですね……」
「そ、そうですね。それじゃあ俺はこれで」
気まずい空気の中俺は逃げるようにギルドを後にした。




