表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

三羽 豹変


「あなた、相変わらず軽装ね。怪我するわよ?ティルト。」

「ご心配なく。女王陛下。」


 開戦当日。ミナは総大将のティルト公爵と作戦の確認を行っていた。そしてミナは今日、前公爵ルアの死について、気になっていたことをティルトに確認しようと決めていた。


「ティルト。一つだけ、聞きたいことがあるのだけれど。」

「何でしょうか?」

「2年前のルアの死について、あなた何か知っていることはない?ルアはわたくしにとっても姉のような存在だったし、公爵もあれほど立派に努めてくれていたのに‥‥」


 窓の外を見ながらこう言った。

 地図を見ていたティルトは、片方の眉をピクリと動かした。ミナは続ける。


「あのルアが背中を斬られるなんて、よほど気を許していたとしか思えない。ルアの部屋に出入りできる者も限られているわ。」


 ミナは決心したようにティルトに視線を移した。椅子にかけていたマントを羽織ると、ティルトは動きを止めた。しばらく沈黙が続き、彼はゆっくりと振り向いた。その紫の瞳には邪悪な光が宿っており、ミナの瞳をまっすぐに捉えた。


「‥‥私が2年前から王宮内で疑われていたことは承知しておりました。それをさらりとおっしゃるなんて、さすがは女王陛下。」


 突如豹変したティルトの態度に、ミナは驚きを隠せなかった。ティルトは片頬を引きつらせて嗤った。


「あなたもあなたの父親も、まったく愚か者ですね。本来なら、唯一の男子であるこの私が公爵になるはずだったのに、先王があの姉を指名したからこんなことになったのが、お分かりではないのですか?」


(馬鹿だ。わたくしは、直感的にそう思った。聞いてはいけなかった。触れてはいけなかった。でも、わたくしは信じたかった。母が違うとはいえ、弟が姉を殺すなんて、あるはずがないと。でも今、この瞬間に分かってしまった。あの日、ティルトがルアを殺したのだということを。)


「2年前のあの日、姉上は私を馬鹿にしたのです。」



 2年前。


「姉上‼今度の戦の将軍は、私にやらせてください!もう城にいるのは飽きたのです。そこらの兵士よりも、武に長けた私の方がよほど役に立ちます。」

「‥‥好きにすればいいのではないか?」

                      

 私は姉の意外な言葉に驚きと喜びを隠せなかった。でも、姉は呆れたように言った。


「何と浅はかな‥‥この際だから、はっきり言うぞ。将軍やら公爵やらになりたいなら、まずは人を蔑むその性格を改めよ。今のそなたに、国の大仕事を任すことはできない。」




「やはり、ダメなのだと思いました。母の身分が低い私がいくら努力をしても、根っからの貴族である姉を超えることはできないのだと。私は姉が羨ましかった。妬ましかった‥‥殺したいほど。」


 その言葉を聞いた途端、ミナはティルトの頬を叩いた。鈍い音が部屋に響く。


「どうして分からないの⁉︎ルアはあなたを馬鹿にしたわけじゃないわ!︎」

「そんなはずはありません。」

「ルアは‥‥『もっと成長できる』、『いつかは国を引っ張ってほしい』。いつもそう言っていたわ。お母様の身分のことで、あなたが苦しんでいるのを知っていたから。」


 ティルトは呆然とした。そんな事、考えもしなかったのだ。ティルトは震えながら、ゆっくりと剣を抜いた。ミナは一瞬で自分の血の気が引いていくのを感じた。


「姉上‥‥なぜそれを私に直接言ってくださらなかったのですか?この私の劣等感と憎しみは、今更消えることはありません。」


 そう言いながら剣の先を、ミナの胸の前でピタリと止めた。


「ダメよ、ティルト。これ以上罪を重ねないで。」


 ミナは震えながらこう言ったが、ティルトは歪んだ笑みを浮かべた。


「もう、遅いのです。女王陛下。」


 ティルトは剣を持つ手に力を込めた。


                           *


 半獣族領土内。


「そろそろ始めよう。お父様のこの国を、守らないと。」

「勿論でございます。ベル様。」


 大臣が嗤ったのを、ベルは気がつかなかった。運命の戦の幕が上がる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ