表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

後編

 テレビの前のソファに座ったとき、起動されたズームの分割画面には、すでに何人かの男女が映っていた。


『こんばんは〜!』

『あっ、噂のおねーさん! はじめまして〜』


 双子みたいにソックリな女の子が二人、一つの画面に一緒にいる。残り二つの画面のうち一つは留守で、もう一つには眼鏡の男の子が映っている。


「ハナもルミも酔ってんじゃん、早すぎでしょ」

『だってうちら、アルコール族だも〜ん』

『ね〜!』

『どうでもいいけどダイ、タジの奴がまだ来てない』

「あ、ホントだ」


 大輝、ダイって呼ばれてるんだ。

 友達同士のノリについていけなくて、ちょっと後悔する。やっぱり、やめといたほうが良かったかも……。


 そうしているうちに、もう一人が画面に現れた。綺麗に染まった茶色の髪が印象的な、細身で清潔感のある男の子。モデルみたいにカッコイイのに、手にしているお皿にはイカ焼きの串が載っている。


『ごめん、イカ焼いてて遅れた』

「よしっ、これで揃ったな〜」


 すごい、声までカッコイイ。

 ……あれ、でも、この人どこかで会ったことがあるような。


 なんて思っていたら、画面の向こうのタジくんも私を見て「あっ」と声を上げた。


『お姉さん、また会いましたね。ほら、俺、駅で……』

「あっ、あのときの!」

「えっ、なに? 二人とも知り合いだったの?」


 大輝が驚いたように言う。驚いたのは私も同じだよ。それに、知り合いってほどでもないし。


『駅で定期拾ってもらったんだ』

「そうなの。目の前で落ちたから、拾って追いかけたんだよね」

『あのときは本当に助かりました。その親切なお姉さんが、ダイのお姉さんだったとはね。すごい偶然ですね』

「ホント、すごい偶然……」


 あのときタジくんは黒いマスクを着けて、シャツにジーンズっていう格好だったから、今のポロシャツにスラックス姿じゃわからなかったなぁ。


 でも、それを言ったら私だってマスク姿だったし、今は浴衣なのにタジくんはよく気づいたよね。洞察力が鋭いんだなぁ。


 タジくんに微笑まれて、顔が熱くなるのを感じた。まだお酒、飲んでないのに。心臓がドキドキする。


「それじゃ、始めよっか。まずはカンパーイ!」

『『カンパーイ!』』


 画面の中の男の子たちはそっと一人缶を掲げて、女の子たちはくっついてお互いの缶から飲み合いをしてる。私も大輝と缶をぶつけてカンパイをした。


 飲んでおしゃべりを始めたら、最初に感じたとっつきづらさなんて、すぐにどこかに行っちゃった。

 

 ハナちゃんとルミちゃんは本当に双子で仲良し、メークの話で盛り上がった。タジくんは流行りに強くて、ハルアキくんはマニアック。大輝はバスケの話しかしてなかった。


 オンライン夏祭りって言いながら、ただ食べて飲んでおしゃべりする集まりだったけど、久々に楽しい気分になれた。リアルの飲み会じゃなくても、慣れればこんなに盛り上がれるんだなぁ。


「よーし、じゃあ、締めに花火上げるぜ!」

「えっ、どういうこと?」

「そういう背景があんの。みんなもやって〜」

『おけおけー!』

『それ〜!』 


 みんなの背景が夜空に変わって、そこに色とりどりの打ち上げ花火が咲いていく。ポンポンと作り物の音が耳を賑やかせた。


「すごい……」

『技術の進歩って著しいでしょ。これVRだともっとすごいんだよ。ゴーグルとリングつけてフルダイブだと迫力が全然違う。まず視界が違うし……』

『出た出た、ハルアキのウンチク』

『それウチらにもやらしてよ、ハルアキ〜』

『は、ヤだし』

『冷たい〜! ツンデレ〜』

『うるせー』


 ハルアキくんと双子ちゃんたちがワイワイ騒いでいる。特にハナちゃんの方が積極的に絡んでいくんだよね。


 微笑ましく見守っていると、タジくんが話しかけてきた。


『フウカさんはVRに興味ある? 俺で良かったら貸すけど』

「え……。確かに、気にはなるけど」

『VRの世界でなら、花火ももっと本物に近いよ。わからないことは直接横で教えるし』

 

 えっ、タ、タジくんが横で直接!?

 そんなのムリムリ! 緊張しちゃうもん!


 心臓がドキドキする。

 タジくんみたいにカッコイイ男の子と、デートじゃなくても、そんな風に何か共同作業するなんて……!


 けど、逆にチャンスなのかもしれない。

 たとえ友達の姉だから親切にしてくれてるだけだとしても、もしかしたらカノジョ持ちかもしれないけど!


 ……いやでも、カノジョ持ちだったら嫌だな。

 恋人がいるのに異性にこの距離の男はヤバい。 


「姉ちゃん、どうすんの?」

「どう、しよっかな」

『迷ってるなら触りだけでもやってみようよ。これ、俺のアドレス。QRコード、読めるかな』

「うん、大丈夫」


 結局、言われるままに交換しちゃった。


 それからもうすぐ、オンライン夏祭りは終わってしまった。次もまたすぐやろうねって、来月の同じ曜日に約束もした。


『フウカさん、その浴衣すごく似合ってるよ。最初言いそびれた』

「ありがとう、タジくん。実はおばーちゃんが仕立ててくれたんだ〜」


 嬉しくてつい見せびらかすと、優しい微笑みを向けられた。……私ってば、恥ずかしい。まるでタジくんの方がお兄さんみたい。


 みんなと笑ってバイバイして、ふと気づく。


「あれっ? ラインの交換、してないじゃん! ハナちゃんルミちゃん、忘れちゃってたのかなぁ」

「忘れてないよ。してたじゃん、交換」


 大輝が私のスマホを指差す。

 交換って……そりゃ、タジくんとはしたけどさ。


 ん? それって、それってつまり……?


「えっ! じゃあ、私と仲良くなりたかった人って……?」

「姉ちゃん、それマジ、内緒だからな?」


 私は思わずコクコクと頷いて、スマホの画面を見つめてしまった。どうしよう、何か送ってみるべきかなぁ。それとも……。


 そう思っているうちに、スマホが鳴ってタジくんからのメッセージがポップアップする。私はソワソワしながら画面を開くのだった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ